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コロナ以後に、音楽で立ち上がるまち〜「福岡の音楽都市の可能性」トークイベント第2部〜

第1部に続いて、第2部では「音楽を軸とした街づくり」の具体に迫ります。ディベロッパーやホテル運営者の方々をゲストに迎え、街づくりの実践を通じた音楽の有用性や課題についてお話を伺いました。

第2部 『音楽を軸とした街づくりの可能性』

<ゲスト>
花村武志(西日本鉄道株式会社 福ビル街区開発部部長、水上公園 ミズベリング福岡代表)
井上絵梨(lyf Tenjin Fukuoka lyfチャンピオン 支配人)
岡本篤佳(NTT都市開発株式会社 レソラ今泉テラス開発担当)
<モデレーター>
深町健二郎(音楽プロデューサー、日本経済大学経営学部教授 等)
※ゲストの肩書きは2023年当時のものです。プロフィールは文末へ。


個性的な文化が生まれるのは、街のウラ側


深町健二郎(以下:深町)
第2部のゲストは、福岡でまちづくりを実践している方々をお迎えしています。まずは福岡のまちで取り組まれている内容と、音楽とのつながりについて教えていただけますか。

花村武志(以下:花村) 
西日本鉄道株式会社(以下:西鉄)で街区開発をしている花村です。今は「福ビル街区建替えプロジェクト」を進めていて、これは来年(2024年)の12月末に竣工するオフィスとホテルと商業空間の複合ビルです。多目的スペースなど用途の自由度が高い空間を多く用意していて、最上階のホテルのルーフトップバーでは音楽の演奏も可能です。1階部分はかなりセットバックして、歩道の空地や広場を設けています。そういった場所で、新しい活動が生まれてくれればいいと思っています。

花村武志氏

深町
花村さんは、個人でも福岡の街づくりに関する活動もしてらっしゃいますね?

花村 
ええ。仕事で中洲にある水上公園の水辺エリア活性化を担当したことをきっかけに、水辺の新しい可能性を切り開くための官民一体の協働プロジェクト「ミズベリング」の活動を応援する任意団体「ミズベリングファンクラブ福岡」のキャプテンを、大人の部活動のようなかたちでさせてもらっています。最近では、西鉄大橋駅とJR竹下駅の間にある那珂川の中流域で、流域沿いの学校や商業施設、企業などで取り組む「ふくおかみなみのみんなの水辺」という活動をしています。

昨年実施したイベントの中で、 ビッグバンドがステージで演奏していたところ、地元の小学4年生の女の子がいきなり乱入してきて、即興で歌い始めたことがありました。福岡のいいところは、オーディエンスが急に演者になったりする双方向性にあるのかなと感じた、印象的な出来事でしたね。

深町
西鉄は福岡、特に天神においては街づくりのキープレイヤーと言えます。今お話があったように、ただ単にハードウェアを整えればいいということでもなく、市民参加や楽しみの提供が鍵になるということですね。では続いて、岡本さんお願いします。

岡本篤佳(以下:岡本)
NTT都市開発株式会社の岡本です。 原宿駅前のビルの開発や、直近では来月(2023年3月)にオープンするひろしまゲートパークプラザという、公園の中につくる商業施設の開発などを担当しています。そして皆さんが今いる、レソラ今泉テラスも担当しました。

岡本篤佳氏

岡本 
レソラ今泉テラスの開発のコンセプトは「クリエイターカルチャーコンプレックス」。 公園と一体となり、福岡の文化を体験できる複合施設としました。今泉をリサーチしてみると、「スタートアップ」「イノベーション」「コミュニティづくり」などさまざまなキーワードが浮かび上がってきました。福岡市が掲げているグローバル創業都市の実現に欠かせない、個性ある文化が発生しうる場所だとわかってきたのです。

例えば原宿なら「裏原」、渋谷だと「奥渋」といったように、個性的な文化が発展するのは主たる商業ゾーンの裏であることが多い。そして天神におけるそれが、かつて大名でしたが、次は今泉なんじゃないかと思っています。このような個性的な文化が発展していくエリアには共通点があって、主要商業地から500m程度圏内に位置し、比較的賃料が手頃であること。エリア内に中心性のある場所があって、活動の中心となる人たちがいて、ストリートがあることなんです。今泉エリアは、まだこの要素がすべて揃っているわけではないんですが、だったらまずは中心となる場所をつくろうということで、レソラ今泉テラスをつくりました。

深町 
今泉という場所の特性をすごく分析されていらっしゃいますね。では最後に、本日の会場でもあるホテルlyf Tenjin Fukuokaの井上さん、お願いします。

井上絵梨(以下:井上)
支配人の井上です。2021年6月にこのこのレソラ今泉で開業してから2年弱になります。開業当初はコロナ禍ということもあって大変苦戦しましたが、最近では岡本さんが仰っていたような人が集まる場所になりつつあります。今年の1月から「人生を豊かにするホテル × コミュニティ」というプロジェクトを始動させました。クリエイター・グローバル・キャリアの3つのコミュニティと、ホテルのゲストや地域とのコラボレーションを目指したイベントなどを開催しています。この場所(ホテルのラウンジ)を会場にして音楽ライブも行うこともあります。

井上絵梨氏

深町 
まさにこの場所がべニューとして、ライブも行われたりしてるんですよね。

個人的な話ですが、私の娘がLil Summer(リルサマー)という名前でアーティスト活動をしていて、この場所でも2回ほどライブをしています。たまたま宿泊で訪れたインバウンドの観光客や国内のお客さんが、ホテルのラウンジで生演奏をやっていることに戸惑い・驚き・喜ぶみたいな場面を、何度も目撃させていただきました。面白い取り組みですよね。

音楽は街に寛容性をもたらす


深町

今、天神ビッグバンで福岡の街はまさに変わろうとしています。皆さんは、天神という福岡の中心地がここ数年でどう変わっていくと感じていますか?

岡本  
天神ビッグバンはオフィスビルを中心とした開発なので、平日にはワーカーの方が多く来られますが、週末はあまりいない状況です。コロナによって天神に来られる学生が減っている事実もあり、我々も危機感を持っています。公共空間はいろんな利害関係者の方がいるので、その方々の意見をちゃんと聞いて、若い方々にも魅力的な街にしないといけないと。

深町
街の魅力をつくっていくのは若い人たちですから、若い人が自由に活動できるシンプルな仕組みが必要ですね。シナリオをつくりすぎず、更地を用意して、そこで自由にやって良いよ、というような。私自身もまだ26歳だった時にソラリアプラザ(天神のファッションビル)1階のイベントスペースのプロデューサーに抜擢されたことで、人生が変わるぐらいの影響がありましたから。

岡本
世の中どこでも同じものが買えてしまう時代に、どうやって皆さんが住みたい場所や働きたい場所を選ぶか。何か尖ったものや特徴がないと選ばないんですよね。そうなった時に、やはり文化がキーになってきます。あとはその文化に、身近に触れられること。建物の中に収まらず、例えばまちを歩いている時に音楽の演奏を目にする機会があれば、音楽活動をしていい寛容なまちなんだと皆さんが気づき、実際にそういうまちになっていくでしょう。

社会学者のリチャード・フロリダが、「経済成長の3つのT」というものを提唱しています。技術(technology)、才能(talent)、寛容性(tolerance)の3つのTを揃えることが、街の創造にとても重要だと言っていて、大いに共感しますね。

深町
確かに。例えば世界の音楽都市の事例を調べてみると、アメリカのナッシュビルはカントリーミュージック発祥の地と言われていて、それ自体が観光目的になっています。バーや飲食店も夜になったらライブハウスになり、ストリートにも音がどんどん溢れ出るまちづくりがされていて。驚いたのが、運営コストは基本的には税収や寄付金から賄われているんですね。例えば同じエリア内のホテルの宿泊税の6%が使われていたり、空港で借りるレンタカー1台につき2ドルずつが徴収されていたりと、かなり細かく、手厚い施策が打たれています。そういったルールメイキングが、福岡で実験的にできたらいいなと。文化ってなかなかマネタイズできないし、ここで何かできたら面白いと思う場所でも、お金がないから考え方を変えなきゃいけないという壁によくぶつかります。そんな時、このような仕組みがつくれたら、もっと動けるのかなと。

井上 
そういう意味では、当ホテルでのライブは、宿泊者と音楽との偶然の出会いを提供する、いい機会になっていますね。まさか、ホテルの入口すぐの場所でライブをやっていると思わないので、皆さん「場所を間違えたな」という反応をされるんですよ。だから、「ホテルで合ってますから、どうぞお入りください」なんて言ったりして。説明すると「えっそんな面白いことやってるんですか」と、かなり好感触を得ています。「あのホテルは音楽をやっている」と広く認知してもらえればば、私たちのブランドにもなります。何より音楽があると空間が華やかになって楽しいですよね。

深町 
地元のミュージシャンの雇用や機会創出にもつながりますね。ホテルは人が集まる場所ですから、可能性を感じます。

井上 
ホテルのロビーは、もともとそういう機能を持っているところなので、むしろ原点に帰るような取り組みだと感じていますね。

深町 
音楽を何かに有効活用できないかという発想は、世界ではミュージック・アーバニズムと言われ、大学で研究の対象にもなっています。音楽そのものに関するプランニングもあるし、観光のリソースマネジメントにもなります。コロナで疲弊したところから立ち戻ろうとする場合など、特に音楽の活用は有効で、世界の音楽都市から人が集まるミュージックシティコンベンション(国際会議)の場に持ち寄られて、活発に意見交換がされています。ただ日本ではこの考え方がまだ浸透していなくて、音楽はあくまでもエンターテインメントという捉え方。福岡から、ちょっと目線を変えて街と音楽でできることの可能性を探っていきたいなと思います。

働きながら、自己表現をし続けられるまち


深町
では皆さんから、あらためてまとめのコメントをいただければと思います。

井上 
行政からの支援も大事ですが、民間企業の立場としては、自分たちの力でできる範囲のことを継続していけるかどうかが、そのまちに大きなインパクトを残せるかにつながると思います。このホテルの主である私は、まずはゲストに「福岡って音楽がすごく盛んなんだな」「何か面白いことをやっている都市なんだな」っていう印象を持ったまま、旅を終えて帰っていただけるようなことを継続して取り組む。そのことをこの場でコミットしたいと思います。

花村 
私は普段そんなに音楽のことを深く考える人間ではないんですが、今日の話を伺って音楽の可能性を大いに感じました。例えば水辺の活動の中で、30分1000円くらいの比較的リーズナブルな観光船があります。船頭さんがいて、舳先ではストリートミュージシャンの方が演奏していて。ミュージシャンは乗船されたお客様の投げ銭で成立しているので、自然と観光案内のようなこともするようになり、説明者と演者と観客とが渾然一体となった形で成り立っています。その例などは、参考になりそうだなと。私が担当している物件も個人の活動も、音楽をどう根付かせていくかという仕組みを並行して考えていきたいなと思いましたね。

岡本 
私は、第一部で深町さんがおっしゃった「福岡はのぼせもんの街である」という言葉が印象的でした。私の個人的な印象では、福岡の方って自己表現が上手だと思うんです。東京にいると、自己表現の追求は大学の時などにやったとしても、仕事になると、私は私、あの人はあの人、という感じで自己表現を戦わせる機会がない。でも福岡は、働きながらも自己表現の戦いをしている人に会うシーンが多くて、それが街の気質をつくっているし、結果的に音楽や自己表現がまちにあふれてると思うんですね。やっぱり福岡は音楽の街だし、そういう人たちがいるから発展していくんだなとあらためて感じましたね。

深町 
我々は当事者なので、のぼせもんであることさえ普段忘れてるところもありますが、やはり特性はありますよね。いかに人が生き生きと暮らせて楽しめる街であるか、そこにもし音楽が少しでも寄り添うことができれば素晴らしいなと、私も思いました。

(来場者とのディスカッションを行った第3部に続きます)

<ゲストプロフィール>
花村武志(西日本鉄道株式会社 福ビル街区開発部 部長、ミズベリングファンクラブ・フクオカキャプテン)
1971年生まれ、福岡県出身。1995年九州大学芸術工学部卒業後、西日本鉄道株式会社へ入社。都市開発事業本部にて、商業施設「チャチャタウン小倉」館長やマンション事業、PPPでの児童会館建替え事業や水上公園整備事業などを歴任。2017年から福ビル街区開発部を担当。2022年から現職へ。
本業以外でも、2014年からの水上公園整備事業を機に、福岡の水辺を盛り上げていくため「ミズベリングファンクラブ・フクオカ」を立ち上げ、自らキャプテンとなり、那珂川を中心に水辺の魅力を掘り起こし、水辺エリアの活性化へ取り組んでいる。

井上絵梨(lyf Tenjin Fukuoka チャンピオン)
1981年生まれ。兵庫県出身。同志社大学文学部卒業。2005年よ り12年間、中国、韓国、シンガポールのホテルに勤務した後日本に帰国。主にセールス &マーケティング、新規ホテル・リブランドホテルの立ち上げに従事。 2021年6月株式会社アスコットジャパン入社、lyf Tenjin Fukuokaのlyfチ ャンピオン(支配人)に就任。日・英・中・韓4か国語が堪能なマルチリンガル。仕事と4歳の娘のお世話に追われる日々を過ごしながら、最近始めたホットヨガにはまっている。

岡本篤佳(NTT都市開発株式会社 レソラ今泉テラス開発担当)
1983年生まれ。兵庫生まれ千葉育ち、ときどき 福岡、現在広島。
千葉大学大学院工学研究科建築・都市科学専攻を卒業後、NTT都市開発へ入社。商業施設およびホテルの開発とオフィス営業を担当。都市計画視点から具体的な開発コンセプト作成・建築計画・実行を得意とし、過去に品川エリアマネジメントの立上げと推進、福岡での商業施設開発、数十年先の不動産の将来予測、東京大学との都市空間生態学の共同研究、次世代オフィスサービス検討などを担当。