見出し画像

みんなで考える、まちと音楽のもっといい関係性〜「福岡の音楽都市の可能性」トークイベント第1部〜

NTTアーバンソリューションズ総合研究所では、全国のさまざまな自治体とともに街づくりを進めています。その中でも近年は人口増化や脱炭素などの課題解決に向けたプロジェクトが中心となっています。
プロジェクトの中で、補助金の活用を前提とした提案を行うこともあります。われわれは、こうした現実的な提案も重要だと捉える一方で、住民本意のサスティナブルな「街づくり」を実現するためには、違った観点も模索する必要があると感じます。

「街づくり」の本質は、「そのまちならではの魅力づくり」だと思っています。地域には、その土地ならではの歴史、風土、住民の気質などが存在し、その上に地域固有のアクティビティや文化が形成されています。これらが融合し「そのまちならではの魅力」となります。魅力あるまちで暮らしたい、または訪れたいと思うのは、これらを体験したいからではないでしょうか。

福岡は、アジアの主要都市を繋ぐ物流と交通の中心地のひとつで、多くの魅力があります。例えば、食の宝庫として知られ、おいしい体験をしたひとも多いでしょう。福岡の魅力を語る上で避けて通れないキーワードに「音楽」があります。
年代もジャンルもさまざまな、数多くの福岡出身のミュージシャンたちが、現在も日本の音楽シーンを彩っている状況を見ると、「福岡には音楽を育む土壌があるのではないか、もしそうなら、日本のどことも違う『音楽都市』としての可能性があるのではないか」そんな疑問が湧いてきます。
こうした考えを確かめるべく、NTTアーバンソリューションズ総合研究所は2023年2月17日(金)に福岡でトークイベントを行いました。
 
東京から、そして地元・福岡から、音楽とまちづくりに関わるさまざまなプレイヤーが集まり、活発に意見交換が行われた本イベントの様子を4回に分けて紹介します。

第1部 『福岡の特性を活かした音楽都市の可能性』

<ゲスト>

深町健二郎(音楽プロデューサー、日本経済大学経営学部教授 等)
齋藤貴弘(Field-R法律事務所弁護士、ナイトタイムエコノミー推進協議会(JNEA)代表理事)
伊藤佳菜(ナイトタイムエコノミー推進協議会(JNEA)森ビル株式会社 タウンマネジメント事業部)
<モデレーター>
髙山貴久美(BRIDGER代表)
※ゲストプロフィールは文末へ


福岡は“のぼせもん”のまち!?


イベントの冒頭に、森記念財団都市戦略研究所にて「世界の都市総合力ランキング」など海外都市の比較研究や調査を行なってきた伊藤さんから、3つの調査の紹介がありました。

まず1つ目の調査「日本の都市特性評価2022 」は、日本の138の都市を経済・ビジネス、研究・開発、文化・交流、生活・居住、環境、交通・アクセス、という6つの視点から総合的に評価する調査。福岡は総合評価で第3位でした。新規の法人登記割合や新規の不動産建築供給面積など、新しいビジネスが起こっているという経済面での強み、またホテルの客室数やイベントホールの数など文化交流が盛んなことも特徴として表れました。

次に、「CITY PERCEPTION SURVEY JAPAN」という、都市のイメージをキーワードから推し量る調査。福岡については、1番目に「都会」、2番目に「コンパクト」、3番目に「自然」などのキーワードが挙げられました。

そして、ナイトタイムエコノミー推進協議会と森記念財団とで一緒に行った調査「Creative Footprint(CFP)」。こちらは総合的な文化力を世界の都市と比較するもので、規模や数だけではなくて、定性的な視点が多く入っていることが特徴です。

Creative Footprint(CFP)調査の、東京でのスコア。CONTENT、SPACE、FRAMEWORK CONDITIONの3つの項目に大別され、総合スコアが示される。ちなみにベルリンは8.02点、NYは7.29 点という結果。

伊藤佳菜(以下:伊藤)
CFP調査では、例えばミュージックベニューの中でどんなことが起きているか、実験的で創造性に富んだ表現を可能とする場があるか、そのベニューにコミュニティが存在しているかなどが評価されます。これまでニューヨークとベルリンを調査していて、3年前に東京の調査を行いました。詳しくはWebに公表されている内容を見ていただくとして、他都市と比較しての東京の弱みは、たとえば現場と行政との距離の遠さ、音楽や夜の活動に対する財政支援、夜間の公共交通機関などでした。

伊藤佳菜氏

齋藤貴弘(以下:齋藤)
日本でナイトタイムエコノミーが語られる時は、ビジネスとしてどうスケールするかの議論が多かったように思います。でも海外では、都市間競争の比較の中で、自分たちの街がどんな強みを持つべきかが議論され、そのために文化的な強みを把握しておくことが大事だと考えられていて。そこを可視化したのが、この調査だと思います。

齋藤貴弘氏

髙山貴久美(以下:髙山) 
このような観点から福岡の街を見た時に、「音楽」がキーワードになるかもしれないと考えたことから、今日のトークイベントに至ったわけですね。

髙山貴久美氏

深町健二郎(以下:深町)
福岡は音楽に突出した特異性があると思っています。もう50年位前ですが、ライブ喫茶昭和という小さなべニューから、チューリップや海援隊、井上陽水さん、その後は長渕剛さんやCHAGE and ASKAさんなど、そこをきっかけにデビューしていく場がありました。80年代にはめんたいロックという、パンク寄りの骨っぽいバンドマンたちが続々と現れました。90年代以降も、椎名林檎さんやスピッツの草野マサムネさんなど、福岡出身の音楽人が出続けています。東京は例外としても、こういう街は全国的に見て福岡ぐらいじゃないかなと。

深町健二郎氏

髙山 
芸能人も含めて、なぜ福岡からこんなにたくさんの人材が輩出されているのか。深町さんはどうお考えですか?

深町
福岡には「のぼせもん」ということばがあります。すぐに熱くなる人や、夢中になる人のことを言いますが、福岡が「のぼせもん」の街である影響は大きいと思いますね。

福岡は昔から博多祇園山笠やどんたくなどお祭り好きなまちです。山笠は「山笠のあるけん、博多たい」という言葉もあるように、市民の誇りや喜びとして浸透している祭りですし、どんたくは毎年100万人以上が来場します。実はこれにはからくりがあって、100万人のうちの半分は、観光客じゃなく出ている側の人たちじゃないかと言われていて(笑)、地元の人の、祭りへのモチベーションが異常に高いんです。

齋藤
お祭は、強いコミュニティをつくるシステムとしてうまくできていますよね。みんなの熱量を高めて、ぐっと団結感をつくっていくという。ただ、祭りというと多くは年に1回で、高まった熱も日常にまでは浸透しないのが普通だと思います。それが、福岡のミュージックマンス(*1)は1ヶ月間やっていますね。1ヶ月という長さがあれば、日常での繋がりが営まれていったり、コミュニティ活動が継続していくようなことはあるんでしょうか?

深町
音楽を街で恒常的に楽しめるようにすることは課題でもあり、そこから福岡音楽都市協議会(*2)の発足につながっていきました。例えばストリートパフォーマンスに関して、ロンドンやニューヨークなどでは、第三者会議が設けられて、審査もあり、運営資金も税収から賄われる仕組みができあがっています。そこで福岡でも、福岡音楽都市協議会の活動として、大濠公園や動植物園など市内7カ所でストリートパフォーマンスができるスペースを設けました。音楽を日常に組み込んでいく仕組みを、少しずつ整えていっています。

齋藤
アメリカの例で言うと、バーニングマンという砂漠の中でやるフェスティバルがあります。世界中からいろいろな人が集まるんですが、年に1回なので、せっかく生まれたコミュニティを維持していくのが難しい。才能が集まるところですし、お金持ちの人も集まってビジネスにも発展させていくことができるので、もったいない。というわけで、何人かのファウンダーがお金を出して、ディナー帯のレストランから深夜はナイトクラブに変わる場所を作ったそうです。実際にそこからいろんなタレントが出てきたり、ビジネスの話が生まれている。バーニングマンをきっかけとしたコミュニティを継続的なものとして発展させていく仕組みがあるのは面白いなと実際に行ってみて感じましたね。

*1. 福岡で9月に行われる音楽関連イベント(Sunset Live、中洲ジャズ、Kyushu Gospel Festival、Fukuoka Asian Picks、Music City Tenjin)を総称して、福岡ミュージックマンスと呼ぶ。
*2. 福岡を日本・アジアを代表する音楽都市にすることを目標に、2021年4月に設立された任意団体。音楽関連の活動を行う個人や団体を育成し、産業の創出につなげ、福岡の文化的価値を高める活動を行っている。

意外性が掛け合わされると、音楽は強い


髙山

世界中から人が集まるイベントも素敵ですが、コロナを経て、身近にある音楽やアートを大事にしようという意識も感じます。その点、皆さんどう思われますか?

齋藤
その例で言うと、福岡に来て最初に感動したのが、今日もご来場いただいてる野村さん(第三部に登場)に紹介してもらった、BOATというスタジオです。元々質屋さんだった1棟のビルを音楽スタジオに改装している、かっこいいところです。スタジオというとミュージシャンが時間あたりで借りて、演奏や収録をして作品を作っていくイメージですが、BOATはインキュベーション施設でもあります。楽器を弾く人、作曲をする人、映像を作る人もいれば、音楽や映像を必要としている側の人もいて、自然に交わっています。パッケージをつくるみたいな従来の世界観ではなく、継続して音楽に関わる場所として、すごく開かれているのがいいなと思ったんです。

深町 
野村さんは「ここからスターのようなタレントを生み出したいわけではない。むしろ草野球チームのトップでありたい」と言っていました。いわゆるアマチュアリズムを極めるという考えです。音楽をやる人たちは、有名になって音楽だけで食べていけというのが、従来の成功の価値観でした。でも音楽が好きかどうかで言えば、売れようが売れなかろうが関係ない。むしろ、好きなことをいかにやり続けられるかが大切ですよね。福岡はそういう活動がやりやすい街であってほしいなと思います。

齋藤 
わかります。私自身も、「音楽は卒業しました」とか「まだクラブ行くんですか」という会話に、すごく違和感を覚えます。音楽の価値って、もっと多角的だと思うんです。音楽自体を仕事にしなくても、音楽好きな人が飲食をやったりファッションをやったり、映画や写真をというように、いろいろなところにインスピレーションを与えられるのが音楽だと思いますから。

伊藤 
音楽は、音楽が好きな人のためだけのものではなくて、みんなのものであることが大事ですよね。でも、街づくりや空間づくりについて、会議室で打ち合わせをすると、音楽はなかなかテーマにならない。パースや図面の検討の方が優先度は高くて、音の話題が出てくるのはずっと最後の方です。

髙山 
ナイトタイムエコノミーの例のように、音楽が文化としてまちの魅力に貢献できるといいですね。福岡の夜を考えてみると、屋台文化や飲みの文化など、食文化は強いんですが、そこに音楽やエンターテインメントの要素が加わると、もっとまちとしての文化度が上がってくるのかなと。

伊藤
そうですね。ナイトシーンや音楽シーンの現場の人たちと行政機関とのギャップ、いわば昼の世界と夜の世界のギャップをどう埋めていくかは、福岡に限らず日本全国に共通する課題だと思います。音楽という共通テーマで同じテーブルに着いて、福岡の未来をどうしていくかを日常的に話せる場が増えていくといいですね。

齋藤 
その意味では、スペースの多目的性が特に重要だと思っています。音楽を聞きに行く時に、ライブハウスやクラブに行くという目的に最適化された場所だけじゃなくて、美術館やホテルのロビーで音楽のイベントをやっている時もあるとか。

深町 
確かに、掛け合わせによって俄然面白くなったりしますね。私の経験では、オーストラリアのメルボルンに行った時、博物館が夜に解放されて、そこでヒップホップのステージが展開していました。ちょっとワクワクしましたね。まちの懐の深さのようなものも感じました。

伊藤
先週、京都でナイトキャンプというまちづくりや音楽や行政の人を集めたワークショップに参加しました。「最近一番楽しかった夜」というテーマで話を聞いたら、「普段はオフィスの場所で、夜にガンガン音楽をかけてパーティをした」とか、「昔ディスコだったホテルの地下室でパーティをした」といった、普段と違う用途で音楽を入れて遊ぶというのが、楽しかった記憶として強烈に残っているのが印象的でした。だからこそスペースの多目的性は重要な視点だなと思います。

髙山
ちなみに、コロナで止まってしまったナイトタイムエコノミーは、元に戻ってきつつありますか?

齋藤 
確実に戻ってきていますね。海外では、コロナの話なんて誰もしていない印象です。コロナ前に戻すというよりも、「より人生を楽しむ」「人と一緒に謳歌する」というような新しい価値観が高まった気がします。

伊藤
東京ではピークタイムが早まったという話を聞きますが、それはいままで遊んでいた人たちが早く帰るようになったということかなと。今まで夜に街に出ていなかった人も含めて、多様な夜をどう作るかという考え方にシフトした方がいいと思いますね。

齋藤
夜というと、若者が騒ぎサラリーマンがお酒を飲むようなイメージを持ってしまいがちですが、家庭を持っている女性や、子供たちだって一定時間はいていいはずです。

伊藤 
そういえばアムステルダムに行った時、60〜70代の女性グループが夜に街を歩いているのが印象的でしたね。4人ぐらいのグループで、23時過ぎまで楽しそうに飲んでいるんですよ。これは日本では見ない光景だなと感じました。

齋藤 
海外では、ナイトクラブに年配の方たちがいて楽しそうにしているのも、珍しくないんですね。

深町 
そこは社会や文化の違いかもしれません。良いところは、日本でもどんどん取り入れたいですね。

コンパクトシティ福岡ならではの魅力


髙山

参考になるお話をたくさんいただきましたが、あらためて、福岡が音楽都市として発展するために必要なことは何か、みなさんのお考えを聞かせてください。

齋藤 
福岡に来る度に、いろいろなところに連れて行ってもらいます。その実感として、個々の人やコミュニティはすごく面白くて、毎回驚きます。でも、その人たちがどこにいて、どんな活動をしているのかは、外から見るとまだ見えにくいですね。個々をどう横につなげていくか。ブランディングというと安っぽい言葉になっちゃいますが、そのための仕組みや場所があると、福岡がもっと魅力的に見えてくると思います。

伊藤 
東京はこれからも大きくなり続けるでしょうし、経済都市として発展していかなきゃいけないでしょう。でも福岡のあり方を東京に寄せる必要はなくて、福岡ならではの特徴を伸ばしながら独自に成長していけるといいと思います。ニューヨークやロンドンもいいですが、最近はアジアの新興都市がとても面白いと感じているので、福岡がアジアネットワークの中で発展していくと、ワクワクする展開になるなと思いました。

深町 
福岡はコンパクトさが魅力と言われるぐらいですから、規模やスケールで勝負しても仕方ないですよね。福岡には「がめ煮(筑前煮)文化」という、何でも混ぜて素材の良さを残すという考え方があります。だから、アジアとの掛け合わせには大きな可能性を感じますね。エンターテイメントも産業としてはあってないような状況なので、まだいくらでも挑戦できます。そのポテンシャルをポジティブに活用して、文化として表現できたら、どこにもないユニークな街になるんじゃないかと思います。

(ディベロッパーやホテル運営者を交えた第2部に続きます。)

<ゲストプロフィール>
深町健二郎(音楽プロデューサー、日本経済大学経営学部教授、公益財団法人福岡文化芸術振興財団理事)
大学時代にロッカーズ(俳優の陣内孝則氏が在籍)のギタリスト谷信雄氏と共に「ネルソープ」を結成。日本初のネオアコバンドとして、新宿ロフトや原宿クロコダイルなどで活動。帰福後、ソラリアプラザイベントプロデューサーに抜擢され、屋内初の飾り山笠やアジアのカルチャーミックスイベントなどを手掛ける。1989年より「ドォーモ」(KBC)出演。現在もTVやラジオへ多数出演。1998年から糸島市で毎年開催される「Sunset Live」の共同プロデュース・MCを担当。9月の福岡を毎週音楽フェスが開催される1ヶ月とする「福岡ミュージックマンス」の総合プロデュース。音楽を中心にエンターテイメントの力で福岡の街を盛り上げ、その魅力を全国や世界に伝えるべくマルチに活動中。

齋藤貴弘(弁護士(Field-R所属)、NEXTOKYOメンバー、(一社)ナイトタイムエコノミー推進協議会 代表理事、(一社)ライブハウスコミッション アドバイザー)
弁護士として各種法務コンサルティングを行うとともに、その実務経験を踏まえ、政策形成に関与。ナイトエンターテインメントを規制する風営法ダンス営業規制の改正(2016年)を主導するとともに、改正後は、ナイトタイムエコノミー推進議員連盟の民間アドバイザリボードの座長(2017年〜現在)や、観光庁の「夜間の観光資源活性化に関する協議会」の有識者(2017〜2018年)としてナイトタイムエコノミー政策を牽引。ナイトタイムエコノミー以外にも、 “文化庁による文化観光事業” “観光庁による歴史的資源を活用した観光まちづくり事業”などに有識者として関わる。
音楽愛好家でもあり、インターネットラジオ曲“dublab.jp”の立ち上げメンバー。著書に「ルールメイキングーナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論ー(学芸出版社)」

伊藤佳菜(森ビル株式会社 タウンマネジメント事業部)
森記念財団都市戦略研究所にて「世界の都市総合力ランキング」など海外都市の比較研究・調査を実施。その後森ビル都市政策企画室にてエリアマネジメントやナイトタイムエコノミー政策に関する規制緩和や政策提言、「夜間帯の文化的価値の評価に関する調査−Creative Footprint Tokyo−」のプロジェクトマネージャーを担当。現在は虎ノ門ヒルズエリアのタウンマネジメント・エリアマネジメント計画を担当。

髙山貴久美(BRIDGER 代表)
世界150を超える国・地域から学生が集まる立命館アジア太平洋大学(APU)を卒業後、ITコンサルタント、雑誌編集などを経て独立。企業や個人の広報・ブランディング・マーケティングや各種イベント企画・司会などを担当。大学時代の経験から“日本(地方)と世界をつなく”をミッションに活動中。

<イベント概要>
「福岡の音楽都市の可能性」
2023.2.17(金)17:00〜20:00
会場 lyf Tenjin Fukuoka(レソラ今泉テラス内)
主催:株式会社NTTアーバンソリューションズ総合研究所
協力:株式会社NTT都市開発
企画・運営:株式会社ダイスプロジェクト