うてま4

音楽教室と自閉症の相性

半年ほど前から utena music field に通ってきている小学校1年生の男の子の様子が少しかわりはじめてきた。

坊の登場

最初ご両親と一緒にやってきたその子は、部屋の中のものを引っ張ったり、叩き落としたり、水道の蛇口を思い切りひねってみたり、大声もだすし、しまいにはグランドピアノの弦が張ってある本体の中にものを突っ込もうとして思わず、私もそれはやめてくれ!と声をあらげたり、で、ご両親によろしくおねがいしますと言われましても、正直、やっていけるんだろうか、と思った。これまでも何人か自閉症の生徒をみてるけれど、今回のタイプは初めて。毎回、どの生徒にしたって初体験なんだが・・

その日の晩に、就学支援の仕事をしてる友人が心配して電話をくれた。その暴れん坊ぶりを伝えると、
「慣れないとこで、興奮してるからねー。そのうちなれると落ち着くと思うよー。」とお気楽な声。
そしてもうひとこと
「部屋の情報が多すぎるから、いらないものはかたしておいたほうがいいよー、あんたのためにもなるでしょー。」はい、片付け苦手です。

そのお母さんは、誰かに誘われたのではなく、うちのHPを見て、ここ、と意を決めて来られたのだった。それは大きい。
そして私には断る理由はなかった。
なぜなら、音楽を必要としない子どもなんて、いない、というのが信念だから。
とはいえ、部屋のものも、そして大事なピアノも無事でいられなくっても、受け入れるんだ、というのに結構覚悟がいった。

レッスンは始まったけれど・・

そうやって始まったレッスン
レッスンというか
その坊がやってきて、坊はいつもカーテンをしめて、暗くして、30分一緒に過ごして、やんちゃして、電車の話を一方的に話してって、時々線路の絵を一緒に描いて、片付けして帰る・・みたいな・・
お母さんともいろいろやり取りして、坊の好きな曲を教えてもらって、口ずさんでみたり、なにげに楽器をそのへんにおいておいてみたり。

ありがたいのは、坊は とても私を気に入ってくれていて、いつも、遠くから「せんせーーーーーー!」と叫んでやってくる。かわいいったらない。でもコミュニケーションにならない。

そして、しばらくは何も進展ないまま、カーテン閉めて、やんちゃして、電車の話を一方的にして、この頃はお絵描きには興味も示さなくなって、私は私で好き勝手に即興のピアノを弾いたりなんかして、時間を過ごしていた。

そのうち、私がピアノを弾くと、クッションを抱っこして寝っ転がって静かに聞くようになっていったので、私も、坊の心地よい音はどんなやろう、と思いながら、弾くようになっていた。

エアピアノ弾く 坊

言葉、というコニュニケーションには明らかに限界がある。
じゃあ、音楽でコミュニケーションが取れるか、というと、そんな、あまいもんじゃあない。
でも、なにか、通じ合ってるのかあってないのか、なにか、少なくとも不快ではないものが、やり取りでき始めてきた気がしていた、そして、この前のレッスンのとき。

部屋にはクッションがいくつかあって、その一つにはピアノの鍵盤の模様が描かれている。
私がいつものようにピアノを弾いていると、坊はそのクッションを手繰り寄せ、その鍵盤模様を両手で叩きはじめた。
エアピアノで一緒に弾いてる。

そして、他の楽器を持って、一緒に鳴らしてみたり。

最後には
いつもの終わりのことば
「さよならあんころもち」をくちずさんでた。
そういえば、いつのころからか、電車の話をしなくなっていた。

もう少ししたら、ノードフ・ロビンズのようなセッションができるかな。
だったら、楽しいなあ。

音楽教室と自閉症児の相性

実は私は自閉症の子とだいたい気が合う。
初めてあった子を抱き上げて、親御さんに驚かれたこともある。
もう15年近く通い続けている生徒さんもいる。
なのでいつかは仲良くなれるだろうという根拠はないが自信はあった。
いや、最初っからそうだったわけではなくて、その15年生とつきあううちになにか、コツをつかんだ。

彼らとは、言葉でやり取りしない。
かといって、楽器で演奏を通してなんかやるわけでもない。

何かやらせようとも思わないし、
ただ 時間を共有するだけ、平行線でもいいから。

で、私は思う。
音楽を生業にするなら、ぜひ、自閉症の人と二人で時間を共有してみたほうがいい、と。
その人を、一般の音楽演奏に引き上げて、これだけのことができるようにする、とか、なったとか、そういう観念は捨てて、それ以前に、非言語のコミュニケーションを彼らから学ぶといい。

自閉症と音楽教室の相性はいいはずなんだ。
それはきっと、自分の演奏にも、生徒のレッスンにも通じるものだ。

音楽療法とか、身構えないでいいから、彼らのそばにいっしょにしゃがみこんでみたらいい。

*ノードフとロビンズは、ルドルフ・シュタイナーの影響を受け、独自の感性と音楽理解をもとに、即興による演奏による音楽療法の技法を確立した。

愛媛の片田舎でがんばってます。いつかまた、東京やどこかの街でワークショップできる日のために、とっておきます。その日が楽しみです!