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おとなになると、歯医者さんは優しい

去年から定期的に、歯医者さんに通っている。

何がきっかけだったかすでに忘れてしまったが、おそらく虫歯らしき痛みを感じてしぶしぶ覚悟したのだと思う。
そのとき、実は数年も歯医者さんに行っていなかったので
「検査されたら虫歯いっぱい見つかるかも~…」
と恐れおののきながら診察台で目を閉じたのだが、意外にも、虫歯は見つからなかった。虫歯と思っていたのはコーヒーなどによる着色汚れと、知覚過敏らしい。
「よく歯磨きできていると思いますよ」と褒められてほっとした。
しかし、何せブランクがあるので歯石は溜まっている。それの除去と、ついでに以前通っていた歯医者さんでも指摘された親不知を抜いておくことをあらためてここでも勧められた。
接客業なので、顔が腫れたらまずいという理由からずっと踏ん切りがついていなかったのだが、世はマスク生活の真っ只中。
検査も説明も丁寧で、院長先生もいい感じの人だったので私はついに親不知を抜く決意をした。

こどもの頃から私はあまり歯医者さんが怖くなかった。さほど痛い目に遭ってなかったし、親に連れられてではなく一人で出掛ける唯一のお医者さんである歯科通いは、中高生時代の私にとってちょっとだけ「おとな気分」を味わえる場所だった。
けれど、もちろん好き好んで行っていたわけではない。

社会人になり、健康診断で歯科検診がなくなったぶん、おそらく日本人の大多数同様に歯医者さんはご無沙汰になった。あくまでそこは「痛くなったら行く」ところだと認識していたからだ。
ところが、そんな私が唯一熱心に歯医者を探していた時期がある。当時親しくしていた人から「お口がにおうよ」と言われたことがきっかけだった。
本人も恐らくかなり気を遣って教えてくれて、虫歯なのか歯周病なのか、何か原因があるなら治した方が良いからと、親切心で言ってくれたことだろう。そう頭では理解し感謝もしていたのだが、面と向かって言われてみるとかなり大きなショックで、後で物陰に隠れてしくしく泣いてしまった。

後日、ネットでその方面に詳しそうな歯医者さんを探し、「知人にこう言われて…」と相談すると、検査をしてくれた院長先生から
「(においに関して)特に気になる感じはありませんよ」
と言われて拍子抜けした。
「虫歯もありませんし、緊張とかストレスとか、体調とか、そういう状況にもよりますから。今の段階ではそんなに気に病む必要はありませんよ」
ほっと安堵すると同時に、院長先生が席を外している間、私はむかっ腹を立て始めた。ストレスの原因として思い当たるのが、においを指摘してきた当人との関係にまさに悩んでいる最中だったからだ。
(つまり原因はお前じゃねえか…)
しかし自信もないのでやはり落ち込んでいると、そばで待機していた若い歯科衛生士さんから、そっと話しかけられた。
「あの…私も、以前彼氏から同じこと言われて、すごくショックでした。あまり気にしなくて大丈夫ですからね」

その優しい打ち明け話は、治療よりもたしかに私を救ってくれたと今でも感謝している。

さて親不知である。
優しい歯科衛生士さんの居たその歯医者は、私が住まいを引っ越したのと、院長が歯の治療はそこそこにやたら耳つぼだの、頬骨の位置がリフトアップするマッサージだの、関係ないサービスばかりしてくれるので通うのを辞めてしまった。そのため、今回は新しく近所に出来た歯医者を選んだ。

私の親不知は4ヶ所のうち、3つが歯茎から頭を出している状態だった。レントゲンを通してみると、今はさほど問題ないが隣の歯に将来的にぶつかる角度で生えているものもあり、残しておくメリットはないとのこと。
まずは左上の親不知を抜いた。翌日、様子をみたが腫れていないしまったく痛みもない。どきどきしたが、「こんなもんなら全部行けそ~」と気分が楽になった。

その後、数ヶ月開けて今度は右上の親不知を抜いた。前回の手術(←の、扱いらしい)で経験しているので、グイグイと工事のように大胆に引っこ抜かれる感じもビビらずに…いや、やっぱりビビったけれど何とか我慢できて、無事抜歯成功。すると院長先生が、
「右下の歯も、ついでにとります?」
えっ。
聞くと、上の歯を抜いたので下の歯だけが残っている状態だと嚙み合わせに違和感が出るかもとのこと。また、現時点で下の親不知は虫歯もなさそうだが、将来的なリスクを考えると抜いてもいいと院長先生にすすめられ、まだ右上の親不知跡から血がだらだら出ている状態かつ抜歯工事との闘いでハアハア息切れしながら、頭をフル回転させた。
そして思い切って、
「じゃあ、もう少し頑張ってみます!!」

2本目の親不知を再び渾身の力でグイグイしながら院長先生は笑っていた。
「いや~女の人は度胸がありますね~。男の人だと、(ついでに抜くか)提案しても尻込みするんですよ大抵。でも、女性は行っちゃってください!っておっしゃる方多いから。すごいなあ」。

いや、提案してくれたの院長じゃないですか!!!

とつっこみたかったけれど、振り絞った勇気を褒められて悪い気はしなかった。
一気に2本も抜いた今回の親不知抜歯は、前回と違って後が結構大変だった。腫れはないものの、痛みと「血餅けっぺい」というらしい口の中のかさぶた的なものが出来て数日間憂鬱に。しかし、それも1週間も経つと通常に戻った。今はたいへんスッキリしている。




親不知の抜歯や知覚過敏が落ち着いたら、またなんとなくフェードアウトしようと目論んでいた歯医者さん通いだが、今回は、なぜだか続いている。

現在お世話になっている歯医者さんの雰囲気や、丁寧な説明のお陰だと思う。正直、定期的な出費は地味に痛いのだが、間隔が開けばそれだけ次回の検診ではっきりと数字(歯茎の状態や出血している箇所など)にあらわれることが素人にも理解できる説明を毎回してくれる。やっぱり、定期的なメンテナンスが大事だなと身をもって感じるのである。
先日は、検診のあと歯科衛生士さんにちょっと心配された。

「かなり歯を食いしばって寝てみえるようですよ」
「えっ!?そんなことわかるんですか?」
「頬っぺたの内側に、白い線が出来るんです。あと、口の中のお肉を嚙んじゃった跡もありましたので…。」

この頃、だいぶストレスの溜まる出来事が続いていたが日々を乗り切るため自分を奮い立たせて生活していた。そんなふうに押し殺した我慢を、親族や知人でなくまさか歯医者さんが気づいてくれるなんて。

「あまり出血があるようでしたら、お薬出しますので、言ってくださいね」

お疲れ様でした。
お大事になさってください。

私がエレベーターに乗り込み扉が閉まる瞬間まで、丁寧に頭を下げて見送ってくれた。





今週もお読みいただきありがとうございました。親不知の抜歯に関しては、決して推奨しているのではなく、私個人の経験を書いたに過ぎませんので(私の場合、生え方の問題だけでなく一部虫歯になっている親不知があったので抜歯を選びました。)ご注意くださいね。
2度目はほんと結構、術後が大変でしたし…。(その状況になるってわかっていたら“2本目”は「こ、今回はやめますっっ!」て答えたかも。。。)
ちなみに、記事トップの画像はトムの歯の状態をチェックしているときの画像です。猫も歯周病とかになるんですよ!要注意!

あなたは年に何回、歯医者さんへ行きますか?

◆次回予告◆
『接客業のまみこ』㉓㉔

それではまた、次の月曜に。


*宇佐江の赤裸々な日常?よみきりエッセイはこちら↓


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