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橋本徹の2020年ベスト・アルバム60枚 +「UKソウル/UKジャズ2020対談」

Toru II Toru通信(2020年12月5日)
橋本徹(SUBURBIA)が選ぶ2020年ベスト・アルバム60枚
Selection & Text by Toru Hashimoto (SUBURBIA)

2020年ベスト・アルバム60枚

(1)Sault『Untitled (Rise)』
(2)Sault『Untitled (Black Is)』
(3)Mac Miller『Circles』
(4)Sen Morimoto『Sen Morimoto』
(5)NNAMDÏ『BRAT』
(6)Purnamasi Yogamaya『Oh My Beloved』
(7)Flanafi『Flanafi』
(8)WizKid『Made In Lagos』
(9)Marcos Ruffato『Vata』
(10)Ted Poor『You Already Know』
(11)Nubya Garcia『Source』
(12)Blake Mills『Mutable Set』
(13)Rodrigo Carazo『Octógono』
(14)Common『A Beautiful Revolution (Pt 1)』
(15)Sidiki Camara『Yafa』
(16)Cabane『Grande est la maison』
(17)Peter CottonTale『Catch』
(18)Jeremy Cunningham『The Weather Up There』
(19)Bruno Major『To Let A Good Thing Die』
(20)Jeff Parker『Suite For Max Brown』
(21)Nyah Grace『Honey-Coloured』
(22)Luedji Luna『Bom Mesmo É Estar Debaixo D'Água』
(23)John Carroll Kirby『My Garden』
(24)Cleo Sol『Rose In The Dark』
(25)Zé Manoel『Do Meu Coração Nu』
(26)Simmy『Tugela Fairy (Made Of Stars)』
(27)Zoë Modiga『Inganekwane』
(28)Liv.e『Couldn't Wait To Tell You...』
(29)Eddie Chacon『Pleasure, Joy And Happiness』
(30)Duval Timothy『Help』
(31)History Of Colour『Antumbra』
(32)Banti『Proyecciones』
(33)Alabaster dePlume『To Cy & Lee: Instrumentals Vol.1』
(34)Bongeziwe Mabandla『iimini』
(35)Moses Sumney『Græ』
(36)Meritxell Neddermann『In The Backyard Of The Castle』
(37)Mama Odé (Reginald Omas Mamode IV & Jeen Bassa)『Tales And Patterns Of The Maroons』
(38)Clap! Clap!『Liquid Portraits』
(39)Brendan Eder Ensemble『To Mix With Time』
(40)Pacific Coliseum『How's Life』
(41)Gwendoline Absalon『Vangasay』
(42)The Microphones『Microphones In 2020』
(43)Sauce And Dogs『Sauce And Dogs』
(44)Adrianne Lenker『Songs And Instrumentals』
(45)Stav Goldberg『Songs』
(46)D Smoke『Black Habits』
(47)Flor Sur Cello Trio『Andorinha』
(48)Fleet Foxes『Shore』
(49)Fred Hersch『Songs From Home』
(50)Sam Amidon『Sam Amidon』
(51)Seba Kaapstad『Konke』
(52)Federico Estévez『De Aqui Hasta Aqui』
(53)Sam Gendel『Satin Doll』
(54)Gregory Privat『Soley』
(55)VRITRA『SONAR』
(56)Thomas Bartlett『Shelter』
(57)Thanya Iyer『Kind』
(58)Actress『Karma & Desire』
(59)Ana Gabriela『Ana』
(60)Lianne La Havas『Lianne La Havas』

上半期ベストワンに選んだ『Untitled (Black Is)』に続いて、その3か月後にリリースされた『Untitled (Rise)』を、迷うことなくNo.1アルバムとして、Saultのワン・トゥー・フィニッシュとなった2020年。BLM運動に呼応した大傑作、という意味合いももちろん見逃せないが、何よりもその音楽的な豊かさと強さに魅せられた。世界中が経験したことのない苦難・困難に見舞われた今年(個人的には54歳を迎えついに結婚したりして、それなりに幸せでしたが)、時代の鼓動がしっかりと刻まれた、この「拳」と「合掌」が持つ意義は大きいと思う。
コロナ禍によってアーティストもリスナーも音楽と向き合う時間が増えたからか、新作リリースを楽しむという点では例年以上に充実していた。EPやシングルのフェイヴァリット作もそれこそ枚挙に暇がないが、「usen for Cafe Apres-midi」の“2020 Best Selection”のためにセレクトする約700曲ほどをリストにして、年末にカフェ・アプレミディのホームページに掲載する予定なので(計720曲のリストが12/26にこちらに掲載されました)、楽しみにしていてほしい(そう、僕が今春コンパイルしたカフェ・アプレミディ20周年記念CD『Cafe Apres-midi Bleu』も、未聴の方はぜひ手に取っていただけたら嬉しいです)。
最後に、欧米あるいはブラジルやアルゼンチンやカリブ海の音楽を中心に聴いてきた自分のリスニング・ライフが、昨年~今年とかなりナイジェリアや南アフリカを始めとするアフリカ寄りにシフトしてきていることも、付け加えておこう。その傾向と無関係ではないが、僕がここ数年、最も興味深く追いかけているのはUKソウル/UKジャズ(UKアフリカン/UKカリビアンと言い換えてもいいだろう)のシーンだ。僕が選曲/パーソナリティーの「dublab.jp suburbia radio」でもたびたび特集していたら、その熱心なリスナーのDJ SAGARAXXが、ぜひ「UKソウル/UKジャズ2020対談」という感じで話をしましょうと、声をかけてくれた。とても大事なことをたっぷり話せたと思うので、この一年を振り返りながら、そして過去と未来にも思いを馳せながら、読んでみてください(その対談のサウンドトラックとして僕とDJ SAGARAXXで作ったプレイリストも、よかったらどうぞ)。



橋本徹(SUBURBIA)×DJ SAGARAXX「UKソウル/UKジャズ 2020対談」(2020年10月29日)
構成/waltzanova

ポール・ウェラーのUKソウル再訪

──今回は2020年のUKジャズ/UKソウルの盛り上がりについてお二人に話をしていただくんですが、まず最初のトピックは“ポール・ウェラー新作の「More」がグッド・ソウルではないか?”という。

橋本:そう、今回は事前にSAGARAXXが話のトピックになるような箇条書きのメモをくれたんだけど、とてもいいポイントを突いているなと思って。ウェラーのその曲はロイ・エアーズ「We Live In Brooklyn Baby」インスパイアなんだけど、カーティス(・メイフィールド)とかテリー・キャリアー、ボビー・ウォマックといった雰囲気もあって、90年代前半のソウル色の強かった頃のポール・ウェラーを彷彿させる感じで。アルバムのタイトル曲「On Sunset」へつながってくところも最近のウェラーの中で僕の一番好きなところだったので、ちょっと意外だったけど、DJ SAGARAXXからその指摘があったのは嬉しかったな。SAGARAXXは僕の中では、どちらかと言うとヒップホップやジャズ~ソウルのトラックものとかビート・ミュージックのイメージが強かったからね。

──確かに意外でしたね。

S:僕と橋本さんの共通の友人の田中(ヒロキ)さんからポール・ウェラーの新作がすごい良かったという話を聞いて。その前の週のWorldwide FMかBBCのRadio 6で、ジャイルス・ピーターソンもポール・ウェラーの「More」をかけてたんですよ。それがあまりにも良い曲だったんで、昔の曲だと思ってたんですよ。

橋本:ジュリー・グロのフランス語の女性ヴォーカルが入ってくるところもいいんだよね。かつてのスタイル・カウンシルとかソロ初期のウェラーみたいな感じで。

S:それが普通にUKソウル特集みたいな中でかかってて、これもUKの新しい動きにポール・ウェラーが反応しているんじゃないかと思ったりして。

橋本:非常にフレンドリーな解釈でいいね。僕も変に分析して整理せず、点と点をつないでいくのが好きなので、共感できるな。

S:僕もすごくいい曲だと思って印象に残ったので冒頭の話題に持ってきました。

Soul II Soulのアフロビート・リメイクの必然性

橋本:で、続いてSoul II Soulの「Back To Life」のアフロビート・リミックス。これは2020年を象徴する曲だと思うんだよね。グラウンド・ビートはUKブラックの発明と言えるようなリズムだけど、その金字塔〜クラシックである「Back To Life」をアフロビート、今年亡くなったレジェンドのトニー・アレンのドラムをフィーチャーしてリメイクしているという。僕はクリア・グリーン・ヴァイナルを手に入れて、今DJプレイしまくってます(笑)。

S:200枚限定ですね。ジャジー・Bが現在主宰しているファンキー・ドレッドからのリリースで。リミックスを手がけているのはトライブ・レコーズのゼファーリン・セイントだし。

橋本:これだけの役者が揃って、UKブラックの名作がフレッシュに2020年に再登場するという。これを実質的な最初の話題に持ってきたのは、SAGARAXXは今回の対談、めちゃ力入ってるなと(笑)。

S:僕自身は「dublab.jp suburbia radio」でナイジェリアのオルテ・ムーヴメントや南アフリカのAmapianoも聴かせてもらってるので、なぜこれが今リリースされるのかもわかるんですけど、いきなりレコード屋に行ってこれがリリースされてても、意味や意義がわからないんじゃないかという。

橋本:ああ、流れがわからなくて今の空気を感じてないと、レトロなものに見えてしまったりするというね。

──Soul II Soulのジャジー・Bやネリー・フーパー、キャロン・ウィーラー、マッシヴ・アタックへとつながっていくワイルド・バンチ……みんなUKアフリカンやUKカリビアンですよね。80年代末から90年代にかけてオーヴァーグラウンドでもヒットを出して、その後の雛形を作った人たちですね。

橋本:まさにUKアフリカン~UKカリビアン、つまり移民の音楽ということが2020年においても大事なんだけど、アートワーク含め今の時代を象徴するような作品で、Soul II Soul以降のジャジー・Bの仕事では一番見事なんじゃないかという。

S:しかもオルテ・ムーヴメントとかを通過したような感触で、「今の新作ですか?」と思ってしまうようなところがすごいなと。デザインもいいですよね。

橋本:UKソウルで一時代を築いた名曲だけど、昨年カニエ・ウェストのSunday Service Choirがカヴァーしたり、僕自身も近年、Late Nite Tuff Guyによるこの曲とシック「My Forbidden Lover」のマッシュ・アップをDJでヘヴィー・プレイしてたりして、「Back To Life」が「Keep On Movin'」以上に存在感を増しているような時代の機運や、UKアフリカンの重要性を感じていたところに、Black Lives Matterなどをも象徴するようなタイミングでアフロビート・リミックスが登場したのは決定的だよね。

S:集大成的に大きな出来事かもしれないですね。

橋本:やっぱりある意味で、必然としか言いようがないよね。

UKアフリカンのロール・モデルとしてのシャーデー

──次はシャーデーの6枚組ボックス・セットも出ましたね、という話を。これはカフェ・アプレミディの「UK Soul Night」に集まる人たちにも共感してもらえるのではという話題です。

橋本:シャーデーは今のUKソウル/UKジャズの源流のひとつで、ヴォーカルのシャーデー ・アデュはナイジェリア生まれの移民だよね。UKアフリカンの世界的成功の先駆けとも言えると思うんだけど、2020年に彼女たちの集大成的なボックスがリリースされたのも、偶然と必然の両方を感じるね。

──移民性というのがその後のロール・モデルのひとつになっているところも重要ですね。

S:たまたまポール・ウェラー、Soul II Soul、シャーデーと、どれも橋本さんにとっても重要なアーティストというのはわかっていたので、取り上げてみようと思った感じです。

橋本:SAGARAXXとは1か月に1回くらいのペースで電話で音楽の話をしてるからね(笑)。

S:ずっとシーンが動き続けている感じなんですよね。新型コロナウイルスのせいで、幸か不幸かリリースが増えていることもあって。

橋本:連綿たる根をはった深さがあるんだよね、イギリスには。UKアフリカン同士の交流が可能となるパブリックな文化教育機関が存在して、移民の若者の音楽的才能を活かそうと国自体も支援しているという状況があって。もちろん、クラブ・シーンやインディペンデント・メディア、ラジオという音楽好きが集まれる裾野の広さもあるし。だからもともとミュージシャン同士の交流も深かったのが、コロナのパンデミック下で制作の時間ができて、発表の機会が増えたのが豊作だと感じる背景だね。

S:公共性という意味で言うと、ジャン・ミシェル・バスキアのエキシビジョンが2〜3年前テイト・モダンで行われたんですね。それに関連してジャン・ミシェル・バスキアをテーマにUKのアーティストが楽曲を提供したコンピレイション『Untitled』が昨年リリースされて、そのコンピもすごくカッコよかった。

橋本:シーンのハブでもあるトータル・リフレッシュメント・センターで録音されて、サウス・ロンドンの若き精鋭が集っているね。イギリスはアートやデザイン、ファッションなども含めた文化同士の交流も盛んだよね。

UKアーティストの選曲と「Free Soul」「Suburbia」の共振性

S:イギリスはもっと言うと、アーティストの選曲が幅広く、「Free Soul」ムーヴメントと通じるものがあると思うんですよ。

橋本:SAGARAXXのメモに“音楽の解放”って書いてあるけど、ロンドンのアーティストは音楽に対して自由で素直で、ストレートでポジティヴだと感じるよね。ラジオやクラブはもちろん、音楽に関する環境や基礎教養も高い。

S:それは感じますね。BBC Radio 1で毎週レギュラーをやってるBenji Bが、2週間休暇を取ったんですね。そのときにヌバイア・ガルシア(Nubya Garcia)が1時間半から2時間くらいDJをしたんですが、Benji Bの選曲もいいけど、彼女の選曲もいいんですよ!

橋本:SAGARAXXが曲目リストをくれたけど、自分の選曲かと思うくらいに共感できる感じだったね。

S:で、さらになんですが、今のUKの若いミュージシャンやDJがラジオやったりリリース記念でイヴェントをやったりするときに音楽を紹介することに対して積極的というのが、かつての「Suburbia Suite」や「Free Soul」のような感じだなと思って、橋本さんと話したいと思ったんですよね。

──「suburbia radio」を毎週やってる感じなんですかね(笑)。

S:「suburbia radio」を1週ずつに分けてという感じで(笑)。それと「Suburbia Suite」で山下洋さんや小西康陽さんや矢部直さんといったミュージシャンやDJが紹介記事を書いてたじゃないですか。ヌバイア・ガルシアも選曲家としてレヴェルが高くて、音楽に貪欲に接しているというのがわかるんですよね。

橋本:DJとミュージシャンとの距離が近くて、両者が垣根を越えていくという印象だよね。

S:橋本さんがフリーペーパーを作っていた時代の感覚が、イギリスでは今も継続されているというのが重要なポイントなんじゃないかと思ったんですね。

橋本:ロンドンに関しては若い世代のミュージシャンもシーンの一員であるとかそれを育んでいくことに対してすごく意識的なんだよ。だからオーディエンス、リスナーも含め積み重ねがあるし、集合知が豊か。分断されてないんだよね。

S:アーティスト個々で番組を持っていて、自分たちでシーンを育てていくという意識が強くて、周りの友達を紹介するという感覚が「Free Soul」とも近いかなと。

──“Hood”感みたいなものですかね。プレイリストを作って自分や友達の曲をどんどん入れていくみたいなことをやっている。

橋本:仲間を紹介したり、影響を受けたアーティストを紹介したり。

S:そうそう。アーティストが選曲家やラジオDJというのを自分の役割として普通に考えている。橋本さんが「こういう音楽が好きだ!」という人たちを集めて「Free Soul Underground」をやっていた、そういう感覚に近いなと。

橋本:確かに、あの頃の感じに似てるところもあるのかもね。90年代の東京にも、確かにそういう感じがあったと思う。

「bounce」の編集とジャイルス・ピーターソンの“Joining The Dots”

S:次は編集という概念についてなんですが、橋本さんは90年代に「bounce」というフリーマガジンの編集長をやられていたので、改めて質問したくて。というのは、整理と編集は違うと思っているからなんです。橋本さんいわく、「意識的に点と点をつなぐというのが編集で、それによって誌面にダイナミズムが生まれる」と。

橋本:そうだね。それによって文脈が生まれるというか、「点と点をつないで線にする」ということだよね。「編集は偶然を必然に変える」からね。ジャイルスがポール・ウェラーをかけたという話が出たけど、ジャイルスは“Joining The Dots”という言葉でそれを表現していたね。編集がクリエイティヴィティーとしてポジティヴに作用するためのポイントはそこだと思うんだ。分析や評論、分類やマッピングするのとは正反対の精神性、そこがすごく重要。もちろんイギリスは音楽の制作者もそうだし、音楽紹介においてもエクレクティックな視点を大切にしているジャイルスに象徴されるような人が多いから、共感と好感が持てるんだよね。日本だともうちょっと分析・評論寄りの目線になっちゃうというか。

S:同感です。DJの選曲にしても、整理していくことを大事だと思っている人が多いのではないかと感じてしまって。ダイナミックなものが生まれるには整理して細分化していくだけではダメなんじゃないかと思うんですね。

橋本:それだと「あれとこれは違う」ってことを延々やってくことになるよね。結果的にジャンルの“何とか警察”みたいになってしまったり。

──例えばライノの編集盤は、橋本さんのコンピの作り方とは全然違いますよね。マニアックな感じというか、シングル盤でしか出ていないという理由でそれほど良くもない曲が入っているとか(笑)。

橋本:ベスト盤でも年代順に曲が並んでいる、みたいな感じでしょ?

──そうです。そういうところとつながるのかなと。

S:つながると思います。いまだにそういう状況があるのではないかと思ってしまったので。今の若い人にもそういう部分があるように思うんですね。

橋本:聴いたときの感触をもとにして何と何がつながるとか、何と何がフィーリングが似ているとか考えるのではなく、お勉強のように知識から入ってしまって音楽を並べちゃうからそうなるんじゃない? どっちが楽しいかってことだけどね。その意味でイギリスのシーンのほうが共感できるな。ラジオ・リスナーやクラブ・シーンはわからないけど、日本は音楽好きでもマニアと言われるような人たちや評論家やレコード・コレクターはそうなっちゃう傾向が強いような気がする。そこへのアンチな気分はいまだに消えないな。

S:僕もそう思ったんです。イギリスでレコードを出してる若いミュージシャンは、いろんな音楽を聴くエネルギーがあって、垣根を越えていく作業をみんな延々とやっている。だから選曲もいいし。本当にいろいろ聴いたほうがいいと思いました。

橋本:自分に響く音楽ということで紹介しているよね。それに尽きるな。そうではない選曲はダサいよね、っていうのが俺の一言(笑)。自分以外の価値観を信じることで選曲をすると、情報に惑わされて、レアだとか高いレコードだからとか、最新だからとか誰々が高評価してるからとか、そういうところが軸になってしまう。

ルイ・ヴィトンとPlastic Peopleとアフロビートの文化交流

──次はファッションやデザインとのつながりの話ですね。

S:そうです。BBC Radio 1のBenji B指揮のもと、ガーナのアフロビート名作をシャバカ・ハッチングス(Shabaka Hutchings)がロンドンの現行ミュージシャンに再演奏させて、ルイ・ヴィトンのショウでそれに合わせてモデルたちが歩くというのがあって。

橋本:映像や音楽はもちろんプロジェクトとしての在り方がカッコよくて感動したね。日本もそういうカルチャー同士の交流があるといいのにな、と改めて思ったよ。

──日本はカルチャー同士の交流があまりないですよね。かつては藤原ヒロシさん周辺に代表されるように、80〜90年代はファッションとアートや音楽が近接しているような部分が今より強かった気もしますが。

橋本:景気の問題などもあるので単純に言えない部分もあるけど、TAKEO KIKUCHIのショウでジャズDJがプレイしたり、バブルの頃にはそういうのがあったよね。

S:響くという話でいうと、あとで話そうと思っている“場所性”という話ともつながるんですが、ガーナの曲をなぜ演ったかというと、この曲はBenji BがDJをしていた頃にPlastic Peopleをやっていたオーナーのアデ(Ade)って人がいるんですけど、彼がよくプレイしていた思い出のレコードの曲だからだそうです。

橋本:その背景がもうカッコいいというか、いい話だよね。

S:そのクラブの思い出ソングを今のミュージシャンにiPhoneで聴かせて、それをシャバカ・ハッチングスが指揮をして。今の若い人たちは演奏力のレヴェルが高いので、それをカッコよくプレイして。そこにパワーを感じましたね。

橋本:同感です。

S:その場所で響いていたってことが重要ですよね、レアとかではなく。レコード自体はレアなんでしょうけど(笑)。

橋本:個人の思い出、場所の経験への想いが、これだけのアイディアと技術に裏打ちされてヴィトンのショウという大きな場で結実する。イギリス捨てたもんじゃないよね、って思えるよね。

──捨てたもんじゃないっていいですね(笑)。

橋本:「日本が同じ島国としてこういう誇りをもった没落の仕方を歩めるのだろうか」っていう伊丹十三の言葉を思い出すよね。Plastic Peopleという場所はすごく重要なんだよね。クラブ・シーンはもとより、今のUKソウルやUKジャズのシーンの背景として。

S:本当に重要みたいです。4〜5年前に閉鎖されたんですけど、早くも伝説になってるんですよね。

橋本:そこにいろんな人が集まっていて、アメリカからセオ・パリッシュやムーディーマンも来ていて。クラブ・シーンでDJになりたい人だけでなく、ミュージシャンになりたい人も音楽ファンとして集まっていた場所だからね。

──溜まり場的なこういう場所は、いろいろな人が集まることで新しい交流が生まれたりするんでしょうね。

グラフィック&エディトリアル・デザインと音楽の蜜月

──続いてはデザインと音楽に関してですね。

S:古くは「Straight No Chaser」、アシッド・ジャズ、トーキング・ラウド、モ・ワックスに始まり、UKジャズ/ソウル2020に至るまで、イギリスのレコード・ジャケットやマガジンのデザインに僕たちは惹きつけられてきたと思うんですが、Swiftyというトーキング・ラウドのロゴをデザインした人が、最近自らのアートワークをまとめた作品集を自費出版したんですよね。

橋本:さっきはファッション×音楽の話だったけど、これもカルチャー同士の交流という点は同じだね。グラフィックやエディトリアル・デザイン、インテリア、ロゴ、アートワークと音楽の蜜月によってシーンが活気づいた例だね。日本も同じで、90年代の渋谷系とコンテムポラリー・プロダクションというのはその象徴的な例だよね。

S :そうそう。もちろん「Suburbia Suite」とNANAの小野英作さんのデザインもそのひとつですよね。

橋本:「Free Soul」やカフェ・アプレミディもやっぱりあのNANAのデザインがあってこそ広がりを見せたと思うよね。

S :デザインとともに動いていくんだな、と感じます。「次(Tsugi)」っていう音楽誌がイギリスにあって、なぜ日本語なのかわかんないですけど(笑)。

──漢字の「次」なんですね。

S :そうそう。あの雑誌も今年のトピックのひとつだと思うんですけど、やはりデザインがカッコいい。

橋本:ずばり“Jazz UK”なんて特集もやっていたね。それとさっきの「Back To Life」もそうだけど、イギリスはLPも12インチも圧倒的にリリースが多いうえに、グラフィックも良くてこだわりがある。クレオ・ソル(Cleo Sol)のアルバム『Rose In The Dark』も厚紙のジャケットですごくクラフト感があって、手書きの歌詞が入った大判の写真集みたいなブックレットも入っていて。SAGARAXXが韓国で見つけてプレゼントしてくれた限定100枚のGoya Gumbani & Kiinaの『The Lesser-Known』も、ジャケに映っている部屋の写真も素敵なうえに、アプレミディ初期のコンピに似た質感の紙を使っていて、さわり心地からして、とてもいい感じだと思ったな。インディペンデントのアーティストもアートワークにこだわるんだよね。当たり前に大切なものとして、音楽と一緒に考えているから欲しくなっちゃうんだよ。だから日本で流通していないものをwaltzanovaに頼んでBandcampで買ってもらったり(笑)。

「bounce」から「suburbia radio」へと受け継がれるUK大特集

橋本:もうひとつ話すと、イギリスのフライヤーはどんな小さなパーティーでもデザインがいいんだよね。もちろん音楽雑誌もそうだったし。そういうのを見てたから、「bounce」は音楽雑誌だけど、僕が関わってた頃はグラフィカルであることにすごくこだわってた。「THE FACE」から「i-D」へと続いたようなイギリスのカルチャー誌に負けないように。もちろん読みやすさも意識しながらだけど、200ページ近くカラーで、見開きの連なりを視覚的な幸福を与えてくれるデザインを大切に作るという感覚だったね。それまでの日本の音楽誌はモノクロ活版で文字だらけだったり、片面アーティスト写真、片面インタヴューというようなものばっかりだったから。

S:「bounce」亡き今……と言っちゃうとアレですけど、橋本さんが「bounce」を作る前まで戻っちゃってる気がして、最近は。

──そうかもしれないですね(笑)。

S:なんか、あの「bounce」がなかったことになっているような(笑)。グラフィカルとかデザインがいいとか単純にカッコいいという感覚的なものより、整理や分類のほうに意識が行っているという気がして。

橋本:そうかもね。音楽好きでもそういう野暮な人たちは連綿として存在したと思うんだけど、最近はそういう人たちがライターとして自分たちで発信するようになってきて、デザインや編集への意識の欠如が見えすぎるようになってきちゃったかもね。

S:デザインにこだわるのは見ていて気持ちがいいですよね。音楽を聴きながら読めるようなフレッシュさがありますよね。

──ページを繰っていて楽しいという感覚も大事ですよね。漫画のコマ割り的な。

橋本:デザイン含めて、洗練されたシャープなプレゼンテイションを心がけるのは、編集者としてのモラルみたいなところもあるからね。

S:そう考えると「bounce」や「i-D」等を読むことができた自分は幸せだったと思います。

橋本:そういうものを作れるくらい音楽シーン自体に活気や力があったんだよね。僕もそういう勢いのある時期に音楽誌の編集長をできたことは幸運だったなと思うよ。今は予算なさすぎだろうからUKに取材陣を飛ばせないからね(笑)。

S:そういえば、1997年に「bounce」でドラムンベース特集をやっていたときに取り上げられていたアーティストたちのアルバムを、今のイギリスの若いミュージシャンが聴いていると思うんですよ。彼らは新しい解釈でドラムンベースをカヴァーしたりしているんですね。橋本さんが編集長をやっていたら、今、とにかく絶対にUKに行かせてるよね、っていう話をしてまして。Benji Bの番組で毎回、アーティストに自分の好きな3曲を選ばせるっていう企画があるんですけど、先日そこにフィーチャーされていたのがリチャード・スペイヴン(Richard Spaven)でした。彼はさまざまなアーティスト──ゴールディーや4ヒーローのアルバムでも叩いてるんですが、フォーテックの曲を選んでいたのが印象的でしたね。

橋本:リチャード・スペイヴンは生き字引きなんだよね。今の若いジャズメンはブロークンビーツやダブステップと縁が深くて、当然のなりゆきでそのベースになったアーティストに関心があるんだけど、リチャード・スペイヴンはずっとそのシーンで叩いてきた、言わばリヴィング・レジェンドだからね。確かに間違いなく言えるのは、今のUKソウル/UKジャズそしてUKアフリカン/UKカリビアンの充実を見たら、絶対に「bounce」で大特集をやっていたということ。「suburbia radio」でも4か月連続でやってるくらいだから(笑)。

S:コロナ禍の中ではあるんですが、今すごいことが起きていて、それを体験できてるのは幸せなことだとまざまざと思いますね。UKソウルやドラムンベース〜ジャングルから始まったシーンへの今の20代くらいの若者の食いつきは、リアルタイム世代からしてもワクワクさせられます。

橋本:そのへんがちゃんとつながっているイギリスのシーンを見てるとこっちも幸せになるよね。この対談は「suburbia radio」の一連のUK特集の副読本にもなるんじゃないかと思って話してるんですけど。

現在進行形UKアフリカンのキーパーソンJuls

S:そして改めてUKブラックの魅力についてです。これは冒頭でもSoul II Soulやシャーデーについて話してるんですけど、オルテ・ムーヴメントやUKアフリカンの話をしたいなと思ったのは、「suburbia radio」で2〜3回前に、ジュールズ(Juls)の話をされていたときですね。

橋本:ジュールズは今のUKとアフリカをつなぐキーパーソンだよね。リリースされたコラボ・シングルどれも良くて、リズム・センスも抜群で、ある意味2020年のMVPかもしれない。僕とSAGARAXXの1か月に1回の電話でも、ジュールズは必ず名前が出てくる。確かラジオでも僕が選んだのと同じ曲かけてたんでしょ?

──ジュールズ、ヤバいんですね! チェックしてみます。

S:ヤバいですよ! 昨年『Colour』という素晴らしい作品集をリリースしているんですが、タイラー・ザ・クリエイターとかにも曲を提供していて、Amapianoも昇華していて。

橋本:ショウ・デム・キャンプやバーナ・ボーイも手がけているガーナ系イギリス人だね。イギリスの植民地だったガーナやナイジェリアの流れがあるから、UKアフリカンはオルテ・ムーヴメントとも親和性があるんだよね。移民も多くて、現地のシーンも新世代が出て賑やかになってきてるから、活況を呈しているのは必然というか。オルテ・ムーヴメントは、ウィズキッドがドレイクと共演するようなメインストリームとはまた違った、オドゥンシやサンティに代表されるもっと若い世代のもので、精神性で言うと日本の渋谷系とかヒップホップのニュー・スクールとかの感じなんだけど、今のUKアフリカンにもそういうフレッシュな魅力を感じるね。リズムやヴォーカルといった音楽性はもちろん、レゲエ~カリプソ~アフロ〜ヒップホップなどが溶け合った移民文化特有の風合い、ブラジルで言うところのサウダージみたいな感じが漂ってるのも好きなんだよね。

S:そこ重要ですよね!

橋本:重要重要。エストランジェイロ感というか、異国情趣・異邦人感というか。

移民の音楽ならではの叙情性やリズム感覚が魅力的なUKブラック

S:移民から発せられた音楽が面白いというのは重要なトピックだと思います。イギリスのEU離脱問題なんかとも、関わってくると思いますが。

橋本:ブレグジットとUKアフリカンの関係は、トランプとBlack Lives Matterの関係に重なるところもあるよね。悲惨な現実があることによって逆に音楽が豊かになるという。主張含め音楽の強度につながっているよね。今年出した2枚のアルバムが僕の年間ベストで上位独占のSaultもそうだし、Soul II Soulの「Back To Life」のアフロビート・リミックスも、なんと力強くて清々しい音楽なんだろうと思ったよ。

──70年代のニュー・ソウルみたいな感じですかね。状況が厳しいからこそいい音楽が生まれてくるみたいな。カーティスの『Back To The World』的な。

橋本:ヴェトナム戦争のあとの大変なときだからマーヴィン・ゲイの『What’s Going On』とかダニー・ハサウェイの『Extension Of A Man』が生まれたというような。

──僕はわりとそういうのを信じてる人なんですけど(笑)。

S:僕がカフェ・アプレミディで「Jazz It Up」というイヴェントを橋本さんとやっていたときに、クリーヴランド・ワトキッスのウィリアム・ディヴォーン「Be Thankful For What You Got」のカヴァーをかけたら、橋本さんが「これがUKブラック感だよ! UKカリビアン、このブロークンな感じがいいんだよ」って言っていて。リズムだけじゃなくてサウダージに通じる何かも……。

橋本:そう、クリーヴランド・ワトキッスは哀愁サウダージ的な感じもいいんだよね。もちろんポリリズム的な要素も気持ちよくて、あれはUKカリビアン特有のものだよね。そうだ、かつてラヴァーズ・ロック・セットで僕は“Suburbia Sound System”って名乗っていたことがあるけど、そのサウンド・システムもジャマイカからイギリスへ受け継がれたものだからね。あとはUKカリビアンの夕陽が沈むような叙情性、そしてグラウンド・ビート。影響はどう考えても明らかだと思うけれど。

S:シャバカ・ハッチングスもバルバドス出身のUKカリビアンですよね。

橋本:南アフリカのジャズとの接点も重要で。彼が南アフリカに行って、現地のミュージシャンと密に交流したことで南アフリカのジャズ・シーンが活性化されたんだよね。新世代の交流から名作がいくつも生まれているよね。

S:あと「suburbia radio」で聴いたんですけど、ママ・オーデ(Mama Odé)ことレジナルド・オマス・マモード4世(Reginald Omas Mamode Ⅳ)とジーン・バッサ(Jeen Bassa)。彼らのアルバムすごく良くないですか?

橋本:良いよね。彼らはアフリカでも東の方、マダガスカル沖のインド洋に浮かぶモーリシャスとかにルーツがあって、モ・カラーズ(Mo Kolours)、レジナルド・オマス・マモード4世、ジーン・バッサが3兄弟で、従兄にジェイムス・クレオール・トーマスがいるんだよね。UKカラードのアフリカの島国の流れを感じさせる、あれもまたひとつのUKアフリカンの至宝だよね。

S:そうですね。そのファミリーは“Suburbia Sound System”的にもプレイリスト作れる曲がいっぱいあるというか。

橋本:明日のアプレミディDJでもかけますよ。UKジャズ×ビート・ミュージック中心にやることにしたんで。あと、「suburbia radio」ではママ・オーデの次にレジナルド・オマス・マモード4世の新曲をかけたんだけど、これが決定的だったなって思って。「400 Years」っていうすごくカッコいい曲で、なぜなら IG・カルチャーのCoOp Presentsっていうレーベルから出てるんだよね。それってブロークンビーツの頃からのUKジャズ×ビート・ミュージック、UKアフリカンの歴史を体現しているっていうことで、それも大きいなと。

Nubya Garcia始め女性アーティストの活躍も光るUKジャズ・シーン

──続いては女性アーティストについての話題に移ろうと思うんですが。

S:90年代のUKソウル〜アシッド・ジャズの頃に比べて女性アーティストが活躍しやすい雰囲気なのかっていうのは、現場の意見を聞いていないのでわからないんですけど、明らかにヴォーカリスト以外の才能ある女性ミュージシャン/演奏者が多いですよね。

橋本:まさに。90年代のUKソウル大人気のときって、女性ヴォーカリストはいたんだけど、ココロコ(Kokoroko)のシェイラ・モーリス・グレイ(Sheila Maurice-Grey)とかヌバイア・ガルシアみたいなジャズ・シーンのキープレイヤーはそんなにいなかったなって気がするな。トラックメイカーやMCしかり。

S:今はすごくいますよね。『Blue Note Re:imagined』の最後、Emma-Jean Thackrayとか。

橋本:かなり評価高いよね。あと、最近SAGARAXXと話した中だとレックス・アモール(Lex Amor)。これはイギリスで“The Silhouettes Project”っていうのが立ち上がってて、イギリスの若くて才能あるヒップホップ〜ジャズ〜ソウルのアーティストを送り出すプラットフォームなんだけど、9月から毎週木曜日に新曲を出してて、その第1弾がベル・コベイン(Bel Cobain)と彼女の共演曲でしたね。「suburbia radio」でもかけましたが、曲が集まったところでドイツのMelting Potっていうレーベルからコンピとしてもリリースされるんだよね。イギリスにはこういう若手アーティストを育てていくプロジェクトがパブリックな教育機関だけじゃなくて、有志的にも存在していて。アフリカもそういうところがあるんだけどね。

S:日本だとなんでも大きな動きにしてしまうというか。大きなものに回収したがるというか、「イヴェントに何人入った!」的な数の理論になってしまうところがあると思うんですね。でも、僕はインディペンデントの小さい物語がいっぱいあることがすごく重要だと思っていて。

橋本:本当にそうだね。何人入ったとかPVが何回見られたとか。結局、経済的な物差しというか、日本もそうだしアメリカもそうなんだけど、広告で成り立つビジネスに支配されてるからそうなっちゃうんだろうね。日本だとorigami PRODUCTIONSとかは“The Silhouettes Project”的な感じに近いかなとは思うんだけどね。そういうのが増えていかないと、シーン全体の根の深さとか裾野の広さとかにつながっていかないよね。

SaultやCleo Solが体現するUKアフリカン/UKカリビアンの豊かで強い音楽

S:僕は今、韓国でLe Montreuxというジャズを基調にプレイするレコード・バーで働いているんですけど、橋本さんの「Suburbia Suite」の影響もあるので、お店のマンスリー・チャートっていうのを始めようということになって、毎月50枚ずつ紙に印刷してお客さんに配るようにしてるんです。そういう小さな動きでも大切にして継続してやっていきたいと思って始めたら、少しずつですが毎月読んでくれる人は読んでくれるんですよね。LPのジャケットをスキャンしてデザイン/印刷する技術は昔より良くなっているので、インディペンデントでできることも増えているのかなと思ってます。

橋本:そのマンスリー・チャートにも掲載されていた、ピップ・ミレット(Pip Millett)〜ホープ・タラ(Hope Tala)とともに我が家で人気のオーガニック・メロウなUKソウル女性歌手トップ3の一人、クレオ・ソルの話もしたいね(笑)。これはイギリスに限らずかもしれないけど、自分自身を魅力的に表現できるような女性が増えてるよね。なんで彼女に話をもっていったかと言うと、Saultの話もしたいからなんだけど(笑)。

S:ああー。

橋本:Saultの音楽の中でクレオ・ソルの魅力って大きいと思うんだよ。インフロ(Inflo)は才気ほとばしる感じで、メッセージも強くてリズムもカラフルで音楽性もとても豊かなんだけど、あの女性ヴォーカルやメロウなソングライティングが入ることによって、特に『Untitled (Rise)』はより魅力的になってるなと感じたんだ。我が家は彼女のソロ・アルバムのアナログが3枚あるくらいだけど(笑)、その音楽性もUKアフリカン/UKカリビアンならではのものだと思うんだよね。

──今回のトークはすごくカリビアン/アフリカンの話題が出てきますね。

S:それと、Saultがリリースした理由のひとつというのは、間違いなくBlack Lives Matterだと思うんですが、そもそも音楽として良いということにすごくこだわってる気がして。

橋本:もちろんだよね。別にメッセージだけじゃないっていうかさ、リスナーも音楽として深く楽しんでる。

S:吉本宏さんも紹介していた韓国映画で『ハチドリ』というのがあるんですけど、監督が女性でフェミニストなんですよ。その映画がSaultのように今日本人に受け入れられていて、しかもフェミニズム映画としては作られてなくて、純粋に映画としてとても良いんですよ。

橋本:そこ重要だね。メッセージのために映画や音楽があるわけじゃないから。あくまでそれ自体として良いことが大前提だよね。

S:そうですね。『ハチドリ』の監督も作品自体が良いものであることをめざすという意識を持っている方だったんで、両者に共通するところがあるかなと思いました。

コレクティヴのフレンドシップが育むポジティヴ&クリエイティヴなロンドンの音楽環境

──次は“若いミュージシャンたちがお互いの作品で共演・客演しているフレンドシップがヤング・ソウル・レベルズ2020という感じで”という話なんですが(笑)。

S:インスタにDemaeのホーム・パーティーの様子が上げられてましたけど……。

橋本:SAGARAXXに見せてもらったけど、あれはすごくグッド・ヴァイブだったね。Demaeは「suburbia radio」ではTouching Bassから出た「Stuck In A Daze」をかけたけど、その周りの仲間というか、あいつもいる、こいつもいるって感じでこっちまで楽しくなってきたよ。フレンドシップって言葉がさっき出たけど、お互いの音楽をリスペクトしつつ楽しみながら助け合っている感じがすごくする。

S:コロナの影響もあって集まっていくってことが難しくなっていっている中で、「作ること」を目標にして集まっているあの映像に、僕はすごくポジティヴなエネルギーを与えられました。

橋本:僕もそう。「ああ、いいな」って。

──一時期からスモールなサークルやコレクティヴを大切にするというアーティストが増えてきてますよね。ジ・インターネット界隈とか。メジャーになるよりも活動の自由を重視してクリエイティヴなものを作り、それが世界で評価されるという。

橋本:サウス・ロンドンのクルーもちょっと近いかもね。

S:そうですね。それは「Suburbia Suite」っていう本を作ってた橋本さんの感覚にも近いのかもしれないのかなと思ったんですね。

──なるほど。

橋本:仲間内で楽しんでいた何かが、ある瞬間から一人歩きして世界中に知られるみたいなことはあるよね。僕の場合はすごく限定的で小さなところだったけど。

──いえいえ、橋本さんも大きな影響を与えていると思います。

S:橋本さんがよく言っている、若いときは「有り金全部レコードに費してたんで、食べ物は牛丼で我慢していた」(笑)っていう学生時代の感覚を、今のUKの若い人たちも持っているのかな? おそらく今のUKの人たちもみんながみんなお金があるわけじゃないかもなと思ったので。

橋本:でも楽しそうにしてるとこがいいよなあ。

S:そうなんですよ。その感覚ってすごくいいなあって僕は思います。音楽を聴くために狭い部屋にみんな集まってるんですよ。

橋本:サウス・ロンドンのレコード・ショップとかFM局とかレーベルとかもそうだけど、もう本当に小さなところを拠点に世界に対して発信してるよね。

S:NTS Radioのサテライト・スタジオのDJブースとか、今はコロナで閉鎖していて全員リモートで仕事してるらしいんですけど、ステッカーがたくさん貼ってあるような感じのところでやってる。

橋本:アムステルダムのMusic From MemoryクルーのRed Light Recordsもそんな感じでしょ。こっちの感覚で言うと「ここ?」みたいなところでやってるわけじゃん。

S:そうそうそう。だから本当に楽しく信頼を結んでいくってことの方が重要であって。

橋本:お金はなくても楽しくやってますよってことで。アプレミディと同じじゃん(笑)。

S:そういうのが渋谷系や「Free Soul」の頃と近いんじゃないかなって感じるんです。そういう意味で僕は毎月「suburbia radio」を楽しみにしているんですけど、その魅力についても語りたいなと思って。橋本さんとアプレミディ店長の武田(誠)さんのチームのコンビネイションもいいなあっていうのが伝わってきます。信頼した仲間とやっていけてるってことが、橋本さんにとっても本当に今大事だと思うんですよね。それがグッド・ヴァイブにつながっているというか。

橋本:この話がDemaeのホーム・パーティーの映像のあとにあることはすごく重要でさ、こんな時代だからこそポジティヴに音楽を楽しみたいっていう気持ちを「suburbia radio」に関しては素直にぶつけてるというか。今まで紹介してきたような曲も含めて、もちろんUKだけではないわけだけども、気に入った曲を片っ端からかけられるし、点と点をつないで線にできるし。聴いてもらったら時代の空気とか胎動みたいなものも伝わると思うのね。サウス・ロンドンの空気感も伝わると思うし、インスタグラムのホーム・パーティーの映像みたいに、こういう音楽を聴いていても、そのいい感じが伝わると思うのね。

S:そうですね。

橋本:だから、そういうことを大切にしたいっていうか。せっかくコロナ禍でリリースも増えてるし、音楽に向き合う時間も増えてるからね。

S:そういう意味で、とにかく今ホットだってことなんですよ。音楽の楽しさを伝えたいっていう橋本さんの欲求があるじゃないですか。みんなが欲望生産性を生み出すことが大切だと思うんですけど、そういう場所に今のアプレミディもなり得るし、なってほしいって思っています。

橋本:サウス・ロンドンの人たちの気持ちと近いと思うよ。ホーム・パーティーのヴァイブスと同じようなポジティヴな幸福感みたいなものを「suburbia radio」のリスナーに感じてもらえたらいいなと思っているし。

S:海を越えて楽しませてもらっているので、ラジオすごいなって思ってます。

橋本:初めてインターネットの良さを知ったよ(笑)。

S:そうなんですよ、僕はBenji Bも「suburbia radio」も両方聴けるし。そんな幸せなことはないですよ。

新世代UKジャズ/UKソウルのドキュメント『Blue Note Re:imagined』

──では、いよいよリリースされた『Blue Note Re:imagined』について。

S:これがタイミング、参加者も含めて今のUKの動きをわかるための格好のテキストのひとつだと思ったので挙げてみました。

橋本:新世代UKジャズ/UKソウルの一大ショウケイスだよね。「suburbia radio」でも話したけど、もちろん玉石混交なところはあるんだけど、カヴァーやセレクトも今のイギリスらしくて興味深いよね。ロンドンのこの世代はこういう曲を選ぶんだとか、こういうアレンジをするんだとか、そういう面白さはあったよね。ブルーノートというよく知られたレーベルだからこそ、現行のUKシーンらしい個性が際立ったかな。

S:音も本当にすごく良かったです。幅広いんだけど、時代のメッセージ的なものを感じました。例えが古くて申し訳ないんですけど、『Jazzmatazz』を聴いたときのような。

橋本:イギリスって要所要所でシーンのサンプラーになるようなオムニバス・アルバムが出るよね。インディペンデントの素晴らしいアーティストがたくさんいるってことでもあるんだろうけど、ニュー・ウェイヴやネオアコの頃からひとつのシーンが生まれてくるとショウケイス的なオムニバスが出るってのはイギリスっぽいなって思うな。

S:このアーティスト、僕知らなかったんですけど、Melt Yourself Downっていうのが演ってる「Caribbean Fire Dance」って、まさに移民たちのエネルギーを象徴しているような。「こんな曲入っているけど、それもまたアリじゃん」って思えたんですね。シングルのリミックスみたいな感覚じゃないですか、あの曲って。でも普通にアルバムに入ってて。

橋本:ファースト・シングル・カットからジョルジャ・スミス(Jorja Smith)の「Rose Rouge」、あれが本当に象徴的だったと思うな。ブルーノートのトリビュートというかリワーク盤でサンジェルマンをカヴァーするというセンスもそうだし、マリーナ・ショウ「Woman Of The Ghetto」からのサンプリング・パートをジョルジャ・スミスが歌って、あのカッコいいクラブ・サウンドっていうさ。イギリスだよねえ。

──本当にそうですね。マリーナ・ショウでも「Feel Like Makin’ Love」とかではないんですよね。

S:90年代後半の「bounce」を、ロンドンの若いミュージシャンは絶対に新鮮に読めるんじゃないかって思いますよね。

橋本:そうだね。点と点を結んで、っていうのはジャンルとか地域だけじゃなくて、新旧の時代をこえてという部分もあるからね。これもやっぱり点と点を結んで線にするという、さっき言ったポジティヴな意味での編集センスだね。

自由にポジティヴに音楽愛を分かち合う“場”から生まれるシーンの集合知の重要性

──続いてのトピックは、“「90 Degrees」という言葉が響く時代の空気とシーンの雰囲気”ということですが。

橋本:そう、ヤスミン・レイシー(Yazmin Lacey)のあの曲もアフロビート風味だっていう話で最初にも戻れるね、これは。実は僕は『Blue Note Re:imagined』からの先行7インチ、ドド・グリーンの「I’ll Never Stop Loving You」の彼女によるカヴァーもよくかけているんだけど。

S:この話題を思いついたのは、90年代の渋谷系のときはインターネット以前だけどMacを使っていろいろな表現ができていた空気感が、今の若いロンドンの人たちとつながるのかなって。

橋本:それはちょっと感じるね。あの頃だとカメール・ハインズの『Soul Degrees』も思い出したんだけど。あれもインディペンデントで、スタイル・カウンシル・コネクションでもあったわけだけど、素敵なUKソウルだったな。イギリスは昔からインディー盤や12インチのリリースが他国より際立って多いけど、最近は配信もホント豊作だね。

S:そういう空気の中で、良い音楽を作るってことを重要視したトライの大切さみたいなものを改めて感じさせられますね。

──ではまとめに向かっていきましょう。“ラジオやレーベルやクラブや雑誌といったメディアの役割がコロナ以降変わっていく中で、2020年のUKジャズ/UKソウルの新しい動きは、アプレミディという場所を通して、改めて何が大切なのかを自分たちに教えてくれるのではないか”ということですが。

S:メディアっていうのは場所も含めてですけど、ちょっとそのあたりのお話もできたらと。

橋本:今夜ずっと話してることだけど、自由にポジティヴに音楽を楽しむこと──そこにはシーンってことも当然入ってくるわけだけど、そこから生まれる集合知の部分を大切にしていくってことだよね。

──集合知はキーワードかもしれませんね。

橋本:今回SAGARAXXがくれたメモで僕が一番印象に残ったのが、“今の時代、個人はいくらでも賢くなれる”ってところだったんだけど。それは思い当たる節があって、つまりその逆も言えるんだよね。だからこそ音楽へのポジティヴな思いをシェアしていくこと、知識や知恵を共有していくこと、そういったことがこれからを作っていくんじゃないかって思って、アプレミディもそういう場になったらいいなと。リスナーやマニアやコレクターというのは一人でもできてしまう行為なんだけど、それだけじゃなくて音楽の魅力を分かち合っていけるような場所=メディアとしてのアプレミディであり「Suburbia」であり、っていうところは大切にしていきたいな、と思ってるけどね。

──「分かち合う」は重要なキーワードですね。良いヴァイブスや価値観を共有することにはとても意味があると思います。

橋本:ルイ・ヴィトンのショウでもホーム・パーティーの映像でも、ああいうのを見ると、ああ、いいな、羨ましいなって思うから、少しでもそういう気持ちになれるような時間をアプレミディを通して作っていけたらなと思うよね。みんなが同じだけのテンションや時間を割いてどっぷり音楽に接することができるわけではないから、日常の中での音楽愛ってことでいいと思うんだけど、立場や環境、掘り下げ具合の違いをこえて、そういう場を楽しくすごせるようにと願っているね。

S:いい話ですね。さっきの話で橋本さんが武田さんとやってることもそうですけど、「ひとりでできること/ひとりではできないこと」というのがあって、その集まったエネルギーが場所にフィードバックされて、また次につながっていくという意味で、場所性は改めて今大事だと感じますね。

橋本:僕は幸いなことに、場には恵まれてるなあって思うことは多いんで、それが少しでも生かせたらいいなと思うよね。

S:この前の「suburbia radio」で最後にホセ・パディーヤとの話をされてましたよね。もちろん、彼は素晴らしいDJだったと思いますが、それと同じくらいにイビサのカフェ・デル・マーっていう場所が知られていて、彼も場に恵まれていたんだと思いますね。

橋本:そこで共有した素晴らしい、美しい時間や風景があるから、あれだけ多くの人にホセ・パディーヤが追悼されるんだろうしね。

S:コロナ禍という状況もありますが、アプレミディという音楽の魅力やグッド・ヴァイブを分かち合える場所の大切さを改めて感じますし、場所にこだわって場所を作っていくというすべての人たちの行いをリスペクトしたいと思っています。

橋本:場を維持するだけでもホント大変な時代だけど、みんなで力を合わせてポジティヴな思いをシェアしていきたいね。

S:昨今ムックとかディスクガイドみたいなものはたくさんありますけど、「Suburbia Suite」みたいにデザインが良くて音楽を聴くときの気分や思いを紹介していくみたいなものはどうしても少ない気がするので、小さいフリーペーパーみたいなものから作っていくのは可能性あることなのかな、とも思いました。

橋本:DJパーティーやフリーペーパーっていうのは、インターネット上では得られない体験だしね。「suburbia radio」はオンラインで聴いていただけるのは嬉しいですけど(笑)。というところで今回の対談は終わりですかね。まだまだデュヴァル・ティモシー(Duval Timothy)の話とか、彼が好サポートしているcktrlのこととか、全然話し足りないけど(笑)、また改めてということで。

S:本当に長時間ありがとうございました。

橋本:こちらこそ、とても楽しい時間でした。

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橋本徹(SUBURBIA)を始めとする「usen for Cafe Apres-midi」の選曲家17人がそれぞれのセレクトした音楽への思いを綴る 「Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew」

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