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〔旅エッセイ #4〕ありがとうエールフランス 〜関西空港からシャルル・ド・ゴールド空港〜

2022年のクリスマスイブは、フランスへ向かっていた。イブの夜はパリで一泊し、その後南アフリカへ行く予定だった。出発は大阪の関西空港。行き先はパリのシャルル・ド・ゴールド空港。航空会社はエールフランスだった。

飛行機を降りたらメトロでホテルへ。荷物を置き、夕方のパリを少し散策。その後は簡単なクリスマスディナーを予定していた。そのため、宿泊先はメトロがある駅の目の前のホテルを探して予約していた。空港に着いたらメトロの移動を楽しみながら、街へ繰り出すぞと意気込んでいた。

そんな予定の雲行きが怪しくなったのは、機内で一度目の食事を終えた後だった。客室乗務員さん達が、なにやらざわつき始めていたのだ。

イブだから、とクリスマス音楽を聴いていた
KIX〜CDG間の機内にて(2022)

エールフランスの長距離便は、機内中央や後方にドリンクバーとスナックバーが用意されている。スナックバーには、サンドイッチ、ビスケット、キャンディー、チョコバーなどがあって、そこそこ充実している。小腹が空く私はかなり楽しめるので、エールフランスに乗る時はいつも楽しみにしている。

今回も同様だった。だからわざわざ、取りに行きやすいように通路側の席にしていた。
ストレッチもかねて、ちょこちょこと飲み物を取りに行ったり、ビスケットを取りに行ったりしていた。

機内が消灯モードに入ってから、ドリンクバーへ向かう時だった。日本人客室乗務員さん達が、日本人乗客に話しかけていた。これからのパリでの予定や観光プランについて、詳しくヒアリングしていたのだ。そこに明るさはなく、真剣さと、緊張感がほんのりあった。若干の違和感は感じつつも、特に気には止めなかった。オレンジジュースとを片手に席に戻る際も、まだヒアリングは続いていた。

音楽をきいたり、少しまどろんだりしていると、そのヒアリングがどんどん近くにきていることがわかった。その時初めて「何か」があったことを理解した。

ヒアリングが自分達の番になって、やっと状況がわかった。どうやら向かっている最中(フランス時間 : 12/23)にパリ中心部で銃撃事件が起き、死者や負傷者が出たとのことだった。事件はパリ10区で起きており、テロだとみられる。その時はまだそれ以上の情報や、詳細は明らかになっていなかった。


乗務員さんたちは、「乗客の滞在先が、事件のあった10区ではないか」を確認していたのだ。

幸いなことに宿泊先は10区ではなかった。事件のあったエリアとも遠かった。しかし、到着後のパリでの予定や滞在先を教えると、『散策やメトロでの移動は諦めてほしい。空港からタクシーに乗って、ホテルへ直接行ってください。ホテルからは一歩も出ずに夜を明かしてほしい』と言われた。それに伴い、飛行機を降りたらどこに行けばよいのか。タクシーはどれが良いのか。『滞在先のホテルまでなら、タクシーは定額58ユーロで行けますよ』などと、細かく教えてくれた。そして『食事を買う時間がないだろうから』と、軽食まで持たせてくれた。驚くほど丁寧なサービスだった。

一方、乗務員さんに丁寧な忠告をもらってもなお、ホテルに一夜こもることに対しては迷いの気持ちがあった。クリスマスイブの夜をパリで過ごすことは、この先の人生できっとないだろう。メトロ移動は諦めても、ディナーと散策はしたい。だけど、この丁寧すぎるほどの素晴らしいエールフランスのサービスを、無碍にしてもいいんだろうかとも葛藤していた。

乗務員さんも、そんな私の気持ちがわかったのか、「この後は南アフリカへ行くんですよね。旅慣れしているでしょうから、ホテルへまず向かい、あたりを少し散策するぐらいなら問題はないかもしれません。ただし空港とホテルについたら、最新の事件の情報をチェックしてくださいね」と言ってくれた。


雨の降るパリ・セーヌ川
Paris, France(2022)


到着したパリは、雨だった。
空港に着いた瞬間にWi-Fiで事件を調べるも、追加情報を掴むことができなかった。大人しく空港から定額のタクシーに乗って、ホテルへ直行した。乗務員さんと約束した通りに、ホテルの周辺を少し散歩し、ホテルすぐのカフェレストランで紅茶を飲んだ。ディナーは諦め、パリでの夜を終えた。

翌日のクリスマス当日。
私は何のトラブルもなく、パリを後にした。


旅に出るたびに、自分が思っているよりもずっと、誰かに守られているんだと感じる。今回のエールフランスのサービスなんて、最たる例だ。
知らず知らずのうちに危ない橋を渡っていたことは、一度や二度ではないのだろう。私が今日まで無事に旅に出かけられることは、当たり前ではないのだ。

シャルル・ド・ゴールド空港の
有名な巨大猫のモニュメント
Paris, France(2023)


その翌週、今度はパリから名古屋の中部国際空港に行くために、再びエールフランスに乗る機会があった。すると搭乗カウンターで、アドバイスをくれた乗務員さんを見かけた。声をかけようと試みるも、別のお客様を対応していて忙しそうだったので、断念した。きっと機内でお礼を言えるだろうと思っていたのだ。しかし、機内ではお見かけできず、直接お礼を言うことはできなかった。

エールフランスには、この先何度か乗るだろう。
いつか直接お礼を言える日が来ますように。
ありがとう、エールフランス。
次に乗る機会を楽しみにしている。

なお、パリから中部国際空港間のエールフランスのサービスは、ものすごくひどかった。
まあ、そんなもんか。


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