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1話およそ1,000文字。スキマ時間にサクッと読める近未来短編SF小説。

AR彼女ミヤと付き合う未来の青年タケルの視点で、現実と拡張現実のミックスワールドで体験する未来のテクノロジーで、本能までもが拡張される日常を描く。
未来で待っている人々のニーズを先取りするフューチャーマーケティング風SF小説。

26 拡張されたキスのリード方法 からの続き。

強烈且つ意外な積極性で、ミヤの「もう一回」にカウンターパンチを受けたタケル。

あのいつも長く感じる映画のエンドロールがあっという間に過ぎ去ったようにさえ思えるほど、ミヤとの何回目かのキスに集中していた。

このプログラムをデザインした運営側は、ARテクノロジーはさることながら、いわば恋愛のプロでもある。
往々にしてプレイヤーはその類い稀な恋愛テクニックに翻弄されるのだ。

気付いたら映画は終わっていた。
部屋に流れる無音。タケルの耳には自分の息遣いと、ARのミヤが憑依しているラブドールの唇と触れ合う時に微かにする音。

そしてミヤの息遣いも、脳内チップ越しに聞こえている。

また少し冷静さを取り戻してきたタケルは、正直このまま続けても良いとさえ思っていたが、せっかく休みの前日に合わせてタケルの自宅に来てくれて、それなりの意思を持ってきてくれているはずのミヤを
(タケルがメイクラブオプションを購入したからなのだが。)
奥手な自分のせいでがっかりさせてはならないと急に思いはじめた。

この時点で、タケルはARガールフレンドの追加課金オプションでどう煩悩を満たしてやろうかという考えよりも。
一人の人格を持つミヤが求めて(いるとタケルが思い込んで)いることを満たしてあげたいという思いに満ちていた。それは生身の人間相手に対して思う時の気持ちとなんら変わらなかった。例え相手がAR人間だとしても。

さっきまでホラー映画で怯えていたミヤが今タケルのキスに応えてくれていることだけは分かった。
少し冷静になったので、このまま進んでしまっていいのかどうかに考えが及び始めたその絶妙なタイミングで、、

「タケルの好きにして、いいよ」


この後タケルが辿った選択式ライトノベル風の進行は、オーソドックスな展開ではあったものの、ラブドールの体勢はタケルが選んだ行為や体位に応えて、次々と変わっていく。

それはロボット特有の「ギーッ、ガチャ」とカクカクした無機質な駆動ではない。

タケルのその都度の選択に対して、ミヤが表情・うなずき・短い会話を挟んでから、ミヤの物理的な体の代わりであるラブドールの体勢が、ゆっくりとスムーズに変わる。
ここまでスムーズにコトを進められるものかと、いちいちそのしなやかな体勢変更に驚くほどだった。その驚きもすぐに、目の前で乱れるミヤへの愛おしさと快感にすぐにかき消されてしまう。

タケルとミヤはついに1つになることができた、物理的に。

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この、タケルの極めてプライベートな空間と感情の手綱を握っているのは、タケル自身でも、ミヤでも、もちろんラブドールでもない。
ミヤという媒体を通して、タケルとの言葉と身体両方の相互コミュニケーションを司っているのは、ARガールフレンドのアルゴリズムだった。

想像できるだろうか。
物理的な現実に存在するあなたの恋愛下においての高揚も、性的興奮も。
人間が作ったはずの拡張現実の中での神であるAIによって、
人間がコントロールされている未来を。


(つづく)


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