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カルビは肉のみに非ず

 足掛け20年ほど住んでいた韓国。だが、牛カルビなんて、両手で数えられるほどしか食べたことがない。しかも、食べたのは、すべてお呼ばれであった。

 牛カルビといっても、米国産や豪州産という輸入牛肉もあれば、韓牛と呼ばれる国産牛肉もある。

 日本に和牛があるように、韓国にも、韓牛と呼ばれる在来種の国産牛がある。和牛とおなじく、たいへん値が張る牛肉である。ご馳走である。

 その韓牛のカルビなんぞ、片手でも余るほどしか、食べたことがない。

 カルビ、日本人にとっては、韓国料理を代表する肉料理ではないだろうか。韓国人にとっても、「ハレの日」にしか食べられないご馳走だろう。 

 カルビといっても、牛カルビは、高価な料理だが、豚肉のカルビもある。こちらは、牛カルビに比べると、値段も手頃で、いわば普段着のカルビと、呼んでもいいだろう。🐇谷がよく食べていたのは、こちらである。

 牛に豚とくれば、鶏にもやはりカルビがある。鶏は韓国語で「タㇰ」という。「タㇰカルビ」がそれである。日本でもここ20年余りで、韓流ブームの影響からだろうか、韓国料理が紹介されたことで、ご存じの方が増えたのでは。

 「タㇰカルビ」は、牛や豚と違い、肉だけを焼くのではない。キャベツやジャガイモなどの野菜と、コチュジャンと呼ばれる唐辛子味噌などをいっしょに、炒めた料理である。

 以前は骨付きのみだったが、やがて骨なしの「タㇰカルビ」も食べられるようになった。

 では、カルビは肉類だけの料理かというと、そうではない。魚にもあるのだ。その魚はサバである。

 サバカルビ、韓国語では、サバを「コドゥンオ」という。サバカルビを「コドゥンオカルビ」略して「「コガルビ」という。

 どんな料理かというと、肚を割いて背中を軸に開いたサバに、塩をしておく。しばらくしてから、小麦粉をかるくまぶす。

 サバをフライパンなどで焼き、焼けてきたところに、醤油、コチュジャン、唐辛子粉などを中心に、ニンニクやショウガ、それに青唐辛子やネギを刻んだものを入れて作った「ヤンニョムジャン」と呼ばれる、タレを塗りつけて、最後に炒ったゴマ、ネギを散らして完成である。

 「コガルビ」の由来は、サバを焼くとき、サバから出た脂がジュウジュウと跳ねる様子が、豚カルビを思い起こさせるからという説や、サバを焼いて食べるからという説など、いくつか説があるようだ。

 その「コガルビ」の材料であるサバは、たくさん獲れるゆえに、廉価であり、大衆魚の代表といえよう。

 なんでも、ある説によれば、1960年ごろの釜山で、たくさん獲れたサバを、苦学生がよく食べたところから、「コガルビ」が食べられ始めたという。そのため「コガルビ」の本場は、韓国一の港湾都市、釜山である。

 「コガルビ」のみならず、今の釜山でも、サバは身近な魚(釜山には15年以上住んでいた)である。

 あるときは、「コガルビ」ではないが、そのまま焼いて、またある時は、大根やネギなどといっしょに煮つけとして、またある時はチゲと呼ばれる、具だくさんの汁物の中に入っていたりと、実に多彩な料理で使われる。

 そんな、サバだから、冒頭で紹介した牛カルビと違って、千手観音菩薩においでいただいて、数を数えても数えきれないほど、食べた記憶がある。釜山にいた頃、🐇谷の血となり骨の一部となっていた魚だった。



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