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深化した成長物語~劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!Re:感想~

「私がバンドをやっている理由。」
 

 6月7日、公開初日の《劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!Re:》を見てきました。私はぼざろをアニメ放送後に知ったクチで、ネットで話題になってるのを知って「おっじゃあ試しに観てみるかー」となって、9話ぐらいまで放送された後に視聴し初めて見事にハマった人間です。
 
 そして今回、劇場総集編の前編を視聴。ぼざろアニメは方々で語られているように漫画本来のぼざろの面白さがありつつ、放送版で監督はじめアニメ制作陣によって「ぼっちの成長物語じゃないか」というテーマに沿って描かれている。そのストーリー性がロックバンドシーンと比肩してもいいくらいの、アニメ《ぼっち・ざ・ろっく!》の魅力の一つだと思います。
 
 そして劇場総集編前編を観て感じたのは、TV放送版とは似て非なる……いやより明確化したテーマでした。以降は劇場総集編前編のネタバレを含みつつ、自分が感じた漫画でも放送版でもない《劇場総集編の魅力》を妄想込み・ネタバレ全開で語っていきたいと思います。


1.劇場総集編におけるOPとED


 まずはOP《月並みに輝け》とED《今、僕、アンダーグラウンドから》について。


 これを書いているのは6月10日、さっそくOPとEDを聴きながらキーボードをカタカタ叩いています。まだまだ音楽と歌詞を楽しんでいる段階なので、その中身について多くは語れません。
 思ったのはそもそもの話、『OPとEDが存在していること』です。私がアニメ・アニメ映画に疎いというのもあるでしょうが、それでも『劇場アニメ』にOPとED(特にOP)があると言うのは、一昔前と比べると明確に変化した点だと思っています。
 例えば名探偵コナン、ポケモン、クレヨンしんちゃん、ドラえもん。物心ついた子供の頃から親しんでいたアニメ映画は、それ用のEDがあってもOPはなかったと記憶しています。
 記憶の限り「あれ、映画なのにOP曲があるぞ、劇中歌があるぞ」と明確に感じたのは2016年の《君の名は。》でして、それに続く《天気の子》など、《君の名は。》の後辺りからOP曲などがあるアニメ映画が増えていったように感じています。
 
 今回のぼざろはTV放送版の総集編。《青春コンプレックス》やその他ED曲とは異なる2曲を使った。もちろん新曲による経済的な意味もあるでしょうけど、《月並みに輝け》《今、僕、アンダーグラウンドから》という曲名と、そしてまだうろ覚えな歌詞の数々は、「TV放送版とは違うぼざろを展開するぞ!」という制作陣の魂の声のようにも感じたのです。

2.最初にもってきた「ぼっちの道の始まり」


 じゃあ、劇場総集編ならではのぼざろとはなんだろうか。
 劇場で冒頭のシーンを観て、さらに考えることとなりました。
 
「そういえば、ぼっちちゃんがバンドをしてる理由聞いたことなかったよね?」
「でも、まだぼっちちゃんには秘密だよ?」

 
 声優さん方の演技と作画も合わせ、虹夏ちゃんを大天使へと昇華させた一部のファン悶絶必至の自販機シーン。
 これが来た時、「このシーンをはじめに持ってきたか!」と納得しました。
 どこで見聞きしたかも覚えていないのですが、斎藤圭一郎監督がインタビューで答えたという「ぼざろはぼっちの成長物語なんじゃなないか」という語り。
 
 ぼっちこと後藤ひとりは、ひとりぼっちで陰キャなギター少女。ずっと押し入れでギターを弾いて、技術が上手くなっても外の世界に開くことはなかった。
 けれど高校入学を機に行動範囲が広がって、虹夏という物語を始める者がやって来た。「サポートギターをしてほしい」という願いは待ち望んだことではあったけど、ひとりにとって他者と交流することは拒みたくなるような大きな壁でもある。
 けれどそれを乗り越えて、結束バンドに加入して。郁代とリョウという仲間も増えて、ライブオーディションという壁にぶち当たる。さらには師匠との縁、台風ライブというそれまでで最大の苦難。(総集編前編の範囲とは外れますが)さらには文化祭ライブまで。
 
 最終的にはTV放送最終話で、ひとりが「今日もバイトかぁ」とそれまでの苦難だったバイトが「ちょっと嫌なもの」くらいに成長した。
 まさしく、「ぼっちの成長物語」だと思います。

 ※《ヒーローズジャーニー》という物語をつくるうえでの概念がありまして、それは『神話にも似た英雄の物語の流れ』であり、それを参照したストーリーを作るノウハウもあります。TV放送版のぼざろは、個人的にはその英雄の12の旅の段階にしっかり当てはまるようにも感じるのです。

 ただ、劇場総集編は当然総集編であって、媒体も形式も違う以上TV放送版と同じにはできない。当然カットしなければならないものがある。そうは言っても、ただ漫然と「ギャグシーンをカット」とか「ここは重要じゃないからカット」とかでは、しっかり念入りに整合性をとらないと一つの物語として破綻してしまう。
 
 そこでテーマとなるのが、「私がバンドをやっている理由。」だと思います。
 これは「ぼっちの成長物語の要素」ではあるけれど、「ぼっちの成長物語の全部」ではない。ギターの実力が上手くなった、結束バンドの一員になった、自分らしい歌詞を書けるようになった。すべて重要な要素ではあるけれど、劇場総集編としてその中で何をクローズアップするのか。
 そうした流れだから「ぼっちちゃんってどうしてバンドをやっているの?」と一番最初に提示して、視聴者に印象付けさせる。ぼざろは既に一大コンテンツになっていると思いますし、多くのファンが眼に触れるキービジュアルでも「私がバンドをやっている理由。」と明示する。
 そうして前編の最後にひとりが「ギタリストとして結束バンドを最高のバンドにしたい!」と冒頭の疑問に答えを明示する。「目指す道は見えた。」わけです。
 
 劇場総集編前編は、この虹夏の疑問とひとりのアンサーに注力した描き方をしている。新規OPとEDの良さよりも、劇場で観るバンドシーンよりも、沢山の特典や物販よりも、一番に《物語》《作品》というものにかける制作陣の熱意に、私は感動したと言いたいのです。

3.《ひとりぼっち東京》と《ひみつ基地》


 同様に、OPとED、テーマの提示(もちろん勝手な考察ですが)以外にも、挿入歌に対しても「おお!」と感じるところがありました。
 結束バンドの曲はどれもヘビーローテしていますし大好きです。順位をつけるなら、今回出た《ギターと孤独と蒼い惑星》《あのバンド》《ひとりぼっち東京》《ひみつ基地》の中では、《ひとりぼっち東京》が一番好きだったりします。

 ※もしこの4曲とOPED以外に挿入歌があったら教えてください!

 《ひとりぼっち東京》は序盤、ひとりのバイトパートに当てられた。まさしく『ひとりぼっちで人の多く、喧騒のある下北沢駅に降りた』後の話で、『怖くても何かが変わることを期待して重いドアを押した』ことでSTARRYのバイトが始まって、まだ意識にも上らない『言えない夢をいつか誰かに届けたい』。そんな序盤の流れは、ひとりの不安と希望の心境であって、《ひとりぼっち東京》のゆるやかで朝焼けか夕焼けを感じるイメージがピッタリだと思います。
 
 《ひみつ基地》は中盤、郁代が加入してからバンドミーティング、そしてアー写撮影の最初に当てられた。四人が集まったことで好転し、バンドとしてのスタートを切ったという明るいシーン。『秒針が意味もなく(はないですが)進んでいく、けれど作詞の課題は残っていてもやもやとしている』わけで、でもそんな闇の中というひとりの心は強烈な作詞の宝庫。そんなひとりの奥底は『ひみつ基地みたいで、広がるパノラマは燦燦と輝いている』。ダイジェスト現在の明るさと不安と、そしてこれからの展開を予感させる選曲だと思います。
 
 作詞・作曲というのは、どれをとっても、明言してもしていなくても、なにかしらのテーマや目的、指向性があると思います。ぼざろで言えば《青い春と西の空》は江ノ島回をイメージしたとか(もしかして後編ダイジェストで来る……?)、インタビューでもいろいろ語られている。
 そうした確固たるイメージと、曲としての雰囲気と歌詞・曲調が作る包容力。OPとED、劇中のバンド選曲、そして挿入歌、どれをとってもマッチしていて、そうした曲選びも、個人的には考察している劇場総集編のテーマに合致していると思うのです。

4.「目指す道は見えた。」


 劇場総集編前編への想いを妄想込みでつらつらと語りました。そうなると、今考えてしまうのは後編のテーマです。
 私の妄想考察が仮に正解なら、キービジュアルに書かれている「目指す道は見えた。」が後編のテーマとなりうる。
 
 後編の流れをTV放送版を基に語るなら、江ノ島回があって、文化祭ライブに出るまでの葛藤があり、きくりが所属するSICK HACKのライブを観て決意を固め、文化祭1日目を経て、2日目のライブ本番。さらにその後の新ギター購入までが描かれる。
 原作漫画既読勢としては、その後の初登場キャラとの一幕と、その人物の影響で結束バンド4人が決意する新しい目標(恐らくは2期で描かれる展開)こそ、『目指す道』のようにも感じる。とはいえ、あくまで劇場総集編。アニメ放送版をすっとばして劇場でそこまでの展開をやる、なんてことも考えにくいと思います(サプライズを期待していなくもないですが)。
 
 後編に相当する中に『目指す道』がないわけでもないと思います。原作及びアニメ未視聴未読の方にとってはネタバレですが、それは郁代の決意です。
 文化祭ライブの後にある、郁代の決意。それは──まあ、今は語るのは控えておきましょう。ただ、わかる人にはわかるはず。
 
 あくまで個人的な考察では、キービジュアルの台詞はどっちもひとりの言葉のように思うので、前編の「私がバンドをやっている理由。」という問いから、その答えを得て「目指す道は見えた。」という流れがしっくりとは思います。
 
次なる総集編後編は8月9日、約2か月先。果たして後編にも新規OPはあるのか、EDは《Re:Re:》となるのか。カップリング曲はまた別の曲になるのか、さらなるサプライズがあるのか……!?
 
 今後とも一ファンとして、追いかけていきたいと思います……!
 
 
 長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。


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