夫の秘密
私は、妄想や物語が好きなものだから、ポエムっぽいことや格言めいたことを言いがちで、そして、それが夫に通じないことに、もどかしさを感じている。
夫は、あまり文学に親しまないし、たとえ話なんかも苦手だ。
幼児のファンタジーにも、すぐにはピンとこないところがあって、姪との会話で、夫がきょとんとしている場面を、時々見かける。
いったい、この人とどうやって、話をして、思いを共有してきたのだったか。さっぱり思い出せないし、そもそも、何の話も通じてなかったのかもしれない。
そんな相手とよくもまあ、決して短くはない年月を一緒に暮らしてきたものだ、などと思いながら、週末、2人で散歩に出た。
歩き始めてから、
「今日のランチは行きたいお店があるんだよ、さて、どこでしょう?」
と夫が言った。
「駅前のカフェじゃない?ほら、前に夕方に寄ったとこ」
と私。
「そうそう、よくわかったね!」
適当に言ったら、1発目で当たった。
その目当てのカフェに着くと、先に並んで待っているお客さんが1組いたが、あまり待たずに、私たちも座れた。
夫は、ローストポークのプレートを私はわかめ麺を注文した。
そのわかめ麺が思った以上に、量も具も軽くて、物足りなかった。カレーかパスタにしておけばよかった、とブツブツと言ったら、夫がローストポークをひと切れ、分けてくれた。
食後のコーヒーを飲み終えてから、目的地である神社に向かった。
あるときから、夫が毎月、神社に参拝するのを習慣にする、と宣言してから、それがゆるく続いている。
月のどの週末に行くかは、夫次第。先日は、なんだか縁起がいいとかで、決めたようだ。
向かう途中、横断歩道の前で信号待ちしているときに
「俺の秘密を教えてあげるよ」と夫が言った。
私は、少し身構えて、「なに?」と聞いた。
そんなこと言ってくるなんて、予想もしてなかったし、どんな秘密なのか全く想像がつかなかった。
「あのね、ランニングに来た時に、いつもこの木に話しかけてるの。元気か?とか」
と隣に立つ木の幹をなでるように、軽くポンポンと触った。
私は、「へぇー」とだけ答えながら、一気に身体の緊張がほぐれたのがわかった。
というより、少しズッコケた。笑
と、同時に、この人ってこういうところあったよなぁ、とも思った。
そして、私も密かに心の中で、「よろしくね」とその木に話しかけた。
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