愛のない庭~ジュール・ルナール「にんじん」(改訂)
ジュール・ルナール(1864- 1910~フランス・小説家、詩人、劇作家)
小説「にんじん」(1894)が有名。簡素で日常的な言葉を使って、鋭い観察による様々な傑作を生み出した。「にんじん」は後にルナール自身によって戯曲家され、日本の戯曲界にも影響を与えた。他に「ぶどう畑のぶどう作り」(1894)「博物誌」(1896)等。
「にんじん」
ルナールによる有名な「にんじん」について、ざっくりとですが紹介しておきます。さまざまな解釈ができる作品かと思います。
「にんじん」は、彼自身の幼少体験をもとに書かれた中編小説です。
1894年の出版後、ルナール自らの手により戯曲化もされています。
母親からの激しい虐待に耐える少年の成長を描いたこの作品は、児童文学として有名です。
ただ、「愛がない」ということの苦しさが描かれた原作は、きわめてつらい内容です。
肉親間の愛憎にはデリケートなものがあります。
また、家族であれば簡単に逃れることができません。
ましてやこどもであるにんじんにとって、それは牢獄の中で暮らすような毎日です。
交流のあったジッドは、「ルナールの庭には水が足りない」と評しました。
ただ、「にんじん」には、全編を通して独特の乾いたユーモアが漂っています。それがこの作品の魅力であり、救いとなっているとも言えます。
この話のどこまでが事実にもとづいているのかは、定かではありません。
しかしやがてルナール家は、父が猟銃で自殺し、母は庭の井戸にて不審な死を遂げるという悲劇に至ってしまいました。
私は泳げるけれども
それはちょうど
他人の救助はやめておく程度だ
I swim just enough
to hold me to save others.