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ローマへ。不思議な旅の記憶

「私を変えたあの時、あの場所」

~Vol.29 イタリア ローマ

東京大学の先生方から海外経験談をお聞きし、紹介する本コーナー。

今回は、山﨑 彩先生に、学部時代に旅行されたローマでのご体験をお伺いしました。取り上げた場所については こちら から。

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イタリア語で小説を読めるようになりたくて

——山﨑先生は留学などにも行かれていますが、今回は心に残るご体験として旅行のお話を伺えればと思います。はじめに、渡航のきっかけから教えてください。

山﨑先生: 大学二年生のとき、イタリア語で小説を読めるようになりたくて進学先に文学部南欧文学科を選び、夏にお金を貯めて9月にイタリアへ行ってみることにしました。とはいえ、初修外国語はドイツ語で、イタリア語はまだまったく話せませんでした。偶然にも家の近くにカトリックの女子修道会があったので、シスターに相談して、聖地ローマへの巡礼者が宿泊する修道院に一週間滞在させてもらうことになりました。


日曜日のバチカン美術館

——「初修外国語はドイツ語」、そうだったのですね! 次に、ご滞在で印象的だった出来事を教えてください。

山﨑先生: ローマのバチカン美術館に行ったときのことは忘れられません。ローマでの宿泊先を手配してくださった日本人のシスターに挨拶に行ったら、「毎月最終日曜日は入場料無料でバチカン美術館に行けるから、明日行きなさい」と言われて行きました。無料だったら行ってみようかな、くらいの感覚でした。

美術館は思ったほど混んでいなくて、「ラファエロの間」の「アテナイの学堂」という有名な大きな絵の部屋もがらんとしていました。日曜日の朝の、のんびりとした空気の中でその辺に座って、ぼーっとその絵を見ていました。世の中には、こういうものがあるんだ。ローマまで来て本当に良かった。そう思ったことを覚えています。そのとき、目の前をベビーカーに乗った赤ちゃんが通り過ぎて、「ローマ人は、こんなに小さいときから、こんなに美しいものを見て育つ」と思ったことも覚えています。


——それは、うっとりするようなひとときですね…。

山﨑先生: 日本で、それまで美しいものを目にする機会があまりなかったので、こんなに綺麗なものが本当に存在すると思ったら、ただただ嬉しくて、幸福感がありました。同時にイタリアに対する尊敬の念も生まれたと思います。この国は宝の山みたいな場所かもしれない、とか、イタリア文学を選んで自分は間違ってなかった、とも思いました。

それまでイタリアへの興味は文学だけだったので、テクストの中に書かれていることしか興味がなかったのですが、このときから、イタリアという国のいろいろなことに関心を持つようになりました。


レモンとオリーブに囲まれた修道院

——旅の体験で、文学だけではなくさらに興味が広がっていったのですね。旅行中の、他の印象的な出来事についてもお聞かせください。

山﨑先生: 泊めてもらった巡礼者用の修道院ホテル(門限8時!)は、フランスの修道院が経営していて、中庭にレモンやオリーブの木が揺れるとても美しい場所でした。おいしいごはん(まず、バラの花みたいな形のローマのパンがしずしずとシスターによって運ばれ、その後にスープがまた、しずしずとやって来る…)を三食の宿泊客みんなで一緒に食べ、本当に楽しい滞在をしました。その後、学生のときはローマに行くたびに寄ってました。

今でも、ローマでコロッセオに行くと、「この近くにあの修道院があった」と思い出します。でも、入り口がまったく目立たないようになっているからか、何年か行かなくなったら、もう見つけられなくなってしまいました。コロッセオの近くで育ったというイタリア人の友達に聞いても、そんな修道院は知らないと言うのです。でも今回、原稿の依頼を受けてインターネットで確認したら、まだちゃんとありました(食事はもう朝ごはんしか出していないようです)。ローマでこの修道院に泊まってみたいという人がいたら、私に聞いてください。

yamasaki_コロッセオの写真
「初めてローマに行ったときに泊まった修道院は、コロッセオの近くにありました。この手前の坂を上っていった先だったと思うのですが、この写真を撮った2008年に行ってみたときは、もう発見できませんでした」と山﨑先生。


海外に行っていなかったら、きっと息苦しくてたまらなかった

——物語の中のエピソードのようで、とても美しい情景が浮かんできます…。では、海外体験全般を通じて得られたと思うことがあれば、教えてください。

山﨑先生: 視野が広くなって、もっと自由に考えられるようになったと思います。イタリアへ行っていなかったら、いや、海外に行っていなかったら、外国語で文学を読めなかったら、私は多分、息苦しくてたまらなかったと思います。


——海外渡航、外国語文学がいかにかけがえのないものか、伝わってきます…。少し質問が変わりますが、帰国後、海外体験が活かされているなと思うことはありますか?

山﨑先生: 帰国後に活かされていることが何かあるというよりは、イタリアで自分が一度解体されてもう一度新しく組み上げられた感じです。特にその後に行った留学のときにはそういう感覚がありました。


離れた地へ向かうことが、思考の糧になる

——ぜひいつか、留学時の体験談もお伺いしたいです。最後に、これから留学・国際交流をしたいと思っている学生へ、メッセージをお願いします!

山﨑先生: 「思考の量は、移動の距離に比例する」。これは友人が「エーコの言葉」と言ってプレゼントしてくれました。イタリアの二十世紀を代表する知識人のウンベルト・エーコが本当にそんなこと言ったのか、わかりません。エーコが言ったのか、それとも私の友人が考えたのか。海外に行ったら、自分の内的な世界も広がっていくと思うので、この出所不肖の言葉を贈りたいと思います。

——ありがとうございました!


📚 他の「私を変えたあの時、あの場所」の記事は こちら から!

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