労働分野で紛争になりやすい問題

労働分野のルールをいくつか書いてきましたが、特に紛争になりやすい分野は解雇と残業代です。
この二つが紛争になりやすいはいくつか考えられますが、次のような理由が思いつきます。

・お金になりやすいこと
詳しくは後で書きますが、解雇も残業代も労働者にとってはとてもお金になりやすい問題です。解雇が違法の場合は、解雇後も給料が発生します。また、残業代も過去2年分遡れるので、2年分たまった残業代は結構な金額になります。
このため、労働者も使用者も自分の主張が認められないとシャレにならないので、本格的な紛争になりやすいです。

・相手の言い分を認めることが難しいこと
解雇も残業代も相手の言い分を認めることが難しい問題です。相手の言い分を少しでも認めることができないと、法的手続による解決に行くことになります。
解雇の場合は、労働者は解雇によって職を失うだけでなく、非常にショッキングな出来事のため、素直に解雇を受け入れることができません。使用者も、やはり何だかんだかなり問題のある労働者だと考えて解雇の決断をしていることが多いので、違法な解雇だと言われたくありません。
残業代に関しても、長年にわたりサービス残業を強いられてきた労働者の怒りは激しく、安易な妥協をしようとしません。使用者側の方は、今まで何も文句を言わずに働いてきた労働者が突然残業代請求をしてきたことに戸惑い、やはり受け止めることできず、また、残業代を予算に組んでいないのでお金の出所がありません。

・後腐れないこと
解雇も残業代も後腐れがないことが多いです。
労働問題は、もともと会社内のことに由来するので、会社に勤めている間に大きな問題とすることは心理的に難しいことが多いです。この心理的な難しさが、労働問題が表面化しない一つの要因となります。
しかし、解雇された場合は、会社から来るなと意思表示をされている状態なので、社内の人間関係などを気にする必要がありません。もちろん、解雇が違法で無効となれば、雇用契約は有効に残っていることになるので、理屈の上では職場に復帰するということになります。しかし、ほとんどのケースで、解雇が違法でも(つまり雇用契約が有効に残っていても)雇用関係を終了させる内容の和解をします。つまり、もう会社に戻らないつもりで遠慮なく請求ができるのです。
残業代も、実際には退職してから過去2年分の請求をするケースがほとんどなので、やはり社内の人間関係などを気にせずに遠慮なく請求ができます。

そのほか、パワハラなんかも相談は多くありますが(セクハラは比較的相談が少ないと感じます。)、なかなか大きなお金になりにくいので、弁護士費用倒れになることが多いです。そのため、実際に法的手続まで進むことなく終わってしまうこともあります。
また、いくらパワハラで悔しい思いをしても、会社を辞める決断まではできず、会社に残った状態で何ができるかを考えなければならないことが多いです。しかし、会社に残りつつパワハラを本格的に主張することは実際のところ相当大変です。普通のメンタルでは腰が引けてしまうと思います。

労働問題は、平和な職場環境の確保と法的な権利主張との両立が難しいという独特の問題を抱える分野であり、理想(法律)と現実との隔たりを埋めることに苦労する分野でもあります。