見出し画像

1話およそ1,000文字。スキマ時間にサクッと読める近未来短編SF小説。

AR彼女ミヤと付き合う未来の青年タケルの視点で、現実と拡張現実のミックスワールドで体験する未来のテクノロジーで、本能までもが拡張される日常を描く。
未来で待っている人々のニーズを先取りするフューチャーマーケティング風SF小説。

24 拡張されたホラー映画のラブシーン効果 からの続き。

タケルの脳内は幸せホルモンのセロトニンで、完全に満たされた。
ついにミヤとキスができた幸せに包まれ、微弱な帯熱とフワフワの特殊シリコンリップが搭載されたラブドールの唇、もといミヤの唇の感触に向けて、体の全神経が唇一点に向けられている。

------

タケルは純粋に、そんな感じでキスを味わっている。

陶酔している彼には内緒で考察するとして。
ミヤは、ミヤの中のAIはこの時、どんな情報処理がされているのだろう。
AR人間の表情に現れる感情は、生身の人間側が勝手に『喜んでいる』、『悲しんでいる』と感知しているだけであって、
実際はAIが、適切な表情パターンをその都度選択しているに過ぎない。

おそらくだがそんなことはタケルも承知しているはずだ、キスの瞬間にその思考が前面に出てこないというだけで。

現代の人間には、アニメキャラクターのVtuberに対して、投げ銭課金をする者もいる。そのキャラクターを動かすためにコントローラを握っている者がいる。
(ARガールフレンドはAIだが。)

その性別は男性かもしれないし、ボイスチェンジャーで女性の声に変換された聞こえてくるその声は、中年男性がしゃべっている可能性も否定はできない。しかし課金をする者にとって、その事実は時として、「投げ銭で応援したい」という1視聴者の行動動機を翻す理由にはならない。

つまり、タケルにとってミヤの脳はAIであってもなんら問題なく恋愛対象になり得ることと同じく、
もしかしたら中年男性が操作しているかもしれない萌えアニメキャラVtuberを課金で応援したいという人間の欲求、及びバーチャルキャラクターに評価経済的価値が宿るということは、成立する。

そして未来においては、現実に物理的に存在するのか、拡張されたARの世界にプログラムされた存在なのかは問題にはならずに、
一般的に受け入れられている価値となっている。

------

意図せず目を閉じていたタケルは、無限のようにも感じたその瞬間から我に返り、唇を離し、目を開けた。

ミヤも続いて閉じていた目を、そっと開ける。
(キスの間、タケルの目が閉じられている場合AR側も閉じる、という情報処理は確実は実行されていたようだ)

「... 」

ミヤは恥ずかしそうに頬を赤らめ、うつむいてもじもじと、言葉を発しない。
ただただ、『恥ずかしい』と『うれしい』の感情が伝わる表情している。

「(もう一回したい。。)」


(つづく)


お読み頂きましてありがとうございました。



この記事が参加している募集

貴重なお時間を使ってお読み頂きありがとうございました。全て無料で書いています。フォロー、スキ、コメント(賛否どちらも)はすごく励みになります!でわまたふらりとお会いしましょう:)