ついに入ってきた

沖縄はヤモリ王国だ

この年中 温暖な気候はヤモリにとって心地よい

それは初めから覚悟していた
今まで数十回 沖縄を旅してきて
本土のわが家では全く見なくなったヤモリとの
遭遇率が高いことに気づいていた

でも窓の外側にへばりついていても
外階段の手すりを走って逃げても
屋外ならそれほど恐怖は感じない

一瞬 心臓が停止するほど驚くが
それはしょせん その時だけのこと

万が一 ホテルの部屋に現れても
その滞在中だけ我慢すればと
どこかひとごとで 短い付き合い
耐えられる

もともと生き物は基本苦手だが
素早く動き
表面が湿っていて
ましてや夜にはギリギリと
不気味な声で鳴くヤモリ

絶妙にこの部屋に入れまいと
引っ越し以来 様々な努力を惜しまなかった

窓枠や網戸には防虫スプレーを3日おきに吹き掛け
窓を開けてベランダに出るときも
玄関を開けて外に出るときも

ドンドンとまず叩いて
いるかも知れないヤモリに合図を送る
網戸にして風を通すときも
隙間がないようにキッチリ閉まってるか
くどいほど確認してきた

網戸とサッシの隙間にもスプレー
吊るすタイプの防虫剤
結構 そこにお金をかけてきた

それがヤモリ侵入防止策にならないかもしれないが
少なくともエサとなる虫が来なければ
ヤモリが来る頻度も減るのではと

その効果なのか どうなのか
引っ越して1ヶ月たっても
侵入どころか ヤモリ自体をほとんど見かけない

やはり防虫剤の効果はあるのだ

そんな慢心が一瞬にして破られた
恐怖の瞬間は突然やってきた

7月半ばのある夜のことだ
いつものようにテレビを見ていた

テレビの画面の外側に小さな黒い影が一瞬写し出された
状況を理解するのに少し時間がかかった

絶対にヤモリを侵入させてない自信が
理解を遅らせた

画面の外側なのに まるでテレビ番組の一部か
特殊効果であるかのように ボンヤリそれを見つめていた

そしてようやく 飛び上がった
恐怖で声も出ない

大きさからすると子供のヤモリ
恐れるに足らない大きさ

しかしシルエットや手足の運び
気味の悪い体のくねらせ方は
大人も子供もないのだ
しかも壁の白い色にやけに映えるシルエット

向こうもこっちの動きに驚いたのだろう
すぐにモニターの陰に引っ込んだ

さぁ どうする
どうしたらいいのだ

ヤモリはゴキブリや蜘蛛や蚊などの虫を食べてくれる
家を守るからヤモリと言うのだ
何も人間に害を加えることはない
だから室内にいても大丈夫
放っておけばよい

いやいや
そんなことは百も承知だ

でも苦手なものは苦手
無理なものは無理だ

ヤモリと無期現の同居なんて考えられない

虫を食べてくれなくていい
入ってくるな

ヤモリのフンは虫よりイヤだ
毎晩 あの鳴き声を子守唄にするのか

突然 現れて壁や床を走られたら
その度に心臓が一時停止する

友人にラインで助けを求める
捕まえて外に逃がしてやって
ヤモリは殺してはいけないと

いやいや
捕まえられるのなら
部屋に侵入したくらいで
この世の終わりみたいな気持ちにならない

近寄るのも ましてや触るのも無理なのだ

恐る恐るテレビの裏側を覗く
相手も驚いて 移動する
こっちもそれに飛び上がる
その繰り返しが真夜中まで続く

何も解決しない
お互い疲弊するのみ

ネットで「ヤモリ 侵入 沖縄」で検索
どれもたいてい 外に逃がせ、殺すな
害虫を食べてくれる、家守…

1つだけ 共感できる書き込みあり

虫を食べてくれるから殺すなというけど
虫は死んでよくて ヤモリはダメなのか
ヤモリは寄生虫をたいてい持っていて
フンや室内での死骸は衛生的に良くない
家を守るってのも迷信であり
何の根拠もない

外に逃がそうと窓を開けておけというけど
その間に別のヤモリが侵入するだけだ

残酷なようだが
捕まえられないなら
殺虫剤で弱らせて その間に何かを使って
外に放り出すとかするしかない

この先 ヤモリと同居して
生きた心地しない日々を送るのか
いずれエサがない部屋の中で餓死し
干からびた死骸に出くわすだけだ
それを目にするのも恐怖だ

意を決して
殺虫剤を少し吹きつける
心の中でごめんっていいながら

すぐには効かないが少し動きが弱まる
ほうきの先でビニール袋の中へ掃き入れる

まだまだくねくね動いてる
ビニール袋に伝わる振動すら恐怖だ

それを持って外へ出る
ビニール袋を逆さにし
ヤモリを逃がす

意外と元気に去っていくヤモリ

罪の意識から
殺虫剤の効果は最小限で
復活してくれることを願って

安心して寝床につく
すぐに深い眠りについた

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