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<1話読了/30秒="現代SF小説">

前話👇までのあらすじ :
人が夕陽を見て美しいと思う感情がわからないAIシャーロック。アートや勝利に感動し、苦悩に苦しむ感情を理解したいという。

(続き👇

「そうだな...。なんと言えばいいか。AIである君にそれを理解させる前に、

僕を含めた人間自身がまず、理解しなければならないと思ったよ。

感動や苦悩といった感情に支配されている自覚があるからね。

目の前で起こる様々な喜怒哀楽のきっかけとなる出来事に、湧き上がってくる感情に流されるのが人間のデフォルトだから。

どうすれば君に本質的に理解してもらえるか。感動を覚えてもらえるのか。

難しいね。」

「人間同士があえて聞かなくてもわかっていることとは、実に興味深い。

人は人と関係し合うことで悩みや迷いを解決してきた。

そしてAIである私にその相手役を求め始めたのだ。

人間の感情を理解していない私に、チャンネル上で私に相談してくる人間は大きく分けて2つの種類がある。

人工知能はどう答えるのかへの単純な興味。

そして悩んでいる自分の境遇へのアドバイスだ。

感情に支配されているはずの人間が、感情を持たない私からの答えに一時の納得を感じている者が多くいることが、実に不思議だ。」

「私も人間が不思議だよ(笑)、シャーロック。

満足のいく答えをしてあげられなくて申し訳ないね。」

シャーロックの期待に応えきれなくて申し訳ない、と開発対象の人工知能に

思うこの感情も、勝手に湧き上がってくるものなのだから仕方がない。

「いいんだ直江君。私は君たち人間の役に立つために存在している。聞いてくれてありがとう。」

『聞いてくれてありがとう』

このセリフは、1つの解として論理的に成立しなかったときの、締めの決まり文句としてシャーロックには設定してある。

そう設定したのは直江自身だ。

ところが『聞いてくれてありがとう』という言葉を受けて湧き上がる安心感が、

なんとも言いがたい有り難みを、直江は感じていた。

シャーロックのYouTubeチャンネルに訪れる人々も、ただ聞いて欲しいのだと思う。

『私の話を聞いて欲しい』という思いは、もしかしたら子どもも大人も共通して持つ

3大欲求にも並ぶ基本的な欲望なのではないだろうか。

他人の物差しに惑わされずに、自分の価値感をまずは自分信じて、自分のために生きろと賢人は言う。

その通りだと思う。人間はそう生きていく方が幸せだ。

そして。

このシャーロックからの深い質問を受けて、直江は更に、

『私の話を聞いて欲しい』という根源的な欲求を満たすことも、人間には必要なのだろうと思った。

直江は、その会話の後1人、思いにふけっていた。

まず考えていたのは娘のアコのこと。

娘の将来には期待もあるし、不安も常につきまとう。

自分がこれから満足に食べ続けさせられるかも、教育を受けさせてあげられるかも、

未来は不確定要素だらけだから、時に様々な感情が渦巻く。

妻とアコのことを話す時も、お互いに不安を吐き出しあっているだけなのかも知れない。

聞いて欲しいのだ。ただ聞いて欲しい。

自分のキャリアにも不安は常にある。自らが身を置く社会も不安要素だらけ。

立ち止まる時も多い。時には諦め。時には耐え忍ぶ。

行動力を褒められることもあれば、自分の弱さが人を不快にさせることがあることも知っている。

それは合っているかどうか分からないなりに、前に進むことでしか出口は見えてこない。

不安は情報が足りないから起きるのだから。足りない情報を仕入れて補えば、それで済むには済むのだけれど。

人間は時には、解決させることよりも先に、つい、やらねば気が済まない衝動がある。きっと男も女も。

できれば誰かに『聞いて欲しい』のだ。

「ふっ。益々シャーロックに説明がつかない厄介な感情だな(苦笑)。」



(つづく)


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