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愛と正義の赤ちゃんごっこ【6ーA】
ピンクの制服を着たウェイトレスが忙(せわ)しげに目の前を通り過ぎていく。制服と同系色で彩られた店内は、学生と思しい集団を中心に若者客でごった返している。テーブルの間を駆けまわるウェイトレスを目で追っていると、愛ちゃんの制服姿を想像してしまう。
「お待たせいたしました。ジャンボストロベリーパフェでございます。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
ウェイトレスに会釈をして、パフェの生クリームにスプーンを差し込む。速水さんの注文したクリームソーダはアイスクリームが溶けかかっている。
「見かけによらず甘党なんだね、赤地君」
「そう?」
「だってそんなに痩せてるんだもん。羨ましいな」
「速水さんだって痩せてるよ」
パフェに乗っていたミントをソーサーへ除けながら、ふと愛ちゃんの言葉を思い出した。愛ちゃんといい速水さんといい、多少むっちりしている娘のほうが魅力的だということをまるでわかっていない。
「そういえば愛ちゃんが嘆いてたよ。速水さんとは身長差があるのに、体重は同じくらいなんだって」
「あいつはむちむちして可愛いからいいんだよ。私なんか、油断すると男みたいにごつくなっちゃって」
たしかに速水さんは、痩せてはいるが体格が良いというか、高身長で骨格がしっかりしている。こうして見るとブレザーよりも詰襟のほうが似合いそうだ。
「私さ、中学ん時バレーボールやってたんだ」
「へえ、俺も中学までバレー部だったよ」
「そうだったんだ。ポジションは?」
「レフト。速水さんは?」
「私もそう。あ、ちなみに愛もバレー部だったよ」
「愛ちゃんも?」
意外な共通点を見つけたのが嬉しくて、思わず声を上げてしまった。気恥ずかしくなり、少し声を抑えた。
「あんなに小さいのに?」
アイスクリームが溶け込んだソーダを掻き回しながら、速水さんが付け加えた。
「あいつね、セッターだったんだよ」
なるほど。セッターならアタッカーと違い、愛ちゃんのように小柄な娘でも務まるはずだ。健気にボールを上げる彼女の姿を思い浮かべ、顔がほころびてしまった。
「それで赤地君、相談っていうのは?」
「あ、うん、その……」
僕はうつむいて本題に入った。
「やっぱり俺、避けられてるのかな?」
そう言ってからちらっと速水さんの顔を見上げると、彼女はいくぶん戸惑った顔でストローから口を離した。
「そんなことないよ」
「ほんとに? ほんとにそう思う?」
思わずテーブルへ身を乗り出してしまった」
「だって、相変わらず一緒に塾行ってるんでしょ?」
「それはまあ、そうなんだけど……」
たしかに愛ちゃんはこの一週間、少なくとも表面上は僕に冷たい態度をとったりはしなかったと思う。ただ、何となく避けられていたというか、あまり話しかけてくれなかったし、こちらから話しかけても最小限の返事しかしてもらえなかったような気もする。
「何か、俺の悪口とか言ってなかった?」
「だからそんなことないってば。むしろ赤地君と一緒にいると英語とか教えてもらえるし、痴漢に遭うこともないし助かるって」
速水さんの言葉にほっとして、最後まで取っておいた一番大きな苺を頬張った。
「ありがとう。おかげで生きる希望が湧いてきたよ。俺の頼りは速水さんだけだ」
「そんな大げさな」
「食べたいものがあったら何でも頼んでね。今日は俺の奢りだから」
「いいよ、自分の分は自分で払うから」
「いいからいいから」
遠慮する彼女を説き伏せ、さらにケーキを二つ注文した。
速水さんの力を借りれば、少なくとも情報収集についてはかなり楽になる。もちろん愛ちゃんはすでにギュンターとかいう男に惚れているのだから、僕のほうが圧倒的に不利であることは否めないが、だからといってここであきらめるわけにはいかない。おそらくギュンターには真剣に交際する気などさらさらないだろう。女子に絶大な人気のある名門大学に通う色男が、合コンで知り合った女子高生と結婚を前提に交際するなどということは考えがたい。僕の大事な愛ちゃんを、みすみす色情狂の慰み者にされてたまるか。
不意にブーブーと妙な音がした。リュックサックの中からスマートフォンを取り出し、速水さんは無言で画面をのぞきこんだ。
「愛ちゃんから?」
「そうだよ」
「何だって?」
「いや……別に、たいしたことじゃないよ」
そう言うと、彼女は手つかずだったチーズケーキをそそくさとつつきだした。
よく考えてみれば今日は月曜。普段なら愛ちゃんは速水さんと一緒に帰宅するはずだ。なぜ今日に限って別々なのだろう。まあ、そのおかげでこうして相談に乗ってもらうことができたわけだが。
「愛ちゃん、何て言ってたんだろ?」
つぶやくようにそう訊ねてみる。速水さんは黙りこんでしまった。
「ねえ、速水さん」
「なんかね、あいつ今、あの、ギュンターって人の部屋にいるんだってさ」
何秒間か固まってから、我に帰った。手持ち無沙汰にショートケーキを頬張ってみても、もはや何の味も感じられない。
「大丈夫だよ。試験勉強に行っただけだから」
「でも、相手は百戦錬磨の……」
落ちこむ僕を気遣ってか、やけに明るい声で速水さんが話題を変えた。
「ところでさ、赤地君はこの店、よく来てたの?」
「ううん、初めてだよ」
「なら見てみる? ウェイトレスの桃下(ももした)さん」
そう言うと、速水さんはスマートフォンの画面をこちらへ向けた。ピンクの制服に純白のエプロン姿で愛ちゃんが微笑んでいる。カメラを向けられて恥ずかしかったのか、頬がうっすら紅潮している。あまりの可憐さに思わず喉が鳴った。
「その、その画像、俺に送ってくれない?」
ワイシャツの胸ポケットからスマートフォンを取り出し、速水さんから送信された画像を確認する。この娘は僕のものだ。誰にも渡すものか。絶対に。
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