見出し画像

騒音を心地よい音楽に変えるインフラづくりとは?〜「福岡の音楽都市の可能性」トークイベント第3部〜

第2部に続いて、第3部は来場者を交えたディスカッションを行いました。音楽や街づくり関係者が多く集まったこのイベント。各々の専門的な見地から、福岡の街と音楽の関係を考えるさまざまなヒントが飛び出しました。

第3部 来場者を交えたディスカッション

<モデレーター>
深町健二郎(音楽プロデューサー、日本経済大学経営学部教授 等)


文化と観光の好循環


吉田宏幸(以下:吉田) 
福岡市経済観光文化局の吉田宏幸といいます。皆さんの議論が刺激的で、こういう場がずっと続けばいいなと感じました。行政の立場からお話しすると、2023年は福岡にとっては当たり年なんです。海外の旅行ガイド『ロンリープラネット』や『ニューヨークタイムズ』などで、2023年に世界で行くべきまちとして、福岡が選ばれているんです。7月には世界水泳もあり、インバウンドが完全に解禁になっていく今年、コロナ後のホップステップジャンプのホップにしていく、良いきっかけじゃないかなと思っています。

吉田宏幸氏

吉田
福岡市のプロジェクトを紹介させてもらうと、2025年に実は60年ぶりになる大きな音楽ホールが建て替わります。須崎公園の中にある福岡市民会館という施設が老朽化しているので、新しい文化施設をつくります。天神の周りも含めて大小様々な音楽シーンをつくり、市民の財産である文化施設が新しくできるのを、みんなで喜んで盛り上げていくという展望を持って、25年まで街づくりができたらと感じています。

深町健二郎(以下:深町) 
例えば第2部で話にあったように、税金の一部を音楽振興のために使うなど、そういったルールメイキングは福岡でも可能性はありますか?

吉田 
普通、税金というのは一般会計に入ってしまったら、どういう風に配分されるかは複雑なプロセスの中で決まります。唯一、目的税という仕組みは、ある特定の目的で使われるものなので、使われ方を決めるのが非常にシンプルです。ホテル税がその代表的な例で、福岡市も2019年に導入しています。今はホテルの建設ラッシュで、税収もコロナの中でも上がってきています。これを宿泊者の満足度向上に資するような取り組みに還元し、音楽や文化にも利用していければと思います。文化と観光が好循環を生みながら、双方にとっていい流れにしていきたいと考えています。

まちのサウンドデザインを考える


岩永真一 
福岡テンジン大学学長/We Love 天神協議会非常駐事務局の岩永真一と申します。私は人が集まって場をつくることを生業にしているんですが、音の影響についてよく考えます。例えば、ワークショップ開催時に、BGMによって人の会話の量や質がまったく変わってきます。まちにおいても、音を使ったデザインをしていく必要があると感じて。そのようなデザイナーの存在は、福岡では聞いたことがないですが、例えば東京にはいらっしゃるんでしょうか?

齋藤貴弘(以下:齋藤) 
サウンドデザイナーは、家具デザイナーや照明デザイナーなどと同じように、空間プロデュースの一環として重要ですね。例えば80年代に建てられた東京のスパイラルホールは、そういった音楽家が空間の音楽を設計しています。ミサワホームは、昔ミサワホーム研究所というところで環境音楽を研究していましたし、商業施設をつくっている会社や住宅メーカーが研究していた時期もあります。

3年くらい前に、グラミー賞で日本の環境音楽がノミネートされたことからもわかるように、空間と音の関係性は再評価されています。グラミー賞は、音楽的な評価としてのノミネートでしたが、むしろコンセプトが重要で。でも最近だと、あまりデザイナーの存在を聞かなくなってしまいました。

深町 
九州大学の芸術工学院には、音響設計をする専門的な学科があって、そこのOBたちは全国のホールなどの音響設計を手掛けています。世界中のコンサートホールから指名が来るようなエンジニアの方も輩出しているんですよ。准教授の城先生にも、今日は来ていただいています。

城一裕(以下:城) 
九州大学の城一裕です。日本の国立大学の中で唯一、音楽ではなく音に特化した学部・音響設計コースの准教授をしています。具体的には、無響室や残響室、録音スタジオやコントロールルームも学内に備えています。

先日、イベントで大阪のミュージシャンに来てもらいましたが、福岡で一番音がいいんじゃないかと言ってもらえて。そういう場所がここ(今泉)から電車で10~15分の大橋にあるので、もっと福岡のまちに開き、つながっていく活動をしたいなと思っています。

コロナが落ち着いてこの半年ぐらい、福岡にいろんな音楽関係者が来ている印象です。その時に、会場の音がもうちょっと良くなったらという意見を多く聞きます。「福岡だとやたら音がいい」という評判が、ミュージシャンから起こると、またこのまちに来たいとなる。そんな取り組みができたら、福岡が音楽都市として認識されていくと思います。先ほど吉田さんから説明があった、須崎公園の会場がそういう場所になったら素敵だなぁと思いました。

城一裕氏

深町 
アカデミックな現場は閉じていることが多いですが、城先生がいることによって、大学の中だけでなく、街づくりに音が関わっていける余地も生まれています。福岡は北の須崎エリアに、音楽ホールが集積していますよね。ちょうど港に散歩道があるので、ライブ後にその余韻に浸りながらそこを歩く時に、ちょっとした音の演出がある面白いんじゃないかとか、アイデアがたくさん生まれてきています。一方で、まちの中の騒音がぶつかる場所のような、まちの課題もしっかりエビデンスをとって、解決していくことができるんじゃないかと期待しています。

音楽なのか騒音なのか


柴田久(以下:柴田)
福岡大学工学部教授の柴田久と申します。私は公共空間のデザインが専門で、ハードを整備する側の人間です。音楽都市として福岡の可能性を本当に感じて、それを目指していく上で、公共空間の舞台性をいかに高めていくかもすごく重要だなと感じました。自分が携わった例で言うと、10年前ぐらいに警固公園のデザイン設計に携わり、その時に三越前のストリートミュージシャンの方々やソラリアプラザ、レソラ天神などが、公園とその周りの空間の関係性をどうつくっていくかを一生懸命考えたんですよね。

柴田久氏

柴田
最近だと、タモリさんが文字を書いてくれた春吉橋にも関わりました。あの親柱の後ろ側はパカッと開くようになっていて、電源を仕込んであります。音楽が奏でられる器として、公共空間が最初からどう準備できるかは、とても課題だなと感じています。

公共空間側と民間事業者側と、そして音楽を奏でる側の3者が、うまくつながれるといいですが、そのために公共空間側に必要な準備や視点、デザインなどがあれば、ぜひ教えていただきたいです。

岡本篤佳
私たちがこのビル(レソラ今泉テラス)の開発をするときに、目の前にある今泉公園と一体での利用を考えたいと思ったんです。でも音は、騒音の問題につながります。だから、指向性スピーカーが最初から設置されていて、公園の中心だけは大きな音で気持ちよく音楽が聞こえて、周辺には騒音にならない程度に抑えられたらいいなと考えたりもしました。実現はなかなか難しかったんですが。

今村友美 
NTT都市開発の今村友美と申します。今の話で言うと、私が関わっている博多イーストテラスというオフィスビルでも足元に公開空地を構えて、そこで定期的にイベントを実施しています。企画にも携わっているんですが、やはり騒音の問題で頭を悩ませています。テナント様との関係で、音楽系のイベントはなかなか実現に至らないのが現実で。オフィスと音楽との共存などについて、お知恵をいただけたらと思います。

今村友美氏

 
例えばヨーロッパやアメリカではサイレントディスコといって、ワイヤレスのヘッドホンをつけて、2人のDJがチャンネルを自由に変えてどっちにノってるかを街中で競うようなイベントが、あります。もし音だけが問題で、踊るのはいいということなら、そんな方法もありますね。

松尾伸也(以下:松尾)
西鉄エージェンシーの松尾伸也です。騒音の問題は私もずっと向き合ってきたことで、ちょうど20年ほど前からミュージックシティ天神というフリーライブイベントを、天神の公共空間や公園などいろんな場所で開催してきました。街中なのでいろんな利害関係があり、音楽を楽しむ方もいれば、騒音と思われる方もいる中で、20年間続けてきました。

松尾伸也氏

松尾 
細かな試行錯誤をしながら、クレームを減らしてきたんですが、今は天神ビッグバンでビルの形がどんどん変わってしまい、積み上げてきた知見がリセットされてしまうと危惧していまして。新しい天神の公共空間は、音楽イベントがしやすいような設計がされているんでしょうか?

花村武志 
公共空間を決める際は、「にぎわいか憩いか」を考えます。憩いであれば木があり、木漏れ日があり、ベンチがある空間が求められます。賑わいは、音楽はもちろん、フードトラックのスペースを用意するとか、さまざまな方法があります。音楽はクレームの源泉にもなるので、音楽に特化した公共空間をディベロッパーが積極的につくっている訳ではないですが、最低限の電源や給水、排水機能などを設けて、イベント時に使えるインフラ対応は進めています。

 
公共空間にスピーカーの常設は難しいかもしれませんが、キャナルシティ博多に常設されているスピーカーはとても良い品質のもので、それを噴水ショーなどのイベント時に使っています。ミュージシャンが来ると、「なんでこんなに音いいの?」と驚くんですよ。「ここでライブすると気持ちいい」と思えるような都市インフラをつくっていけると、長い目で見た時に街の財産になると思いますね。

柴田
設計をする前に、使われ方をイメージすることが大事ですね。実際に使われる方、特に音楽をされる方々と直接話をしながらデザインできる場が増えればいいなと思っています。

音楽都市になるために足りないもの


野村祥吾
(以下:野村) 
BOATの野村祥吾です。音楽都市としての福岡の可能性が今日のテーマですが、福岡は野球のまちだと、僕は思っています。ソフトバンクホークスという球団がいて、みんな小さい時からプロ野球を見て、どんな年代やカルチャーの人でも年に何度か、野球の話をしますよね。まちでは野球の感謝セールもありますし。福岡が音楽のまちになるっていうことは、ここで言う野球のような存在になることだと思っています。

では、どうやって音楽をまちに浸透させればいいかというと、例えば小さい頃から福岡の街で海外のプロミュージシャンの最新のコンサートが見れるとか。最近日本のアーティストでも東名阪ツアーで福岡は飛ばされることが増えていますし、海外アーティストがアジアツアーと言いながら日本に来ないことも多いです。なぜ韓国のソウルではライブがあるのに、福岡には来れないの?って悔しく思うんですよ。もっとプロの音楽を体験できるタイミングが福岡で創出できると、教育や機会の創出につながっていくんじゃないかと思います。

深町 
野球のまちということでいうと、やっぱりソフトバンクホークスのような象徴となる存在が音楽側にもいた方が分かりやすいんでしょうね。みんなが応援したくなるような。

野村 
そうですね。王さんみたいな人が、福岡の音楽シーンにもいればいいですよね。

髙田睦 
ビッグブラザーズという会社の髙田睦と申します。15年ほど前から、市民会館をお借りして、毎年2月に九州プロオーディオフェアをプロデュースしています。九州の音に関する仕事の人がいっぱい来るんですが、感じるのはスキルの低さ。音楽を育てるなら、やはり音楽を支える裏方、音響さんや照明さんなどのスキルを上げないと、底辺から広がっていかないと思っています。

髙田睦氏

深町 
裏方のプロとしての発言、ありがとうございます。確かに福岡はのぼせもんのまちといったように出たがる人が多いけども、支える人のバランスが圧倒的に足りてないと思うことがあります。ミュージシャン側での象徴的な存在と、それを支える裏方の存在と、両方が必要だと。教育機関でのサポートや、学びの場がつくれるといいですね。

では最後に、主催者であるNTTアーバンソリューションズ総合研究所の今中啓太さんより、ご挨拶をいただきたいと思います。

今中啓太 
本日はどうもありがとうございました。3時間があっという間でした。非常に良い話がいっぱい聞けた反面、騒音問題など具体的な課題も見えてきました。それは、もしかしたら音楽がまだ文化に昇華しきれてないからなのかなと感じました。音楽がかかっているオフィスはどんどん増えているのに、イベントでの音楽は雑音だと思われてしまう。そういう点を、福岡から変えていけるといいなと思いました。

このような回も、話して終わりにはしたくないと思っています。僕らNTTアーバンソリューションズ総合研究所は20人ぐらいの会社なので、僕らだけでは何ともしがたい部分が多く、今日お越しいただいた方に、これからもご相談もさせていただきながら、次年度も取り組んでいきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

今中啓太氏

(シリーズ最後の記事へと続きます。有識者のコメントや福岡で開催したイベント、リサーチのデータなどから、音楽都市としての福岡の可能性に迫ります)


関連記事