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橋本徹(SUBURBIA)×DJ SAGARAXX 新春放談Vol.1「UKソウル/UKジャズ対談・後日談〜南アフリカ・ジャズ特集」

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「UKソウル/UKジャズ2020対談」とプレイリストへの熱いフィードバック

橋本:あけましておめでとうございます。

S:おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。2020年、すごくいろんなことがありましたけど……。

橋本:いや、本当にあの「UKソウル/UKジャズ2020対談」ができてよかったよ。いま何が大切かっていうことを改めて感じることができた対談で、話をする前には想像できなかったくらい重要で示唆に富んだものになりました。

──その対談についての周りの反応といったところから話をしていきましょう。今回SAGARAXXが事前に送ってくれたメモだと「結果として、かつて音楽を聴いていて、最近音楽を聴く時間がなく、いざ聴くとなるとまず何から聴いていいかわからない、30代から40代の人たちへヴィヴィッドに訴求したのではないか?」ということですが。

橋本:そうだね、ホント反響が大きかったね。アラフィフの友人たちに関しても同じことが言えて、ポール・ウェラーで始まりソウル・II・ソウル、シャーデーと展開していったのがよかったのかな(笑)。もっと大切なことはその先で話したことだけど、ひとことで言うと、自分が音楽ファンとしてもリスナーとしても友達としても信頼している人たちから好反応がたくさんあったというのが、あの対談の感想でいちばん大きいかな。

──あとは「Flight Free Soul」のariboくんみたいな熱い反応もありましたよね。Bar Musicでの「Toru II Toru」でフリーペーパーを読んで、「SAGARAXXさんってホント熱いですね!」って興奮していたのが印象的です(笑)。

橋本:そうそう、「おまえが熱いよ」って言い返したんだけど(笑)。さっきariboと話す機会があって「今日またSAGARAXXと対談する」って言ったら、「昨日もオンラインで話してました」って言ってて(笑)。

S:ariboくんが対談以降、連絡をくれたり質問をくれたりしてて。いろいろコミュニケイションを取ろうっていう。対談がなければそうなってなかったと思うんですよね。

橋本:あの対談は素直な彼の心を動かしたと思うよ。

S:「熱すぎて大丈夫ですか?」みたいなことを言われて(笑)。対談のあと、「いい対談だけど、10年後くらいに評価されればいいね。ロバート・グラスパー・エクスペリメントの『Black Radio』の曲におけるグラスパーとMos Defとのエピソードみたいに」というようなことを橋本さんと話していたので、こんなに「ヤバいっす!」みたいなリアクションが次々にあったのは嬉しい驚きでした。

──あれを機に一気にいろいろ急接近しているという。

S:彼にはAmapianoのイヴェントも含めて前向きな反応をもらいました。あとは最近あまり連絡してなかった人たち、音楽を聴く時間がなくて子育てに忙しい僕の同級生とかも読んでくれたみたいで。HMV record shop 渋谷の人たちとか、DJの先輩とかも。対談を通してSNSとはまた違ったコミュニケイションができたのも印象的です。

橋本:そうやって人の心が動いて、新しい一歩を踏み出すきっかけになったら嬉しいよね。それによって僕らもより楽しくなるしね。そういう意味で90年代、自分が20代の頃ってそういう仲間がたくさんいたんだけど、あんな状況にまた近づいていけばいいなって思うな。まあ、あの頃みたいに片っ端からレコードを買うってことで分かち合うって感じじゃなくてもいいわけじゃない? プレイリストをシェアしたりサブスクリプションで聴くという形から入ることもできる時代だから。

S:対談だけじゃなくて、そのサウンドトラックとしてプレイリストもつけることで、音源にすぐアクセスできるのがよかったのかなって思いました。

橋本:僕自身もあのプレイリストはよく聴いたし、プレイリストだけどシャッフルじゃなくて対談に沿って曲順通り聴くことによって、物語として魅力的になっているというか、コンピレイションとして聴けるものになっているなと思ったよ。

──ストーリー性があるというのは大事ですね。それによって映画や本みたいに何度も繰り返し聴きたくなると思います。

S:橋本さんは選曲のプロフェッショナルだから、コンピレイションとはまた違ったプラットフォームとしてのプレイリストという意味で、あの対談がいいフックになればな、というのは思ったりもしました。

橋本:そうだね。サブスクのプレイリストはまだコンピレイションほど美意識を隅々にまで行きわたらせることができないフォーマットだなって思ってるから、最近の若い人たちに比べると積極的ではないんだけど、あれに関してはぜひ聴いてほしいっていう気持ちが湧いたっていうか。極端なヴォリュームの違いがないかとか曲間が空きすぎないようにとか考えて組んだっていうのもあるかもしれないけどね。逆にSaultの「Free」の音量が大きめなのを逆手にとったり(笑)。あとはジャケを作れたら、よりよかったとは思うけど。

海を越えて広がる共感と重なり合う「小さな物語」の尊さ

──対談を「Toru Ⅱ Toru」のフリーペーパーに掲載してBar Musicで配布したことや、SAGARAXXがBenji B周辺の海外の友人にリンクを送ったり、韓国語に翻訳して周りの人たちに配ったことなども付け加えておくべきですかね。対談でも話していた「小さな物語」とも通じる動きだと思います。

橋本:前回の対談で僕に最も響いた言葉ってそれなんだよね。小さい物語がたくさんある方が尊いっていうSAGARAXXの発言なんだけど。どうしても経済的な物語に吸収されてしまいがちなこの資本主義社会がずっと続いてきているわけだけど、身近な小さな物語がいくつもあることの方が幸福な世の中なんじゃないかという。たまたま今日読んだインタヴューの中で、ブライアン・イーノがそれに通じる話をしてたんだけど。

──そうなんですか。

橋本:若林恵さんがインタヴュアーなんだけど、パンデミックってことを踏まえて2020年の生活を振り返りながらSNSの功罪なんかにも踏み込んでいる、イーノらしい内容だったよ。もちろん共感できる部分も多くて、海を越えて共感できる人がいるのは嬉しいものだね。

S:ロンドンから南アフリカ・ジャズ新世代を特集する次号の「WIRE」誌の表紙も撮っている南アフリカのフォトグラファーに「いいね!」って言ってもらったり、Benji Bがハートマークつけてくれたり、彼と一緒にパーティーをやってた人たちと対談やプレイリストをシェアできたり。

橋本:中でもSAGARAXXが教えてくれたうちでも、象徴的なのはBandcampの2020ベスト・セレクションだったね。自分たちと同じようなところに反応してポジティヴに音楽を楽しんでる人たちがいることが可視化されて、気持ちが上がるっていうのはあるよね。

S:そうですね。フェイクニュースの時代に、まったくフェイクではない、いいものとして売れているものとしてセレクトされているので。実際、Saultのアルバムもまだ売れ続けているみたいですね。いろいろなところでアルバム・オブ・ザ・イヤーにもなったし。HHVっていうドイツのレコード屋のチャートにもインしてたし。MF Doomが亡くなったので、いまは彼が1位ですけど。

橋本:Saultの『Untitled』2作はもちろんイギリスでは別格の評価があるんだけど、イギリスの音楽シーンに敏感な人は概ね好反応という印象だよね。俺みたいにワン・トゥー・フィニッシュにする人はいないけど(笑)、メディア含めそれに近い感じの人は何人かいたみたいだよ。

──かなり反応している人が多いなっていう印象はありましたね。

橋本:リリースされてしばらくはそれほどじゃなかったけど、Rough TradeであったりBandcampであったりの高評価を見て、これは2020年を象徴する作品として年末年始に聴きたいという人も増えたんだと思うけどね。

──そういうメディアの力が作用している部分もありますよね。もちろん音楽がよかったからというのが大前提ですけど。

S:作品が本当によかったですよね、あれは。「UKソウル/UKジャズ2020対談」が終わった後も聴いて、改めていいなあと思うアルバムでした。

橋本:いま振り返ると、10月29日に対談してよかったなと。いろんな年間ベストがちょうど出る前くらいの時期で、公開のタイミングもベストだったなという気がするね。

──今頃出てたら後出しじゃんけんみたいな感じが否めなかったかもしれませんね。早めに2020年を総括した感じがよかったですよね。

S:そうだと思いますね。あとは去年は、橋本さんが結婚して、奥さんのパソコンのおかげでオンライン対談できるようになったというのもかなり……実は僕的にはベストワンのニュースはそれなんですけど(笑)。

橋本:Saultと言えば、結婚して家で音楽を聴く中で、クレオ・ソル(Cleo Sol)は特別な存在だったなと思っていて。それも偶然の奇跡というか、拳と合掌(『Black Is』と『Rise』)というイメージがあると思うけど、自分的には2020年は拳と合掌とクレオ・ソルっていう意識がどっかにあったかな。

──なるほど。三角形、トライアングルというか。

橋本:そうそう。だからSAGARAXXが働いているレコード・バーLe MontreuxのInstagramの年末企画で写真を頼まれたときも、その3枚のジャケットと奥さんを撮って送ったんだよね(笑)。

S:その節はありがとうございました。あれはいい写真でしたね。店のオーナーが「理想の部屋だ」とうらやましがってました(笑)。

新譜豊作で質・量ともに充実を極める「suburbia radio」とモーゼス・タイワ・モレレクワ再訪

──クレオ・ソルの存在の重要性については、前回の対談でも橋本さんが話してくれていましたよね。

S:クレオ・ソルも本当にいいアルバムで、歌とメロディーの素晴らしさはもちろんInfloのプロデュース・ワークも冴えてましたね。

橋本:(感慨深げに)いやあ、その3枚に限らず本当に昨年は豊作でしたよ。

──しみじみと振り返っている(笑)。

橋本:それで「suburbia radio」の放送時間がどんどん長くなり(一同笑)。でもそれがいちばんの嬉しい悩みだったね。24時を超えないようにって。

S:かけたい曲がとにかくすごくたくさんあるっていう。

橋本:この前の対談でもSAGARAXXの言葉が印象的だったけど、「とにかく今ホットなんですよ!」っていうことだよね(一同笑)。

──パンチラインが出ましたね!

橋本:前回の対談、SAGARAXXが冴えまくってるんだよね。キラーフレーズがめっちゃあって。

S:そういう意味では、前回の対談のUKアフリカン/UKカリビアンの話とも密接につながりますが、2021年は南アフリカのジャズがホットになりそうですね。

橋本:さっそく今月の「suburbia radio」で特集しようかと思ってるよ。

S:「suburbia radio」では以前、2018年5月と6月に南アフリカ・ジャズの特集をやっていて、「よかったら聴いてみて」ってことで聴いたのが、アプレミディ・レコーズからCDリイシューされたモーゼス・タイワ・モレレクワ(Moses Taiwa Molelekwa)の『Genes And Spirits』でした。これ、すごくいいアルバムですね。

橋本:いいよね!

S:なんでそもそもこれをCDでリリースしようって話になったんですか?

橋本:ちょうどその特集と同じくらいのタイミングでリイシューしてると思うんだけど、そのひと月くらい前にMatsuli Musicっていう南アにフォーカスしたUKの復刻レーベルからアナログ盤が出たんだ。新譜をリリースするだけじゃなくて、リイシューを新譜のように届けるということの意義をとても感じる作品で、彼はジャズマンとして存在的にも音楽的にも、南アフリカでめちゃリスペクトされているピアニストだし、これは日本でも聴かれるべきと思ってね。前回の対談とも通じるけど、アフリカやカリブのリズムの融合、ナイジェリアのアフロビートにキューバやブラジルも入っていたりして。

S:フローラ・プリムが歌ってる曲もありますね。

橋本:そうそう、チューチョ・ヴァルデスやブリス・ワッシーもゲスト参加してるし。そういうパン・アフリカン~カリビアン~ブラジリアン的な音楽の豊かさに惹かれるよね。

──いろんなものが交差している感じですね。

橋本:そういう意味でUKソウル/UKジャズ、UKアフリカン/UKカリビアンの話ともすごくつながってくるんだけど、イギリスの移民カルチャーから生まれた音楽性や空気感、肌触りと共通するものがあるアルバムだから。アプレミディ・レコーズってリリースのほとんどがコンピか新譜で、再発ってそんなにないんだよね。カルロス・アギーレの『Crema』を復刻してアルゼンチンやネオ・フォルクローレの人気が高まったように、『Genes And Spirits』も現在進行形で輝くべき意義深いものだなと思ってやったんだけど、見事にこの2000~2021年のUKジャズ/UKアフリカンの流れにつながってきたよね。

S:お見事っていうか、すげえいいですよ、このアルバム。2000年にリリースされてたって聞いて、なんだか時間軸がよくわからなくなってくる(笑)。

Brownswoodコンピ『Indaba Is』を予見したような「suburbia radio」2018年の特集

橋本:「suburbia radio」の2018年5月の放送、今月末にジャイルス・ピーターソンのBrownswoodから出るコンピ『Indaba Is』でキュレイター/音楽監督として大きな役割を果たしているタンディ・ントゥリ(Thandi Ntuli)もかけているし、そのコンピからの先行公開曲に選ばれたボカニ・ダイアー(Bokani Dyer)もかけているし、いま思うと予見的というか、2年半後を予言するような選曲で。ベンジャミン・イェフタ(Benjamin Jephta)に、前回の対談でUKと南アフリカのジャズを結ぶキーマンと話したシャバカ・ハッチングス(Shabaka Hutchings)も入ってて、対談のサウンドトラックのプレイリストに入れたシェイン・クーパー(Shane Cooper)のマブタ(MABUTA)との共演をかけてて。イギリスと南アフリカのジャズの蜜月っていう感じでね。それでそういうのをかけた翌月は、サウス・ロンドンとサウス・アフリカの蜜月をテーマにした特集だもんね。この2か月連続で、今月やろうかと思ってる南アフリカ・ジャズの特集の礎になってるし、『Indaba Is』のリリースを予見しているような……。

S:まさに、そうなんですよ。

橋本:改めて思ったのは、自分はイギリスの音楽を経由して南アフリカの音楽に惹かれていったのかなっていうことで。2018年5月の特集ではクワイトとかも絡めてかけてるでしょ。あのときMpumiの「Singapore」かけて、すごく鋭いこと言ってなかった? これはソウル・II・ソウル感じますね、みたいな。

S:言ってましたね。

橋本:僕がなんで南アフリカを意識するようになったかっていうと、高校生のときにスペシャル・AKAの「Nelson Mandela」とか、ピーター・ゲイブリエルの「Biko」とか、アパルトヘイトに対して闘ってきた人たちを讃えるイギリスの音楽に惹かれたのがきっかけなんだ。ネルソン・マンデラや(スティーヴ・)ビコが人の名前だとかは聴いてるときに付随情報として知るんだけど、地理や歴史が好きだったこともあって、アパルトヘイトの実情や抵抗運動について個人的に掘り下げて学んだんだよね。

S:じゃあ、橋本さんが南アフリカを意識したきっかけのひとつにピーター・ゲイブリエルの影響があるってことですよね?

橋本:もちろん。彼が企画から運営まで手がけた1982年のWOMAD(World Of Music And Dance)は忘れられないよね。

──80年代はそういう感じで入っていった人も多いんじゃないですか? ピーター・ゲイブリエルは当時話題になりつつあったワールド・ミュージックを積極的に取り入れた先鋭的なアーティストのひとりでしたし。

橋本:スペシャル・AKA「Nelson Mandela」のミュージック・ヴィデオなんてまさに“ジャズで踊る”の先駆けにして決定版じゃない? IDJのダンスもかっこよくて。最近は時流からDJでは「Racist Friend」をかけることの方が多いけど。

S:カフェ・アプレミディの武田(誠)さんは、「対談よかったよ」っていうメッセージをくれたあとに、「今夜は僕にとっての移民音楽、スペシャル・AKAを聴きます」って書かれていて。

橋本:わかるなあ。スペシャル・AKAやピーター・ゲイブリエルを機に南アフリカの音楽や歴史、実情について学んでいったのはホント大きかったな。それがBandcampの『Indaba Is』のページを読んでて、改めて深く学び直したいなって思ったんだよね。

S:南アフリカのアーティストたちのメッセージから、彼らの過去の歴史への思いや祈りが伝わってきますよね。

アパルトヘイトへの抵抗と切り離せない南アフリカ・ジャズにこめられた祈りと“Black Is”

橋本:あとは1976年6月16日のソウェト蜂起を題材にしたドキュメンタリー映画『UPRIZE!』のサントラからもね。ジャケもかっこよくて、SPAZAというグループが映画のラフカットをリヴィングルームの壁に映しながら即興演奏で録音したそうなんだけど、Bandcampのページを読んでると、深く感じ入るものがあったね。

──なるほど。ぜひ読んでみたいですね。

橋本:ソウェトとかタウンシップ・ジャズとかのひと通りの歴史に対する知識と、ヒュー・マセケラやダラー・ブランドも含めたモーゼス・タイワ・モレレクワあたりまでの南ア・ジャズの流れ、あとは「suburbia radio」でもかけてるように、カイル・シェパード以降の、アメリカで言うとロバート・グラスパー以降の世代の感じから、近年のNduduzo MakhathiniやAyanda Sikade、Ndabo Zulu周辺の充実などは把握してるつもりではいたけど、もっと詳しく南アフリカのジャズのこともアパルトヘイトの歴史も学び直したいなって思ったよ。

S:『UPRIZE!』のサントラは本国でどのくらい売れたのかとかはよくわからないですけど、ドイツのHHVのチャートの15位くらいに入ってたんですよね。橋本さんも好きなシカゴの名門ジャズ・レーベル、International Anthemの人たちともつながりがあるみたいですね。

橋本:考えてみたらAngel Bat Dawidとかの怒りの表現、スピリチュアル・ジャズの怒りの表現みたいなのは、直接的な表現でなくてもサウス・アフリカ・ジャズの根底に強く息づいてるよね。Brownswoodから出る『Indaba Is』も、南アフリカのアパルトヘイトに対する抵抗の歴史をすごく意識したものになっている。ミュージシャンの発言がそれをとても大切にしていて、これって何につながってくるかっていうと、僕的にはSaultなんだよ。凄くない? “Black Is”なんだよ。これはルイ・ヴィトンのBenji BディレクションでMos DefやSaul Williamsが出るという2021年秋冬メンズのファッション・ショウの話ともつながるんだけど、その“Black Is”という時代の空気は強く感じ取った。『Indaba Is』はサウス・ロンドン新世代ジャズの人気に火をつけたコンピ『We Out Here』の南アフリカ版くらいに、トレンドとして日本の音楽評論家やジャズ〜クラブ系リスナーは捉えるかもしれないけど、2020年に『Black Is』と『Rise』でSaultがやったことと通底していることに気づくのが大切なんだよね。片やBLM、片やアパルトヘイトだけど。

──抵抗の歴史ですね。異議申し立てというか。

橋本:そう、レベル・ミュージック。アフリカ系のアーティスト、表現者たちによる、スピリチュアルな異議申し立てだね、確かに。要は自らの意思を表明して立ち上がるっていう位置づけなんだなってことがよくわかった。

S:だから、すごく意味深いコンピレイションなんですよね。

橋本:単にシーンのショウケイスってだけじゃなくて、精神的な意味で『Black Is』や『Rise』に通じるような思いをこめて作られた音楽なんだなってことが理解できてよかったな。タンディ・ントゥリやボカニ・ダイアーにしても「suburbia radio」でかけるくらいだから、音楽はモダンで洗練されているんだけど、少なくとも精神的にはそういうのに根ざしていて、それが音楽の強さ、豊かさにつながっているよね。

タンディ・ントゥリらの活躍と広がり続ける南アフリカ音楽の魅力

S:橋本さんのそういう思いが伝わるのか、インターネットでつながった『UPRIZE!』サントラのリリース元でもあるMushroom Hour Half Hourのオーナーに「suburbia radio」のオンエア・リストを送ったら、「So Dope!」と返ってきました(笑)。彼は『Indaba Is』にも参加しているシンガー・ソングライター/ギタリストのSibusile Xabaのアルバムもリリースしてるんです。Instagramにはタンディ・ントゥリが『Inbada Is』の白盤が届いて喜んでる映像もありましたけれど、歴史的にもすごく意味深いコンピレイションを作ってるっていうのが、その動画を見るだけでも伝わってきて、思わず感動してグッと来てしまいましたね。

橋本:タンディ・ントゥリは音楽的にもすごく好きだったから、今回キュレイター/音楽監督が彼女だったのはとても嬉しかったね。『We Out Here』でのシャバカ・ハッチングスみたいな重要な役割だから。さっき自分の2018年の上半期ベストをこの年の6月に作った「Toru II Toru通信」で見てたんだけど、俺15位にタンディ・ントゥリ『Exiled』を選んでるんだよね。それどころかベスト50に他にボカニ・ダイアーもいるし、ベンジャミン・イェフタもシェイン・クーパーのマブタもいるんだよ。

──2年半前にけっこう選んでいたという。すでに南アフリカ・ジャズが橋本さんの心をつかんでいたんですね。

S:これはあれですね、「bounce」で特集ですね(笑)。

橋本:「間違いなく南アフリカ特集やってたはず!」ってSAGARAXXのメモに書いてあるけど、今月また「suburbia radio」でやろうかなって思ってるから。去年のUKジャズやUKアフリカンの特集ともリンクするし。「bounce」だったら間違いなくタンディ・ントゥリやNduduzo Makhathini、Zoë ModigaとSeba Kaapstadにはインタヴューして、当然Amapianoも「Amapino Is A Lifestyle」ってタイトルで大特集するね。前回の対談で光を当てたジュールズ(Juls)のインタヴューも取って、ナイジェリアの新世代オルテ・ムーヴメントも絡めるだろうな。

──それはいいですね。かなり読んでみたいです。

橋本:あと最近驚いたのが、バラク・オバマの選んだ2020年の30曲のリストに、Prince Kaybee feat. Black Motion, Shimza & Ami Faku「Uwrongo」(Edit)が入ってたことなんだよね。「suburbia radio」でかけて大推薦した、「Amapiano Life」のプレイリストにも入れてる曲なんだけど、どこで知ったんだろうって。他にもマック・ミラーとかYEBBAとか、我が家で大人気のホープ・タラとか、リトル・シムズ、ウィズキッド、スピレッジ・ヴィレッジとか、めちゃ「suburbia radio」とかぶっていて。

──「ヤバいぞ南アフリカ」っていうのは、アメリカの音楽好きにも伝わってるのかもしれませんね。Seba KaapstadはMello Music Groupからリリースされましたし、Nduduzo MakhathiniはBlue Note初の南アフリカのジャズマンとの契約でしたし。イギリスほど密接ではないにしても。

“Lovers Rock”に託されるBLMや反アパルトヘイトと通底するUKブラックの思い

S:『UPRIZE!』も昨年アメリカのフィルム・フェスティヴァルで公開されてますから、そういう意味でも世界的にいろいろと連鎖的に高まっているのは事実ですね。あと、この前の対談でSuburbia Sound Systemの話になりましたけど、いまイギリスで『それでも夜は明ける』のスティーヴ・マックイーンが監督した『Lovers Rock』っていうUKカリビアンの歴史、70年代のウエスト・ロンドンのUKブラックの生活を描いた映画があるんですけど、そのサウンドトラックにジャネット・ケイの「Silly Games」とかルイザ・マークの「Keep It Like It Is」とかが入ってるんです。監督自身がその地域の出身みたいで、カリビアン・コミュニティーの人種差別の話なんですけど。

橋本:BLMも意識していて、監督はこの映画を故ジョージ・フロイドに捧げるとも言っているんだよね。それと、いまシンクロニシティーというか、現在進行形的だなと思ったのは、「suburbia radio」でジュールズ・プロデュースの「London」っていう曲をかけたトミ・アガペ(Tomi Agape)っていう、いわゆるUKアフリカンのナイジェリア系移民女性シンガーがいるんだけど、彼女の最新シングルが「Lovers Rock」っていうんだよね。

──おお、シンクロしてますね!

橋本:そのあと出たアルバム聴いたら、やっぱりジュールズがプロデュースした2曲が特によかったけど、ガーナの人気歌姫Amaaraeと元祖オルテ・ガイのBojをフィーチャーしたこの曲もかなりよくて。このコラボレイションも「UKソウル/UKジャズ2020対談」の後日談としては小さな嬉しいエピソードだね。

S:“Lovers Rock”ってタイトルにするっていうのも、いまの空気をつかんでやってるからですよね。その映画はまさにいまイギリスで放映されていて、日本ではまだなんですけどAmazonで公開予定らしいので、そうしたら日本でも話題になるかもしれませんね。ワルツさん(waltzanova)も好きな『Relaxin’ With Lovers』シリーズ、あのジャケットの風景の雰囲気ですね。

──ああ、いいですね!

橋本:あの写真って本当にUKカリビアンの雰囲気だよね。シリーズの最初のコンピに入ってた15 16 17「Emotion」からデニス・ボーヴェルのピアノ・ダブへの流れとか僕も好きで。いちばん移民カルチャーの音楽という感じがするUKレゲエというかね。もちろんアリワのマッド・プロフェッサーもそうだけど。彼もカリブ海に近いガイアナ出身だからね。Suburbia Sound Systemのコンピで使わせてもらった菊地昇さんの写真もそうだけど、あのモノクロの写真がとらえてる空気感が僕らは好きなのかもしれないね。

(新春放談Vol.2に続く)

構成/waltzanova

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