星の音色、寂しさの果て
僕の両の手のひらに、突然飛び込んできた星の欠片。
僕の大切な、星の欠片。
ガラスの箱の底にそっと隠した、碧や翡翠の色に染まる、星の欠片。
あんまり綺麗なんだ。
あんまり綺麗だから、僕はこの欠片を捨ててしまおうと思った。
欠片は本当に突然落ちてきたから、僕はそれを受け止めるしかなかった。
懐かしくて優しい音を奏でる、僕の宝物。
誰もいない浜辺で、時々ガラスの箱から取り出して、僕はそれを眺めた。
あたたかくて優しくて、僕が見つけたどんな色よりも美しいほのかな光を指先に感じるだけで、涙の粒が瞳に溢れた。
それだけで、いいと思ってた。
気付かない振りをしていた。
気付かない振りをしていたかった。
これは君の瞳の宇宙からこぼれてきた星の欠片だって。
欠片が奏でる懐かしい音に耳を傾けるたびに、ほんとうの君の心の音がひとつひとつ見つかる。大好きな音が、ひとつひとつ増えていく。
遠い遠い、僕には再び辿り着く術の無い遠い宇宙のふもとに佇む君の心の音。
僕にはそれがとても嬉しかった。だけど、とても哀しかった。
君は僕が星の欠片を宝物にしていることを知らない。
知らせるつもりもなかった。知られてはいけないと思った。
僕がどんなに欠片を大切にしていても、綺麗だと語りかけても、欠片はただこぼれるように輝くだけで、僕に答えることはない。
それでいいんだと思ってた。思っていたんだ。ほんとうに。
ほんとうに、そう思っていた。けれど。
僕はもうひとつ、ガラスの箱の底に欠片を隠していた。
それは僕のいちばん中枢にはめこんであった、心の欠片。
欠片は時々、寂しそうに呟く。
答えてくれたら。
君の心の音を、僕がいつか燃え尽きてしまうまで、聞いていられたら。
蓋をどんなにきっちり閉めても、深い夜の闇の中でその声が寂しく響く。
手がかりすら見つからない扉を探して虚空を彷徨う、何処にも辿り着けない寂しさの破片。
僕にはもう、耐えられなかった。
この星の欠片さえ無ければ、心の欠片も黙るしかない。ガラスの箱は元のようにからっぽになるけれど、とてもとても軽くなる。
だから、捨ててしまおうと思った。
空と海の境目をめがけて、何度も何度も投げ捨てようとした。
そのたびに、僕は涙のなかに沈むように浜辺に座り込んだ。
そうだよ、この欠片を手のひらに感じたあの日から、僕にはこれ以上大切なものなど見つからないと、僕は知っていた。
知っていたんだ。
知っていたけれど、それが真実かどうかを僕は証明できない。
僕の思い込みの数式でないと、どうして言えるだろう。
魔法使いは未来の地図を覗き見ることができる。
僕は魔法使いの力を借りることにした。星の欠片を捨てるために。
もっと違う欠片がほんとうの答えだと、そう言ってもらうために。
魔法使いは遠眼鏡で宇宙の彼方を見上げる。
その唇が僕に告げる。
お前のガラスの箱の中にある美しい星の欠片を、決して捨ててはいけないと。
魔法使いの言葉が、毎日耳の奥で揺れる。
ひとりぼっちの浜辺で、僕はガラスの箱を胸に抱えて打ち寄せる飛沫を見つめる。
僕は美しい星の欠片も、果てのない寂しさも、捨てられなくなってしまった。
僕にはもう、君の佇む遠い宇宙のふもとが何処に在るのかもわからない。
何処に在ったのか、どうしても思い出せないんだ。
かすかに聞こえる君の心の音だけが、未来の甘い薫りをわずかにつなぎとめる。
僕が見つけた、世界中のどんなものよりも綺麗な、大切な大切な星の欠片。
ずっと探していた君の、君の心の欠片。
今度は君が、僕を見つけて。僕の心の欠片を見つけて。
永遠に答えないかもしれない星の欠片に、僕は今日も耳を澄ます。
永遠に君の声が聞こえなくても、僕は君の星の欠片をガラスの箱の底に眠らせたまま、いつか燃え尽きて行くだろう。
どうか君のやさしい心の音が、いつか君が燃え尽きてしまうまで、微笑みに満たされていますように。
※このポエムは『翡翠の羽、星の音色』の、別角度から撮った写真みたいなものです。あわせてお楽しみいただけたら幸いです。中二病ですみません…。自分で書いてて「誰が書いたのこれ」ってびっくりですよ毎度毎度←白目
--------------------------------------------------------------------------------
主にフィギュアスケートの話題を熱く語り続けるブログ「うさぎパイナップル」をはてなブログにて更新しております。2016年9月より1000日間毎日更新しておりましたが、現在は週5、6回ペースで更新中。体験記やイベントレポート、マニアな趣味の話などは基本的にこちらに掲載する予定です。お気軽に遊びに来てくださいね。
気に入っていただけたなら、それだけで嬉しいです!