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色節 葵の御守(ショートストーリー)

京都に来て10年と少し。人の良さそうな顔のせいか、とにかく道を聞かれることが多い。

今日も御池通を職場に向かっていると、修学旅行生6人組に声をかけられた。一番真面目そうな男子生徒が話しかけ、少し離れたところに他の男子、女子は遠くから眺めている。言葉のなまりからすぐに同郷だとわかる。

下鴨神社に行きたいというので、河原町三条のバス停まで案内をしながらその理由を尋ねると「昔、葵の御守を買った生徒が難関校に受かったので、担任の先生がゲンを担いで毎年の恒例行事として生徒に買いに行かせている」という。ぼくは、鼓動の高まりを悟られないよう、あえて京都弁で「それは大変やね」とだけ相槌を打った。

バス停に着くと、ちょうど来たバスが彼らを乗せてすぐに出発。見送りを終えたぼくは、鞄から色あせた葵の御守を取り出し、マジマジと眺め、一人呟いた。

「先生に手紙でも書こうかな。きっと驚くやろうな」

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