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【ダイヤルアップ探偵団】第9回 エロサイトと出会って、男たちの世界は変わった

90年代末から今世紀初頭にかけて、ブロードバンドインターネットが普及する前夜の「ネット文化」に注目する連載。第9回のテーマは、その出現自体が男子にとっての革命だった「エロサイト」の懐かし話について。

●本稿は、2019年10月に刊行された「懐かしパーフェクトガイド Vol.9」(ダイアプレス)https://www.amazon.co.jp/dp/B081H75LKK/ 掲載するため製作したものです。noteへの掲載にあたり、改稿・再編集を行っています。

 爆発的な情報量を持つインターネットとの出会いは、人間にとって第二の「物心がつく瞬間」だと言っても大げさではない。

 「ネットデビューはいつか」と聞かれて答えられない人はいないはずだ。それは昔語りが大好きな「インターネット老人会」の面々に限らずである。たとえ貧弱なナローバンドモデムでも、ネットワークは我々の人生観を、社会観を、そして生活を変えた。

 たとえば2001年の同時多発テロの後には、「2ちゃんねる」などで政治や社会を語ることが流行した。

 「ネットで真実」と言うと安っぽいけれど、それ以前には、素人同士で政治について語り合うような空間はなかったのだ。幸いにもインターネットは活字の海であり、政治や社会を語るための素養を蓄えるには事欠かなかった(偏っていることも多かったけど)。

 あるいは、個人サイトやSNSと出会うことで、オタッキーな趣味分野について語り合う仲間を初めて見つけたという人も多かっただろう。

 この層は00年代の深夜アニメブームをねっとり支え、やがて「二次元文化」をメインストリームの一角に押し上げた。やはり、インターネットと出会った日のことは忘れられないはずだ。

 しかしネットワーク化によって最大の激変を遂げたのは、なんといっても「夜のおかず」事情だろう。そこで今回は「エロサイト」にまつわる、メタクソに下品な思い出話を連ねていきたい。

ダイヤルアップ時代のエロサイト事情

 ブロードバンド時代を迎え、エロサイトは急速に進化した。今日ではスマートフォンでも、高精細の映像をストリーミング再生することができる。iPhoneというスティーブ・ジョブズの大発明以来、左手でのタッチパネル操作は男子に共通の技能となった(右手では別のモノを触っているわけだから)。

 ではナローバンドの時代はどうだったのかというと、まったく別物とまではいえないものの、大なり小なり違いはあった。

 当時のネットエロ文化の中心になっていたのは動画ではなく、デジカメで撮影した写真や、淫靡な読み物などである。女性向けも含めると読み物の比率はなお増す。

 自作のエロイラスト(当時風に言うと「HCG」)を公開する有志もいたが、「ピクシブ」はまだ存在せず、今日ある〝バズ〟的な盛り上がりは望むべくもなかった。

 通信速度の遅さもそうだが、それ以上にレンタルサーバーの容量が限られていたため、動画を無料公開していたサイトはごくわずか。90年代末から00年代初頭にかけては、無料ソフトの「リアルプレイヤー」で再生できる「RM」形式に圧縮された動画をダウンロードする方式が主流だった。

 一例を挙げると、とあるAVサンプルの配信サイトには、解像度320×240で収録時間3分の映像がアップロードされていた。ファイルサイズは約5メガバイト。
 これをアナログ回線でダウンロードすると30分とか1時間かかるので、たとえ内容がイマイチでも、その動画で頑張るほかない。テレホタイムに「Iria」で一括ダウンロードするのが定石だった。

 また、家族でパソコンを共用している場合、エロサイトをブックマークすることはできないし、ブラウザの履歴も消しておく必要がある。

 したがって「いつものエロサイト」にアクセスするためには、URLを丸暗記するしかなかった。筆者もまた、読み物系、AVのサンプル配信、「アート」の名を冠する海外サイト、イラスト中心の画像掲示板など、あらゆるエロサイトのURLを記銘することで生活の充実を図っていた。この経験をしたネットユーザーはたくさんいるはずだと信じている。

嘘の「アイドルヘアヌード」に釣られていたあの頃

 ナローバンド時代といえば、「アイコラ」の流行を脇にどけることはできないだろう。

 これは「アイドルコラージュ」の略で、無関係なヌード写真にアイドルの顔を合成し、あたかも「人気アイドルの裸の写真」のようにしたものである。90年代から、配布サイトや画像掲示板などを介して流通。00年代半ばに公に知れ渡ると問題となり、摘発を受けて下火になった。

 当時のエロサイトでは、事実誤認を誘うような見出しを付けて「アイコラ」を掲載することが多かった。コラージュ技術は「アイコラ職人」同士の切磋琢磨を経て次第に洗練され、違和感のないヌード写真が合成されるようになる。一部PC誌にはアイコラ専門の評論コーナーがあり、「光線の具合が不自然」などの丁寧な論評がなされていたことも覚えている。

 ただし、当時の「職人」たちの多くは匿名にこだわっており、ハンドルネームさえ名乗らない作者もいた。公に認められるべきコンテンツでないのは確かだが、現代のSNSのような「名前を売ってナンボ」とは異なるネット文化がそこにはあった。

スマホとエロサイトが過去に追いやったもの

 ところで今年9月、コンビニでの「成人向け雑誌」(要はエロ本)の販売が終了したことが話題になった。

 付録DVDの豪華さを競い一時代を築いた「コンビニ本」だったが、ここ数年はスマートフォンの普及を受け売上も不調。「雑誌コーナーの周囲に子どもが立ち入りにくい」という批判を受けたことも重なって、このたびの撤去と相成った。

 インターネットが普及する以前、青少年の宝物だったのがこのエロ本である。本屋は年齢確認もなしに売るわけには行かないから、我々は「拾い」に行っていたわけだ。近所のマンションの駐車場にいつもきまって何冊か置いてあって、友人のT君がヌードグラビアに釘付けの間、モノクロページの体験談を読みふけっていたのも懐かしい。

 ではエロ本に対するエロサイトの強みとは何か。これを挙げるとキリがない。安さ、手軽さ、ジャンルの豊富さ、果ては法律の異なる海外サイトの存在まで、どれを取ってもインターネットの圧勝である。スマートフォンでサイト利用がさらに手軽になると、エロ本の付録DVDも魅力を失ってしまった。

 実は筆者もかつて、エロ本を作る編集プロダクションに勤めていたことがある。コンビニ本の売れ行きが好調だった約10年前、業界では「エロ本はいよいよ淘汰される」という悲観的観測が出始めていたが、「紙の本で最後まで残るのはエロ」という反論もあった。

 事実、書店にはエロ本の販路が維持されており、命脈を完全に絶たれたわけではないし、アダルトコミックなど、出版文化ならではの強みを生かしている分野もある。

 さて、コンビニからエロ本を駆逐するほどに進化した現代エロサイトだが、実は「読み物」というジャンルだけはナローバンド時代とほとんど変化がない。

 写真はおろか挿絵もないような、古式ゆかしいエロ系ブログがアクセスを稼ぎ続けているかと思えば、90年代から続く老舗サイトも、変わらぬ体裁で女子に体験談の投稿をそそのかしている。アマチュア官能小説は、個人サイトから小説投稿サイトに場を移しはしたものの、ネット特有のドギツイ性表現が今も健在である。

★その他の…… 「エロサイト」あるある

1. 「18歳以上ですか?」で「NO」をクリックするとYahoo!に飛ばされる
2. リンクを開く前に、カーソルを乗せてURLを確認する癖が付く
3. 海外サイトの広告は無修正だから、それだけで興奮しちゃう
4. 口には出せないような英単語をたくさん覚える

著者■ジャンヤー宇都
駐車場の濡れたエロ本と、親の本棚の「デキゴトロジー」を愛読して育った結果、実話ライターになってしまった33歳男性。アダルトでも「体験談」系の読み物が好きです。今回はなんかごめんなさい。

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