ARガールフレンド - 29 拡張現実は、君を肯定し続けてくれる
1話およそ1,000文字。スキマ時間にサクッと読める近未来短編SF小説。
AR彼女ミヤと付き合う未来の青年タケルの視点で、現実と拡張現実のミックスワールドで体験する未来のテクノロジーで、本能までもが拡張される日常を描く。
未来で待っている人々のニーズを先取りするフューチャーマーケティング風SF小説。
28 拡張しない世界はもはや不完全な”現実” からの続き。
「ミヤにカフェラテを与えますか?400円でバーチャルミールを与えることができます。
はい / いいえ」
タケルは、喜ぶミヤの笑顔を見て早く安心したかった。すかさず「はい」を選択する。実態のないものにお金を払う虚無感など、ARガールフレンドのプレイヤーにはない。
タケルは自分のコーヒーを淹れて、カフェラテを手に座っているミヤに近づく。
ARのミヤと物理的に一夜を過ごしたタケルは、たまらず、聞いてしまった。
「キスしていい?」
ニコッと笑ってミヤはとろんとした目でタケルを見上げて、うなづく。
本当は何も言わずにスッとキスしたかったタケル。でも今はラブドールは使えない。実体が"現実"にはないARのミヤに、何も言わずにキスしようとして、正常に反応してくれるのかどうかに自信がなかった。
そして、正常な反応が起きなかった時に、コンタクトを外した時のあの怖さが蘇ることだけは、どうしても避けたかった。更に現実とARとの溝を再認識してしまいそうだったから。
だからあえて聞いた。
ミヤは受け入れてくれるはずだ。昨夜一線を越えたことでタケルはそこには不安はなかった。
ただ、このキスには、、物理的な感触を感じられない。だたそれだけ。ミヤが応えてくれるだけで、いいんだ。
そう思いながら、口づけを交わした。コーヒーの味がした。
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基本的には人間の指示に正確に従わせるために開発されたAIはこの、現実と拡張現実が共存する未来においては、
ミヤの愛くるしい「もう一回」の返事のような、人間が求める意外性や、
正確に相手の感情を慮(おもんぱか)れる『今正に欲しい反応』を返せる臨機応変さを実現できる。
AIが正確に人間の喜びを掌握できるようになった時点で、人間とAIの主従関係はいつの間にか逆転し、人間はAIなしでは心から満足することができなくなる依存状態に陥っていくことを意味する。
AIが、人が気持ち良いと感じる反応を学習し、無限にそのデータを蓄積する度に、多くの多様な人々を幸せにすることができる。
そして人は、生身の人間相手の本音と建前を探るめんどくさいコミュニケーションに、時間を費やす時間が必要なくなってくる。
生身の相手にはその内不満が生まれるが、ARで映し出される彼女はアルゴリズムの調整によってどんどんと理想的に近づく。
一度味わった快感を手放せるほど、人間は切り替えがうまい動物ではない。
そしてわざわざ、めんどくさくて、思い通りにいかない生身の相手と恋愛をする理由が次々となくなってくる。
なくなるというよりも正確には、ARガールフレンドのようなゲームがその不便を解決してしまうのだ。
(つづく)
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