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真冬の大冒険 Outro:夜明け

ベルリンの壁、進撃の巨人、約束のネバーランド。
数々の塀や壁が人類の前に立ちはだかってきた。

そして今、私は私の壁と闘っている。
オートロックという名の壁と。
これを越えたら昨日までの自分を超えられるかもしれない!

それには最大の難関が待っていた。
塀を越えるには、塀を登るだけでなく、塀の向こう側に降りなければならない。
降りるまでが塀だ。
まだ半分残っている。

しかしフェンスを足がかりにして
それよりさらに上のここにたどり着いた私は
いまや自分の身長よりも遥かに高い位置にいた。
この高さから飛び降りられるのか?

「幽遊白書」の「裏男」を思い出す。
次元の狭間に生きる平面妖怪で、
飲み込まれると腹の中に閉じ込められてしまう。
ここはマンションの住人か不法侵入者かの境界線上。
このままでは私自身が裏男になりかねない。

できるかできないかではない。
やるしかないのだ。

そして両足は塀から飛び立った。

一瞬の出来事だった。
足裏にいささかの衝撃はあったものの
私という機体は無傷で着陸した。
あまりにもあっけなかった。

いったん建物の内部に入ってしまえば、
廊下を伝ってすぐに見慣れたエレベーターホールに出る。
ガラス扉の反対側にいた時間はもはや別の世界線だ。

いつもの階で降り、いつものルートを通って、
いつもの部屋番号の前で立ち止まる。

ああ、私の家。
あんなにも帰りたかった私の家。
待たせてごめんね。
ただいま。

ドアに向かう自分の背後の空がうっすらと白んでいる。

新しい一日が始まるのだ。

【完】



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