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黎の軌跡発売前考察③~その悪夢は誰にとっての?~

「──悪夢を纏う?」

 英雄伝説 黎の軌跡発売までおよそ50日といったところでしょうか。新旧を交えた魅力的なキャラクターたちや、戦闘を含めた本作の新システム、そして共和国の各都市など、黎の軌跡は徐々にその雰囲気を明らかにしてきています。
 そんな、ニュースやムービーなどで明らかになっていく情報の中には、繰り返し筆者の印象にひと際強く残っているものもあります。多くのファンにとっても同じかもしれないそれは、《悪夢》というキーワードです。
 発売前考察の3本目。今回は登場人物についてではなく、順々に画像・映像・情報が公開されていく中で目につく、《悪夢》というキーワードを基に、登場人物や物語が進むかもしれない行く末……そんな可能性を妄想考察していきたいと思います。

 本稿は、黎の軌跡のキーワードを発売前の予想として考察したものになります。

1.ヴァンと《魔装鬼》

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 まず、多くの人が驚いたと思われる《魔装鬼》や、それに関係する人工知能メアについてです。


Mare──メア

「アタシに任せて! シャード解放──悪夢を纏え(テイク・ザ・グレンデル)!」
 ヴァンの戦術オーブメント《Xipha》にインストールされている特別製のホロウコア(支援用AI)。
 かなり自己主張の激しいタイプだが、AIとして設定されたパーソナリティであり、“自由意志”は存在しない。
 普段は他のホロウコア同様、音声ガイドによるサポートを行っているがヴァンの身の回りで“何か”が起こることでホログラムのようなアバターとして現実世界に顕現する。
 その際はAIにはあり得ない“意志”を自ら示し、ヴァンの全身を“悪夢を纏った”姿――壮絶な殲滅力を振るう《魔装鬼(グレンデル)》へと変貌させる。(黎の軌跡公式サイトより)

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 軌跡世界において、800年を生きた魔女や聖獣など、崇高な知性というものはありましたが、機械知性であったり、人工知能であったり。そういったものの初出は、恐らく創の軌跡のエリュシオン≒ラピスやシュミラクラだと思います。
 メアは新型戦術オーブメントXipha(ザイファ)に搭載された人工知能、AI天真爛漫なラピスのような『自由意志は存在しない』ということですが、逆にいえば『不自由な意志は持ち得る』ということでしょうか……。
 メアはある特殊な条件の下に現実世界に顕現し、ヴァンの全身を《魔装鬼》へと変貌させる。この文脈から見るに、戦術オーブメントXiphaではなく『《Xipha》の中のメア』がいてこそ成し得る《魔装鬼》の様です。
 一方で、Xiphaの正式名称は『eXternal Interface for Post Human Activation』です。正確な意味は判りませんが、『人類進化のための外部連結器』といったところでしょうか。

 第六世代の最新戦術オーブメントとなる《Xiphaザイファ》は霊子装片シャードと呼ばれるエーテルの欠片を使用者の周囲に展開し、それを制御することでさまざまな機能を発動させることができます。
 また、《Xipha》全体の基本性能を左右する『ホロウコア』、複数のアーツ導力魔法がインストールされた『アーツドライバ』、クオーツの属性値に応じて発動する特殊効果『シャードスキル』など、プレイヤーの能力を上昇させる様々な新機能が盛り込まれています。
 《ザイファ》には全体の基本性能を左右する『ホロウコア』、複数のアーツ導力魔法がインストールされた『アーツドライバ』、クオーツの属性値に応じて発動する特殊効果『シャードスキル』など、プレイヤーの能力を上昇させるさまざまな新機能を搭載しています。(黎の軌跡公式サイトより)

 人類が次なる段階へ進化するための機械……なにやら某塩教授を思い浮かべてしまいますが。
 戦術オーブメント本来の機能に加え、Xiphaそのものの機能に関わるホロウコア。そこにメアが搭載されていることを考えると、ヴァン以外のXiphaにも、何かしらの方向性でその正式名称に見合う性能があるのではないか……?
 ヴァンにとっては、その機能の一端が《魔装鬼》なのかもしれない。そして、メアはナイトメアを彷彿させる語呂でもある。そんな彼女の決め台詞が、「悪夢を纏え!」であること。
 魔装鬼は、悪夢を纏う。この悪夢を『纏う』ということについて、考察していきたいと思います。

2.『名もなき悪夢の果て』で目につく悪夢

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 8月6日、黎の軌跡ミニサントラが公開され、そこには主題歌と思われる。『名もなき悪夢の果て』もショートバージョンとして聴くことができます。ここでも悪夢です。
 正式な歌詞ではないですが、聞いた限りの歌詞を載せていこうかと思います。


手を出せ 離すな 繋がれ 見えないなら 
強さも 弱さも 孤独も ただの夢だ
悪夢を纏う 感覚を解き放って 遮るものを振り払え 
激情の炎に ゆだねた魂だけが 己が信じていく道だ

悪夢を纏う 完全に否定されない 世界を誰もが望んでいる
全ての覚悟で決意の想い……


 聞いてみると、やっぱり悪夢が続いています。
 悪夢を纏い、感覚を解き放つ。激情の炎にゆだねた魂。ただの夢。悪夢に関連するキーワードが目白押しです。
 曲全体を見ると勇ましい印象で、再び後悔しないために全力を駆けているようにも感じます。

 夢、この場合は就寝中に見る夢ですが、この夢というのは本心であったり、本能であったり、歌詞に出てきた魂であったり。そういったものが関連しているとはよく言われます。
 この曲の歌詞以外にも……

・メア‐ナイトメア‐悪夢
・「悪夢を纏う」
・そもそも軌跡の難易度設定には……
・ラピスの台詞「エリュシオンが視た泡沫の《悪夢》」

 ちょくちょく、軌跡世界のフレーズに《悪夢》がありますね。

3.悪夢と夢

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 私事なんですが、この一年ぐらい、筆者は『他人に聞かせれば悪夢』と言われるかもしれない夢をちょいちょい見てきました。
・全長数百メートル、太さ数メートルの巨大な蛇に呑み込まれそうになる。
・もののけ姫のデイダラボッチの粘液に呑み込まれる。
・ゾンビの群れに襲われる。
・拷問みたいなシーンの風景を見ている。

 ちょっと笑えないですが、こんな感じのが多いです。起きた時に汗だくだった、とかそういうわけではないのですが、上の夢は人によっては悪夢といっても差し支えないと思います。
 あるいは、トラウマを負った人が反復されて見る悪夢だったり。『身の毛もよだつような、恐ろしい夢』これが悪夢と言えるでしょう。つまりは夢の一種です。
 夢は色々な形で現れてくる。物語だったり、風景だったり。自分の交流のある人が出てきたり、アニメ漫画など架空のキャラクターが出てきたり、海の中で息をしているとか現実にはあり得ない状況だったり。

 心理学などの単語で出てくる、自我、意識、無意識、自己など。これは夢にも関連する単語です。

自我:『私』を規定するもの。意識下で現れる主体。意識の中心。
意識:有意識状態。
無意識:変性意識状態とも。『意識消失』などではなく、意図しない意識の在り方。『意識』とは、また別の意識状態。
自己:意識と無意識を含む、その人の全体性。

 夢は無意識の状態を表すともいいます。無意識の欲求であったり、恐怖する存在であったり。そのニュアンスは多岐にわたります。
 例えば、夢に出てくる同性の人間は《影》──自分が選択しなかった生き方との顕れ、異性は《アニマ》《アニムス》──自分の魂の顕れともいいます。
 自分が纏っている衣服は《ペルソナ》──公的な自分の立ち位置など。
 そのどれもが他人ではなく、夢において登場する存在や環境は、自分そのものでもあると言える。
 他の解釈によっては意味合いも千変万化となりますが、これはこれで有名な解釈です。

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 悪夢を《纏う》ヴァンの様子。この悪夢はヴァンにとってのペルソナになる?

 そして、夢には夢を見ている主体が存在します。
 化け物に襲われているのであれば、襲われている《私》が主体となわけですが、その私という自我にとって、なにか恐ろしい事が起きているかもしれないのです。
 ヴァンの《魔装鬼》はそんな『悪夢』を纏う……つまりは恐ろしいトラウマを身に宿すという、プロセスは違えどリィンやケビンのような守護騎士の聖痕に近いように感じます。

4.その悪夢は誰にとっての?

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 そしてトラウマを身に宿すことについて、本当にそれだけなのか? と気になることがあります。

 先ほど、夢を見ている《私》は自我であり、登場する他の人物は自分の《魂》であったり《影》であったり、自分の持つ意識に現れなかった可能性であることに触れました。つまり、夢に内包される存在の多くは無意識下にあるだけで自分自身であることには変わりないということ。
 蛇に呑み込まれるという悪夢。それは呑み込まれる《私》にとっては確かに生命の危機そのものですが……別の可能性の自分である《蛇》にとっては生命活動に必須である捕食行動に過ぎません。
 「蛇に襲われたが、命からがら逃げ延びることができた」とは、自分の中の《蛇》の性質から見れば「獲物を食べることができなかった」失敗した夢に他ならない。蛇に取ってはそれこそ一種の悪夢であり、「蛇は私を喰う夢」は悪夢ではないのです。
 だから、気になるのです。悪夢を纏う──「その悪夢は誰にとっての悪夢なの? 誰のどの精神にとっての悪夢なの?」と。

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 「そんなわけあるか」という意見もあるかもしれません。ただ、心の成長や進化とは、それまでの自分の生き方や価値観──自分の精神という存在そのものを壊して殺して新たな精神を創造する作業でもある。袋小路に留まった《私》を《蛇》が食い殺したほうが、いっそ成長できるかもしれない。時にはそんな考え方もあるのです。

 ヴァンの《魔装鬼》は悪夢を纏う。とはいっても、それはヴァンにとっての悪夢なのか。他者の悪夢なのか。戦術リンクや転移など、導力は現実世界ではできない規格外な能力を持ち得ます。ならば他人の悪夢を纏えるかもしれないし、自分の中の《私》には平凡で《化け物》にとっては恐ろしい悪夢なのかもしれないのです。

 悪夢が『誰』の『何』にとっての悪夢なのか、という疑問。それは、悪夢を身に纏うヴァンが、どのように成長するのか、ということにも関わると思います。
 先ほどは悪夢のある種のメリット、成長する契機を強調しましたが、当然デメリットもある。現在の自我を食い殺されて、崩壊してしまうかもしれないというデメリット。
 そんな精神の狭間を纏う(身に宿すのではなく『纏う』なのも気になりますが)ヴァンは、なんども心を揺さぶられることになる。リィンは自分自身のおぞましいものと戦ってきましたが、ヴァンは複雑怪奇な悪夢と戦っていくことになるのでしょうか……。

5.悪夢が見せる軌跡世界の可能性

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 最後は、悪夢とヴァンの関わりではなく、『悪夢とゼムリア世界』の関りについてです。

 創の軌跡の微ネタバレになりますが、創の軌跡において中心人物であるラピスは、ラスボスとなった『あり得たかもしれない結末のイシュメルガ=リィン』をこう言いました。『泡沫の悪夢』だと。
 言葉遊びですが、そこに『悪夢=IF世界』という式が生まれました。
 閃の軌跡Ⅳにおいて伏線となった別世界。それは創の軌跡において回収されましたが、それでも、本当にエリュシオン回りのためだけに生まれたことなのでしょうか?

 カンパネルラはゼムリア世界を指して『可能世界』といいました。

 われわれが現実に生きているこの世界とは、いくつかの点で異なるが論理的には充分考えることができる、ほかの世界のことをいう。 ライプニッツのいう可能世界とは、その世界のなかで成立している事態同士が、まったく矛盾していない世界のことである。(コトバンクより)

 つまりは、やはりIF世界ということでしょうか。ゼムリア大陸の外の世界だったり、外の理であったり、若干箱庭世界やデータ世界を想起させる要素が目立っているのが最近の軌跡シリーズです。
 それともう一つ、ある物語とは異なる別の可能性、という言葉。今思い出したいのは、黎の軌跡のシステムである『L.G.C.アライメント』です。

 メインストーリーやクエスト進行中、プレイヤーが選んだ選択肢によって主人公ヴァンに設定された3種類の属性値 LAW / GRAY / CHAOSが変動します。
 この属性値に応じてヴァンのパラメータが一部変化するほか、ストーリー中盤以降の展開や《裏解決屋》の共闘勢力、敵対勢力にも変化が生じます。
 LAWの属性値が高い場合は《遊撃士協会》のように世間一般に知られている公的な組織との共闘が可能ですが、GRAY CHAOSの属性値を高くしていくと……。(黎の軌跡公式サイトより)

 ヴァンが選んだ選択肢によって変わる勢力図。物語の根本までもが変わるとは思いませんが、それでも一つ(どころか無数)のIF世界がそこに成り立っていることになります。
 プレイヤー一人一人が選んだ選択肢の違いが、その分だけ世界の可能性を広げることになる。そういえば、グラムハート大統領は『世界の可能性に迫る計画』とか言っていましたか。

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 無数にある悪夢という可能性。誰かにとっての良い夢は別の誰かにとっての悪夢かもしれない。世界は人一人の一挙手一投足で様々な可能性を見せる。様々な悪夢を纏うヴァンという主人公が、その無数の選択によってゼムリア世界に与える可能性を見届ける、そんな黎の軌跡の物語。

 改めて、発売まで50日ほど。早くその軌跡を辿りたいですね。

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 お付き合いいただき、ありがとうございました。


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