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セイントアンガーの人

みんな光りかた探していた
私はいつも蛍光灯つけっぱにしたまま
その窓を守っていた
セイントアンガー/リーガルリリー

好きなスリーピースバンドの『Cとし生けるもの』というアルバムの中の一曲。
このバンドは歌詞もいいし楽器がうまい。見た目に反してハードロック。ライブに行くと楽器が楽しそうに鳴っているのがわかる。
2016年に知り2017年くらいから追いかけているわけだが、ベースが抜けてサポートベースが入って、そのあと新しいサポートの子が入ってきたと思ったら正規メンバーになりますと発表された、そんなライブもこの目で見ていたことが今となっては幸福なのだ。あの日の自分ベイビーアイラブユーだぜ。だぜ。。思い上がって後出しになるけれどそのメンバーが初めて出てきたとき、初めて3人の音を聴いたとき、これは始まったと思った。確実に始まったと思った。ポンポン浮いてたんだ音が。うれしそうに。その時期のライブ全部行ってたからバンドの今日の調子が分かるくらいにはなっていたというわけで、このくらいは言わせてほしい。

そんなことは置いておいて、『Cとし生けるもの』というアルバムタイトルのCは炭素を表す元素記号で、それは多くのものと結びつき、実は人間もダイヤモンドもCなんだ、みたいな話をラジオできいた。何がすごいってそのタイトルをベースの子が考えたらしいことだ。ボーカルが曲を作っているのに。バンドには色々な形があるだろうが、曲を生み出した人とそれを受ける人の間で誤差なく理解されるのは簡単なようで難しい。私はこのバンドが好きだが私なりの解釈で好きでいるだけだ。
しかしバンドとして音を鳴らすためには通じ合えていないと窮屈になっていく。新生リーガルリリー(現メンバー体制は2018年〜なのでもう新生ですらないが)がこの形で出来上がっていることに感動したのだ。(誰)

「セイントアンガー」という曲は個人的にアルバムタイトルと一番結びつきが強いように感じる曲で、今回のアルバムで一番好きな曲だ。「怒れなくて君に奢った缶ビール」というフレーズも好きだし。この曲は物語なので全部好きだ。曲でおはなしをする、これはこのバンドの特徴だと思っている。
自分はよく人と話している最中で考えごとに耽ってしまうよくない癖があるのだが、考えれば考えるほど自分の意見を出しにくくなる。話を聞いていないわけではないけれど、どこかに着地をするわけでもなく解決策を見つけるわけでもなく、脳内で会話をし続けてしまい目の前の相手を置き去りにする、というか置き去りにされることはしばしばある。
いっそのこと勢いで思ったことを言ってしまえばいいのだろうが、考えを巡らせずに言葉を出そうとするともう一人の自分が止めてくる。この曲を聴いたときそんなことを思い出した。

このバンドで一番知られている曲はきっと「リッケンバッカー」で、その次が「ぶらんこ」あたりか。
「リッケンバッカー」の最後、

おんがくよ、人を生かせ
ニセモノのロックンロールさ。
ぼくだけのロックンロールさ。

この歌詞について友人と話していたとき「ニセモノの」というフレーズはギターの歴史(「リッケンバッカー」が他社に買収されてとか、コピー品が云々とか)のことも踏んでいるのではないかという話が出た。(多分そんなことはないのだが、考察が楽しくなってしまうのがファンである)
何より「ニセモノの」と「ぼくだけの」というちぐはぐなフレーズをわざわざ並べることによって人が踏み入れやすくなるというのはあるような気がしている。それに作品というものは言ってしまえば全部ニセモノだ。作者が影響を受けてきたもので作られるのだから。今私が紡いでいる言葉だって既存の言葉の羅列だ。

多くの人に理解されやすい音楽というものはあるだろうし、時代の流行もある。個人的にリーガルリリーはそっち側のバンドではないと思っているが、「リッケンバッカー」は、そっち側ではない人間が勝負に出た曲、という感じがする。音楽は表現なので「売るための」音楽を作るのはいつか限界が来る。が、売れないとやっていけないのが現実である。売れるというのは多くの人に知られるという意味合いでのそれだ。自分の作りたい音楽がそっち側だったらラッキーだが、そうでなかった場合続けていくには試行錯誤しなければならない。
ただのファンとして、"らしさ"を欠くことなく多くの人に伝わるように、伝えるために作られた曲が「リッケンバッカー」であるような気がしている。要するに入口になる曲を、という話だ。
リーガルリリーはひとりごと物語のような曲が多い。それが好きになった理由なのだが、メンバーが脱退して約1年くらいは「リッケンバッカー」がこのバンドが終わらないことを信じさせてくれていたところはある。(誰)
バンドも人も儚い。思っているよりもちょっとしたことで壊れるし消える。音楽はバンドがなくなってもずっと残るが、せっかく好きになれたのなら生の音を聴いていたい。

『Cとし生けるもの』がリリースされ、安心して、嬉しくて。これまでのことを思い出していた。

追記:2月8日のライブの映像が出ていたので載せてみる。最前列で号泣している私が映っていま、せん。ほっ

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