うるぽのショートショート7日目:季節はずれの朝顔
季節外れの朝顔
私はの趣味は、ベランダでガーデニングをすることだ。
ストレス社会の世の中で、植物というものは癒しをもたらしてくれる。
会社では山田部長がいつも威張り散らしていて
「あの仕事はもう終わったのか」
などと嫌味ったらしく私を責め立てる。
はぁ。毎日うんざりだ。
だけど、1週間は山田の声を聞かずに済む。
珍しく有給を取ることができたのだから。
リビングから続くベランダの窓を開けると、気持ちいい風がレースカーテンを踊らせた。
いい天気だ。
私は、並べた鉢植えを見渡す。
春にたくさんの花を咲かせてくれたサフィニアたちは、異常気象ともいえる夏の暑さでほとんどが枯れてしまった。
そして5月中旬に種まきをした、朝顔。
こちらは蕾は付いているものの、なかなか咲かない。
もう9月だというのに。
不思議に思いながらも、洗面所に向かう。
プラスチックのジョウロに水を汲み、再びベランダに向かう途中。聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おい、水谷。あの仕事はもう終わったのか。」
全身の毛穴という毛穴から、汗が吹き出す感覚。
恐る恐る、声のする方へ向かう。
私は、言葉を失ってしまったー
なんと、朝顔が、山田部長の顔なのだ。
ガクに支えられて、ニョキッと。山田部長が咲いている。
山田部長は繰り返す。
「おい、あの仕事はもう終わったのか」
あまりの威圧感に、ついつい答えてしまう。
「あ…。…いえ…まだです…」
久しぶりに声を出したので、声がかすれた。
山田部長はより一層眉間にシワを寄せて、私を睨みつける。
「なんだと。お前を信用して任せているというのに。早くしろ。」
やめてくれ…私を責めるのは…。
そのあとは気を失ってしまったらしい。
目が覚めると、リビングのソファの上だった。
夕陽のオレンジ色が差し込み、床を染めている。
はっ…そうだ、朝顔…山田部長はどうなった?!
慌ててベランダに向かうと、山田部長はシナシナとしぼんでいた。まるで、空気の抜けた風船のようだ。
私は少しホッとした。
翌朝。
またしても、山田部長が咲いていた。
「おい、水谷。あの仕事はもう終わったのか。お前を信用して任せているというのに。早くしろ。今月の売り上げ目標はまだ達成してないだろう。どうする気だ。お前は会社を潰す気か。この給料泥棒が。」
今日の山田部長は、よく喋った。
目の前が徐々に白くなって…またしても意識が遠のいていく。
それ以上、言わないでくれ…。
また目が覚めると、辺りは真っ暗だった。
…確認しなければならない。
静かにベランダに向かうと、山田部長はしぼんでいた。
フフッと笑が込み上げる。
分かってる。これは私の幻想だ。
だって…山田部長は…
1週間前のあの日に殺して、この手で首を落としたんだから。
「もう咲いてくるなよ。」
そう言って、私は朝顔の蕾を全てむしり取った。
作品解説
今年、朝顔を種から育ててみたんです。
毎日水やりをして、お世話を続けて、やっと咲いた花。
やったー!と大喜びしていたら、次の日には枯れてしまって…。
朝顔って、1日しか咲かないんですね。
は、儚すぎる…!!
しかも支柱の向きを直す際に、誤って蕾を引きちぎるという事件が起きて、あまりにもショックすぎたのでこの小説を書きました。
どういう昇華のさせ方やねんっていう。
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