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ラベンダー色のランドセル

1か月以上も前のことだけれども、姉のラン活に同行した。「ラン活」というのは、「ランドセル選びと購入のこと」だそう。私も初めて知った言葉だ。

つい、最近5歳のお誕生日祝いをしたばかり(姪は早生まれ)なのに、もうランドセル選び!?と驚いたのだけれども、入学の1年も前からショールームを見に行ったりだの予約したりだの、ランドセルには準備が必要らしい。

現に目当てにしていたランドセル専門店に行ったら、予約枠がいっぱいで、当日中は店内に入るのすらできないことが判明した。
仕方ないので、もうひとつのお目当ての展示会に行った。

姪の希望はブラウン。「チョコレート色だから」だそう。
ピンクフリークなのに、ブラウンで大丈夫?とも思ったけれど、ピンクと同じくらいの熱量で、チョコレートを愛している姪だから、まあいいか。

ところが、会場につくなり姪が飛びついたのは、ラベンダー色のランドセルだった。他に見向きもせずに即決のよう。
「チョコレート色もピンクもあるけど、これでいいのね?」
何度も念を押したけど、それでいいと言う。
うん。でも確かにいい色だし、店員さんの説明によると機能性も色々とよさそう。

姉が他の型番もチェックしているうちに、姪は店内をチョロチョロ動き回っておもちゃを物色をしている。結局、私は恐竜のフィギュアを2つ買わされた。姪の恐竜愛は、なかなか長続きをしていると思う。

その日は、姉も私もそのラベンダー色のランドセルが第一候補だという結論におさまった。


しかし後日、姉から「やっぱり別のブランドがいいか」「こっちの方が機能性がうんぬんかんぬん」「でも予約しないと間に合わないし」などと、色々聞かされることになった。
姉は、物事にも、物にもこだわるたちなのだ。
ファーストインプレッションで即決の姪は、その点私と似ている気がする。


ラン活の1週間後、姉が珍しく夜の会食に行くというので、姉の家で姪と留守番をすることになった。保育園のお迎えまではいつも通り姉が行き、夕食から私にバトンタッチという算段。

何度会っていても、次会うときは人見知りから始める姪も、今回珍しく最初からいつもの調子だった。
先週ラン活で会ったばかりだし、保育園から帰ってすぐだから、姪なりにも「外行きスイッチ」が入っていたのかもしれない。

打ち解けることから始めなくてすむし、今回は楽できるな、なんて思っていたら…。

姉が出かけた途端に、まさかのギャン泣きという展開。どうやら、姉と私と3人で夕食にする日だと勘違いをしていた様なのだ。
とにかく全身で悲しみと憤りを表現している。
私が「お母さんが帰ってくるまで、こばちゃんと遊ぼう?」と言ったって、彼女には響きもしない。

こんなにも、ママと離れがたくて、こんなにも小さな手をした人が、来年にはランドセルを背負って小学校に通うなんて、信じられない!と思う。

「ご飯食べよう」だとか、「YouTube観ちゃおう」とか、「ご飯食べたらナイショでデザート食べちゃう?」とか色々誘惑してみてもダメで。
「お母さんがいいんだー」と泣き続ける。

ここは、もう姪が大好きなおじいちゃんおばあちゃん(私の両親でもある)の力を借りようと「おじいちゃん、おばあちゃんにお電話してみる?」と提案するも、それは嫌なんだって。
なのに今度は「おじいちゃんとおばあちゃんがいいんだー」と泣き始める。
目の前にいる、こばちゃんの存在感の薄さよ。

ここで私は思いつく。
姪にはどこか合理主義的なところがある気がする。

「泣いててもお母さんは帰ってくるし、ご飯食べて、YouTube観て、デザート食べててもお母さんは帰ってくるよ。どっちみち帰ってくるんだから、
泣いてないで、ご飯食べてYouTube観てデザート食べる方が楽しいし、お得じゃない?」と言ってみる。

案の定、興味をしめす姪。
そこから、ぽつりぽつりとご飯を食べて、YouTube観て、恐竜の親子ごっことお馬さんの親子ごっこを繰り返した後は、デザートまでちゃっかりと食べてから、眠りについたのだった。

遅くなってしまったし、お風呂は翌朝に持ち越し。着替えもせず、結った髪もとかずに寝てしまったから、寝入るころを見計らって着替えさせ、髪を結わいていたゴムをはずした。

寝息がしっとりしてて、なんだかまだ赤ちゃんの頃と同じ匂いがしているけど、ホントにこの子が来年から小学生?とまた思う。


翌朝は、母親がいることに安心したのか、普段は寝起きが悪いはずの姪の機嫌がよかった。
トリケラトプスの着ぐるみを着て遊び始めて、姉に「早く着替えなさい!」とたしなめられていた。
たぶん、彼女は私と遊んであげようとしたのだと思う。


姉と姪と私の3人で保育園への道を歩く。かけっこで競争したり、ジャンプをしたり遊びながら。

保育園が近づいたところで、1つ先の横断歩道の前に姪の同級生と親御さんが見えた。姪を預かっているときに公園で顔を合わせたりして、私も面識があるから挨拶をしに近づこうとしたら
「こばちゃんは来ちゃだめ!」と姪が言う。

よくわからないけど、朝からぐずらせたくもないから「じゃあ、ここでバイバイね」と私はひきさがる。
姉いわく、姪は「こばちゃんに甘えているところを、おともだちに見られたくない」のだとか。
普段も、ママにリュックを持たせたり、抱っこしたりしながら向かうのに、保育園が近づくと、ママに持たせていたリュックを自分で背負ってしゃきっとするらしい。

姪は振り向きもせずに、横断歩道を渡っていった。
足取りが力強かったし、ピンクのリュックが一瞬ラベンダー色のランドセルに見えた気がするよ。

思えば、そのリュックも買ったばかりの頃は
「そんな大きなリュックをこんな小さな子が背負うの?」と思ったのだった。


今日、
「やっぱり、あのとき一緒に見たランドセルに決めたよ」
と姉から連絡が来た。

本当に姪は、来年は小学生になるのよね。



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