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日米の労働生産性比較

日本の労働生産性は他国と比較して低い。技術革新の更なる普及に力を入れるなどして生産性を向上させることが必要である。

モチベーション

GDPの各国比較を行った論文が最近発表され、日本の労働者人口一人当たりGDPの伸びが他国と比較しても悪くないことが示された。しかし、実際本当にそうだったのか。本稿では、労働時間等も考慮した上で、労働生産性(労働1単位あたりの生産量)に焦点を当て、米国といったその他諸国と比べ、日本の位置はどこにあるのかを再考察するものである。

一人当たり/労働時間あたりのGDPの推移

以下は2012〜2022年までを対象としており、上図は、名目GDPをドル換算したものであるため、近年の円安を反映し、ドル建てGDPはアメリカと比べ、非常に遅く成長している(2012=100)。下のグラフはPPP換算のGDPに直し、労働時間を考慮した場合である。成長スピードは上図と比べ、米国のものに近づくが、未だ、成長スピードは米国に届かない。

出典:The Economist, WDI, OECD, and PWT

一人当たりGDPの日米比較(2022年)

もし、日本がアメリカと同じ労働人口比率、雇用率、労働時間であった場合の一人当たりGDPを計算したものが以下である。米国は76kであるのに対し、日本は労働時間を考慮したもの(米国とあわせたもの)で約50kであり、米国の66%である(EUも米国とほぼ同じ)。日本は、米国よりも長い労働時間でこの差を少し埋めているとは言え、高齢化が進む中、今後のキャッチアップを期待するのであれば、生産性向上が急務の課題となるであろう。

出典:The Economist, WDI, OECD, and PWT

生産性をあげるには

理解が容易なソローモデルを考えると、労働1単位あたりの生産性は1人あたりの資本と全要素生産性と言われる部分で説明される。IMFのInvestment and Capital Stock Datasetをみると、日米の資本ストック(政府・民間足したもの)差は、2.5倍ほどあるが、人口規模の違いを考慮すると、1人あたり資本にあまり大きな差はない。よって、生産性の違いが、日米の労働生産性の部分を説明しているということになる。生産性の中には、技術革新や人的資本、ビジネス環境とガバナンス、政治的・経済面での安定性といった様々な要素が含まれる。

一つ考えられる要因としては、技術伝播の遅さである。英紙The Economistによれば、日本は異例なほど革新的で、一人当たりの年間特許取得件数は韓国を除くどの国よりも多い。東京の生産性は他の地域よりはるかに高い。QRコード、リチウムイオン電池、3Dプリンティングの発明は日本の研究者の手柄である。しかし、日本は新しい技術を経済全体に普及させるのが上手くない。依然として現金が支配的であり、サプライチェーンの管理にコンピューターを利用している大企業はニュージーランドの95%に比べて47%しかなかった(2010年代後半)。同紙の分析によれば、日本はその革新性から推測される所得よりも約40%貧しいとされる。米国へのキャッチアップのためには、技術革新の更なる普及に力を入れるなどして生産性を向上させることが必要である。

最後になるが、生産性向上の鈍化は決して悪いことではない。経済の成熟度によって消費の嗜好がサービスに向かい、規模の経済が働きずらいサービス業の割合が上昇していくのが普通である。アメリカもそうであり、日本もそうである。

Reference

本分析はThe EconomistがGitHubにて公開しているコードを参照したもの。データソースはWDI(世銀),OECC, およびPWT。

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