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手紙

手紙は、小説やドラマの中でリアリティのないもののひとつだと思う。
小説に出てくるような、モスグリーンのセーターにチノパンを履いている男性に会ったことはないし(時代設定にもよるかもしれないけど)、ドラマを観ると、ドジっ子新人見習い女子にしては部屋が広すぎる(家賃いくら?)などと思ってしまったり。

そういうリアリティのなさは、手紙がダントツだと思っている。
まず長文過ぎるし、そして名文過ぎるのだ。
プロの作家が書いた文章なんだから当たり前といえばそうかもしれないけれど。そんなに長い手紙をあんなに上手に書ける人って、そう多くはないはずだ。
そして、そのリアリティのない手紙がストーリーの大事な鍵を握っていたりもする。

手紙となったら、なんだか急にかしこまってしまって、いつものその人じゃなくなることは多い。うちの母なんかはそうで、話すとひとこともふたことも多い人なのだけれども、手紙だとなぜか控えめな、きちんと言葉を選ぶ女性になる。字も綺麗だし。母からもらう手紙は嫌いじゃなかったなあ。

子供の頃、手紙を書くのが好きで、叔母にもよく手紙を書いた。叔母の字も綺麗で、母の字と似ていた。叔母の方がお姉ちゃんだから、似たのは母の方かしら。叔母も手紙だとよそいきの空気をまとっていた。

先日姉から、姪っ子の手紙の書き方が私そっくりだと連絡があった。
何がそっくりかって、「今、まさにおしゃべりたいことを書くスタイル」だからだそうだ。

そういえば母も、子供の頃の私の手紙をそのように表現していた。そして、それをどこか面白がっていたように思う。
私が書く手紙は、届いたタイミングの相手の状況を考えたり、かしこまったりはせず、「今日は、いちごチョコレートの気分だったからアポロを食べたけど、明日はポッキーが食べたい」とかそんな調子だった。「お元気ですか?」とか「この手紙が届くころには、あなたは…」とかそんなことは書かれていない。

姪は、まだ相手の名前と自分の名前をひらがなでそれらしく書くのが精一杯で、本文は書きたいことを口頭で伝えて姉に書かせているらしいのだけれども。
最近、保育園のおともだちや、おかあさんや、おじいちゃんおばあちゃんにお手紙を書くのが楽しいらしいのだ。

私は、姪から手紙がもらえたら嬉しいな、という下心で姪にレターセットをプレゼントしたのだけれど(笑)、残念ながら、私の元にはまだ届いていない。しかし、何よりレターセットが大活躍なのはよかった。

話がずいぶんそれたけれど、小説の中に出てくるリアリティのない手紙が好きだ。最近、印象的だったのはenacoさんのnoteに触発されて、少し前に読み返した『冷静と情熱のあいだ』。その中に出てくる順正の手紙は、小説でも映画でもどっちみちリアリティがなくて、そして素敵だったなあ。
あの手紙がなかったら、あおいと順正の人生が再び動かないもんな、とか真面目に思いをはせたり。あんな風に思いを丁寧に静かに綴った手紙を受け取ったらどんな気分だろうな、とか本気で妄想をしてみたり。それくらい、物語に出てくる手紙には魔力がある気がするよ。

本当は、子供の頃の「お手紙ごっこ」のことを思い出したから書き始めたのに、すっかり話がそれてしまいました。また、書きます。

P.S.  がまくんとかえるくんのおてがみもいいよね。


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