ベトナム少数民族の村(後編)
2023/5/17〜2023/5/18
……ベトナムに来て6日目。
腐る程聞いてきた声掛けだ。
このトーンの「ハァローゥ」はもう振り向かなくてもわかる。
「いっぱいあるよ、どれが良い?」
数人の女性が民族衣装を纏い、カラフルな紐やペットボトルホルダーを私達グループに売り込んでくる。
まず、そもそも
いつからここに居た……!?
ガイドも黙認という事は、予め組み込まれた内容なのだろう。
他の人達の反応は様々だ。
記念に買おうという人もいれば、押しに押されて仕方無く、または頑張って断り続ける人も。
しかし、まぁ本当に
頭おかしいのかと思う程しつこい…!
いくら断っても
「これ、どう?」「これ買わない?」
の一辺倒で、全く会話にならないのだ。
加えて、ガイドも動かないからもう軟禁状態である。
そうはいっても、私だって日本でずっと営業の仕事をしてきた。
ましてや自分の店を13年続けてきた商売人だ。
だから飛び込み営業自体は嫌じゃない。
というか、理解しようとする。
そして、相手が頑張っているなら余程の金額じゃない限り、必要無くても買って終わらせようと思うタイプだ。
それで事が済む場合であればだが。
相手も多少納得するだろうし…。
ところがハノイに来てからずっと、客引きも物売りも
「金持ってる奴が来た!金だ!金取れる!」
完全にそんな雰囲気なのだ。
相手の満足など考えていない。
声も目も、ベトナムドン丸出しなのである。
少なくとも、私にはそうとしか見えない。
なので、どうしても買う気になれず、かなり強い口調で強引に断ると
「んもぅ…!(本当にそう聞こえた)」
と悔し悲しい顔をして、物売りは去って行った。
売りたいなら、もう少し売り方考えろよ…
その後のガイドの話で
「とにかくお金と教育が必要だ」
「そしてお金があれば学校にも行ける」
「だからお金が大事なんだ」
と何度も言っていたのが心に刺さった。
トレッキングを再開し、晴れやかな気分に戻ると、ちょうど良いタイミングで昼食の時間に。
山の中にも食堂があるのだ。
ちゃんとツアーに合わせて地点が設定されている。
「食べ終わったらチップを渡してください」
ガイドがそう言っていたので、グループの皆と共に財布を取り出す。
いくら位が相場かわからなかったが、他の人の様子を見ながら、それよりも大きい金額を渡した。
見栄を張りたかったのではない。
先程苛まれた良心の呵責を払拭したかったのだ。
食堂の店員は驚き、私にだけ御礼を言ってきたが、素直に喜べなかった。
昼食後、再びトレッキング。
快晴の空にも助けられ、気分を取り戻す。
それにしても贅沢だ。
眼下に広がる自然と一心に向き合う。
自分の呼吸音に耳を澄ませる。
ただただ、何にも考えず頭を空にする。
瞑想に近いのかもしれないが
いざやろうと思っても簡単ではない
旅に出て2ヶ月弱
一番心にゆとりができた瞬間だ
歩き始めてから5時間。
汗だくながらも爽やかなトレッキングが終わり、ホームステイ先の家を紹介される。
家というか、普通の民宿だ
モン族のホストファミリーが宿を経営していて、そこにガイドを除いた、私を含む10人が寝泊まりする。
モンゴルの時の様に、一遊牧民の家庭に私1人がお世話になるのではない。
要するにアクティビティ付きのパッケージツアーなのだ。
少数民族には変わりないが、既に現代化されて首都ハノイと結び付き、立派なビジネスになっている。
例えるなら、北海道のアイヌ文化のそれといったところだろう。
もっとも、単独でサパまで行き、少数民族の方と直接交渉して泊まる方法もあるらしいのだが、その場合はどうなのか分からない。
いずれにしても、民族の伝統は継承しつつ、外部とはわりと密に接している様だ。
まぁ
ハノイの宿からツアー申し込んでるんだから当たり前だよな
そんなわけで、一緒に歩いた欧州の人達と夕食を囲む。
ユーロ圏の人々は近隣諸国との関わりも頻繁だからなのか、大体の人は英語を日常会話レベルなら自由に話せるらしい。
なので、私が会話の足を引っ張る事になり、申し訳ない気持ちだったのだが、皆がゆっくり喋るなどしてフォローしてくれたので、楽しく過ごせた。
異国の山の民宿で、ポツポツと光る民家の灯りを眺め、異国の人達と緩やかな時間を過ごす。
とても穏やかで、貴重な経験だ。
ここに来て良かった
想像していたツアー内容とは違ったが、これもまた最初で最後の体験かもしれない。
そんな事を思いながら床に着き、翌日、再びバスでハノイに戻った。
2023年3月から世界中を旅して周り、その時の出来事や感じた事を極力リアルタイムで綴っています。 なので今後どうなるかは私にもわかりません。 その様子を楽しんで頂けましたら幸いです。 サポートは旅の活動費にありがたく使用させて頂きます。 もし良ければ、宜しくお願いいたします。