クック諸島滞在記 No.6
「2020年はサイクロンとともに」
年が明けた。
ラロトンガ島で年を越すのはこれで3回目である。初めはこんなに長くいるつもりはなかったが、結局、これで島での滞在も4年目に入ることになる。
日本と違って、クック諸島の新年は淡々と過ぎていく。それよりも、クリスマスのほうが彼らにとっては大切な時間であり、ほとんどの会社や商店が休みになる。というか、誰も働きたがらないので、必然的にすべてのサービスが麻痺していくのである。年明けは1月1日だけお休みで、あとは普通の日々であるが、一周目の週末が終わるまでは島中で飲んだくれが溢れる。
我が家に関して言えば、毎年、大晦日の夜には家の前の浜辺で流木を集めて焚き火をする。しかし、今年はミニサイクロンが到来したために風と雨が強くてすることができなかった。12月に入ってから年末にかけて、いくつものサイクロンが南太平洋に停滞していてなかなか動かなかったために大荒れの天気がずっと続いていた。
ラロトンガ島の我が家は、マタベラという地区にあり、東の海岸に面している。通常、ラロトンガ島では年間を通して東から風が吹く。サイクロンがやってくるときも、まず東側から風が強く吹き始める。なので、我が家は天気がいいときは最高に気持良い景色を眺めることができるのだが、風が強くなると波飛沫が風に乗って家に吹き付けるので、窓を全部締めて閉じこもることになる。
そうやって過ごした大晦日から元旦。初日の出を毎年家の前の浜辺で見ているけれど、今年はなし。暴風と豪雨のなか、じっと家が飛ばされないことを願いながら過ごすことになった。
そんな最中、隣の猫のラップトップがテラスにやってきたので、仕方なく抱きかかえて暴風雨のなか隣の家まで連れ帰ったり、ついでだからと庭のパッションフルーツの添え木が倒れないように固定したり、動物や植物のためにずぶ濡れになりながら、サイクロンが過ぎるのを待った。
唯一、毎年恒例の行事ができたのは、お雑煮だけである。このときのために用意してあるかつお節で丁寧に出汁を取り、彩りのある島の野菜(と言っても人参とほうれん草ぐらいだけだけれども)を具材に、これまた大切に保管してあるお餅を取り出してきて、うやうやしく焼いた。
それっぽいお椀がないのは仕方ないので、ガラスの器でお雑煮を頂いて、ようやくラロトンガの我が家にも正月がやってきた。
昼過ぎ、風はまだまだ強かったが、雲が切れ始めたので、車に乗って島を一周することにした。道路にはヤシの実や葉がたくさん散らばり、海沿いの道は流木や海藻が波とともに押し寄せ冠水しており、ところどころ通行止めになっていた。
島の北側にあるブラックロックに行くと、これまで一度も見たことのないぐらいの人が集まっており、どうしたのだろうかと思ったら、みな、外洋から打ち付ける大波を眺めていた。
波もまた、これまで島の滞在を通じて一度も見たことのないような巨大なものであった。みんな、我々と同じで、やることがなく野次馬根性丸出しで島を周り、ブラックロックで波を見ているのであった。
夕方にもなると風も落ち着き、浜辺に打ち上げられた流木などを集めて過ごした。そして気がつけば暗くなり始め、東の空に一番星が浮かんだ。今年の始まりは、太陽ではなく、星から始まった。
星空のもと、流木に火を付け焚火。これで一応、年明けの一連のルーティーンは終了。
今年一年、この島での生活がどのようなものになるのか、想像もつかないが、もしかしたら島暮らしの終わりが見えてくることになるのかもしれないと思いながら、揺らめく炎を眺め、波の音に耳をたてて過ごしてた年明けであった。
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