大人になれというならば

被虐待児だということを、話の流れでカミングアウトすると、
よく言われることがある。

「大人になりなよ。」

この後に続く言葉は、こうだろう。

もういい歳なんだから。いい大人なんだから。
親を許しなさい。ちゃんと結婚しなさい。子供をうんで可愛がりなさい。
子供をうめば親の気持ちがわかるよ。

大人になれというならば。

排泄を失敗して、めちゃめちゃに殴られた幼児時代を。
怒られるからと95点のテストを庭で燃やした小学生時代を。
包丁を向けられて勉強し、受験に落ちて、死ねと言われた青春時代を。
国立大にいってまで、みっともないみっともないといわれ続けた大学時代を。

全部、全部、返してください。
過去の私の笑顔を、返してください。
泣きながら土下座した時間を、返してください。
殴られた痛みに耐える時間を、返してください。

子供時代は、親のことで我慢して。
親になったら、子供のことで我慢するだろう。

私はいつ、甘やかされることができるのでしょうか。
自分を甘やかすためには、子供をつくるわけにはいかない。
まだほしいものも買いきっていない。
行きたい国に、まだいけていない。
また人の顔色をうかがう日々が始まってしまう。

けど、その一方で。

誰よりも、普通の温かさを望んでいる自分がいる。
95点のテストを、頑張ったね・惜しかったねと迎えてくれる家庭を作りたい自分がいる。
受験に落ちても、好きな食べ物をいっぱい用意して、背中を押してあげられる親になりたい自分がいる。

しかし、それをしようとしても。

子供に嫉妬して、親と同じように殴りつけてしまうかも。
そもそも、周りの目に耐えることができないかも。
親はうまく殺さなかったけど、子供を殺してしまうかも。

不安が、いっぱいで、できない。
子供をもつ友人がでてきて、最近はとても苦しい。

本で読んだ・ドラマや映画でみた愛情ではない、
本当の愛情で満たされないと、
社会から求められる理想の大人になりきれません。
「やってはいけないこと」と「やっていいこと」の区別は理性的にはついているけれど、やってはいけないことばかりをされても生き延びてきたので、
本当にやってはいけないことなのか、実は判断がついていないのかもしれない。

けど、歳だけは大人だから。
隣の席に赤ん坊が来れば微笑みかけるし、労働して納税もする。
ピルを飲んでいるからほぼ妊娠もしないし、
パートナーに今は子供がいらないという理由も伝えている。
不幸せな子供をつくらない努力はしている。

これでもなお、大人になれというならば。

一回死ぬから、もう一回人生をやり直させてください。
あたたかい家庭のなかで。














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