アフターコロナでのセーフティーネットー住宅確保困難者への対応

住宅困難者への支援は従前より大きな問題でしたが、コロナ禍ではさらに深刻になっています。これを機会に本格的に住宅困難者対策を講ずることが日本社会の安定性に重要だと思われます。

■はじめに

 我が国の格差が問題視されています。かつて標榜された「一億総中流」が幻想だと指摘する向きも多くなりました。確かに所得格差がありますがすべて平等で平準化した社会が良いわけでもありませんし、実現不可能でしょう。いろいろな意味で格差はいつの世でも存在しますので少しでもそれを是正・緩和することが重要になります。
 格差是正政策には生活保護等の多くの分野での多様な支援政策がありますがまずは生活の基本となる住居の確保が第一ですのでここでは住居確保について記載します。

 そもそも、我が国の住宅はすべからく資産価値が無く、住宅マーケットは実施的には無いという困った状況であり、これがセーフティーネット以前の最大の問題です。と言っても何とか日常生活上での居住空間としては最低限確保されています。

 住宅確保困難者問題を解消することは今後日本が安全な信用社会を持続するために不可欠なことですが、住宅確保は以前から生活保護世帯などは貧困ビジネスの餌食になっていたことが問題でした。コロナ禍によりさらに住宅困難者がさらに窮地に立っています。
 住宅確保給付金の2019年度申請数は 約 4,000件、2020年 9月に 10万件を超え、支給期間は12ヶ月に延長されましたが困窮状況は続くと考えられます。
  これにたいして福祉団体などが対応してきましたがこの問題は福祉と住宅の両方の問題です。厚労省と国土省との政策が別々になっていることも対応に遅れがある一員です。両省は人事交流等により比較的連携をとりつつありますがなかなか上手くいきません。


 厚労省は低額無料宿泊施設や日常生活支援住居施設関連施策がありますが施設整備助成はありませんし、国土省のSNI(セーフティーネット)登録制度には居住者支援の助成がないという片手落ちです。
両省は人事交流等により比較的連携をとりつつありますがなかなか上手くいきません。

 コロナ禍対策としての住宅確保給付金は 2021年 3月に切れると、さらに大量の生活保護申請が出る可能性があり ます。
 また、 2020年 9月末の予測で、 家賃扶助費以上の家賃は払えず転居が必要となる人は、今後生活保護申請をする約 20万人のうちおよそ 2万人と考えられ、特に単身者・高齢者・障がい者等の課題を抱えている方々の受け皿はほとんど無いのが現状です。
 両省の主要な関連施策は下記のとおりです。

■厚生労働省(1)無料低額宿泊事業

 生活保護受給者の他、低所得のひとり親世帯や単身高齢者、障碍者等の生活困窮者が住まいの確保をしにくい状態にある「住民難民」が増加し、社会の大きな問題となっています。そのために「無料低額宿泊事業」(生計困難者に簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させることを目的に利用させることを目的とした事業(社会福祉法第2条第3項第8項))があります。
「無料低額宿泊所」が全国で357か所(2015年6月時点)あり、約1万5千人(生活保護受給者が約90%)が居住しています。一方で無届の法的位置づけの無い施設が1,236か所もあります。
 これは社会のセーフティネットのひとつとして重要ですが、昨今「貧困ビジネス」(素性不明な団体のビルに生活保護者の寝床と食事を与えて生活保護の約8割以上強制天引きしてお金を吸い上げる)の対象となり低水準の施設・運営が多くを占めているのが現状です。
 無料低額宿泊所の約90%は大都市にあり、その内約70%は生活保護者です。そして、無料低額宿泊所利用者の約50%、無届け施設等利用者の約21%が路上生活からこれらの施設に入所しており、路上生活者の受け皿となっていると考えられるほか、病院等から入所した者もそれぞれ約9%、約30%となるなど、退院後の受け皿としても機能していると考えられています。
 無料低額宿泊施設は、従来、一時的な宿泊施設とされてきましたが、58%の利用者が1年以上にわたり施設を利用し、4年以上に渡り利用する者も32%となるなど利用期間が長期化しています。52%が40歳から64歳の中高年齢者ですが、65歳以上の高齢者も約39%を占めています。
<無料低額宿泊事業と賃貸住宅・有料老人ホームとの比較>            

画像1

■厚生労働省(2)日常生活支援住居施設事業

 以上のような状況の中で、「居住支援」と「日常生活支援」を併せた事業として「日常生活支援居住施設」制度が創られました。これに合わせて無料低額宿泊所の最低水準も設定されました。
 「日常生活支援住居施設」は新たに創設するものでは無く、無料低額宿泊所のうち、支援の実施に必要な要件に該当する施設であり、当該施設に対して日常生活上の支援が必要な被保護者に係る支援を委託し、その費用を支出する仕組みです。
 従来は事業者は委託費が無いため市場に流通しない建物を改修するなどして低水準の居室を利用させていました。
新たな制度の概要は下記のとおりです。
・【社会福祉法の既存制度】無料低額宿泊所(社会福祉住居施設:法第2条第3項第8号)
生計困難者のために無料又は低額な料金で宿泊所等を利用させる事業について、現在ガ
イドラインである設備・運営に関する基準を法定の最低基準として新設 ⇒自治体において条
例制定が必要。
・【生活保護法の新制度】日常生活支援住居施設(法第30条)
福祉事務所が、良質なサービスの基準を満たす無料低額宿泊所等に対し、単独で居住が
困難な生活保護受給者への日常生活上の支援を委託する制度が新設 ⇒自治体において
認定等が必要
本制度は令和2年10月から開始されるため、多くの団体がその準備をしています。
これまではわずかな利用料を基にして建物の拐取や生活支援をしていましたので、低水準な住環境の中で最低限の支援しかできませんでした。そのため「貧困ビジネス」が横行しましたが、本制度で生活支援の運営費は委託事業で対応できるようになりました。しかし、肝心な「居住」の整備については特段の助成措置はありませんので、新規はもちろん、改修においても十分なものが行えないという課題は残されています。

■国土交通省(住宅セーフティネット制度)

 住宅セーフティネットの根幹である公営住宅については大幅な増加が見込めない状況にある一方で、民間の空き家・空き室は増加していることから、それらを活用した、新たな住宅セーフティネット制度(SN登制度:住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度)を2017年10月からスタートさせました。
本制度は下記の3つの柱で構成されています。
 [1]住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度
 賃貸住宅の賃貸人は、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅として、都道府県・政令市・中核市にその賃貸住宅を登録することができます。都道府県等では、その登録された住宅の情報を、住宅確保要配慮者の方々等に広く提供します。その情報を見て、住宅確保要配慮者の方々が、賃貸人の方に入居を申し込むことができます。
 [2]登録住宅の改修や入居者への経済的な支援
本制度では、登録住宅の改修への支援と、入居者の負担を軽減するための支援があります
  -改修費の補助
-改修費補助募集HP
  -入居者負担の軽減について

 [3]住宅確保要配慮者に対する居住支援」

 今回の法改正で、都道府県が、居住支援活動を行うNPO法人等を、居住支援法人として指定することが可能となりました。
 生活保護受給者については、代理納付に関する新たな手続き、家賃債務保証業については、適正に業務を行うことができる者として一定の要件を満たす業者を、国に登録する制度を創設、さらに、家賃債務保証業者や居住支援法人が、て家賃債務を保証する場合に、住宅金融支援機構がその保証を保険する仕組みも創設しました。
  -居住支援協議会
  -居住支援法人
   (不動産仲介企業、社会福祉団体等様々です)

  -家賃債務保証業者登録制度
  ―住宅金融支援機構による保険

画像2

出典:国土交通省https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000055.html


(公社)全国賃貸住宅経営者協会連合会では家主さんの啓蒙および協力のために「生活困窮者及び生活保護受給者に関するガイドブック」を作成しています。

■新たな支援への取組み(休眠預金の活用)

 かつて休眠預金(2009年以降10年以上取引が無い預金、年間700億円以上)が大きな社会問題となりましたが、その後、どうなったかはあまり知られていません。2009年から「新しい公共」推進会議でNPO代表者らの提案を基に議論がスタート。12年にNPOや学識経験者が呼び掛け人となった「休眠預金国民会議」が設立され、休眠預金活用の法制化を目指した研究や啓発活動が進められました。14年4月には超党派の「休眠預金活用推進議員連盟」が発足そして、社会課題の解決や民間公益活動の促進のために活用する制度として2016年12月に「休眠預金等活用法」が成立し、2018年1月1日付の同法の全面施行により、休眠預金活用による民間公益活動促進に向けた取り組みがスタートした。休眠預金等活用法に定める指定活用団体となることを企図し、2018年7月一般財団法人「日本民間公益活動連携機構(JANPIA)」が経団連により設立された。

<休眠預金等の活用の流れ>

画像3

 福祉団体と自治体そして一部には不動産企業も連携しつつ対応していますがもう少し本気で官民が取り組む必要があります。

 例えば、JANPIAからの資金提供を受けてパブリックリソース財団はコロナ禍での住宅確保困難者への様々な対応をしています。実行団体を対象に助成対象を厳密なコンペにより選定して、従前の各種施策では穴になっていた建物への助成を行っていますが非常に有効であり、今後はこのような施設への助成支援施策が恒常的に行われることが望まれます。

■不動産業界におけるセーフティ―ネット対応の期待

 福祉と不動産とは乖離した世界のようですが実際は上述したように福祉の器は住宅であり施設ですので、ある意味、極めて密接なのです。
 これまでは無料低額宿泊所に使える施設は通常の仲介流通に乗らない物件がほとんどです。施設運営者は適当な不動産を探すことが出来ない一方で、目敏い仲介業者は売れない・貸せない物件を施設運営者等に仲介します。ある意味win-win関係と言えるかも知れませんが、苦肉の策と言えます。
 低所得者や生活困窮者だからといって、低水準の住まいで良いというわけはありません。今後の生活再建を目指すには居住空間として最小限の機能・性能を充足していることは当然のことであり、必要なことです。しかし、実態は流通しない物件が多いため、狭く、断熱性・遮音性が低く、老朽化したものが大半です。運営者には運営委託事業が制度化されましたので運営面では改善されましたが施設整備・取得費用に関する支援はまだありません。

 不動産業界は有料老人ホームや高優賃等は事業の一環ですが、さらに、不動産の専門家として、持ち出しの無い範囲で中古物件から少しでも有用な物件の紹介や廉価で効率的な改修等のアドバイス等をすべきです。居住水準が向上すれば地域環境も改善され、地域の価値も向上し、最終的には地価も賃料も向上するからです。長い目で見て何が出来るかを考えて実践して欲しいものです。
 また、公的には公営住宅がその役割も期待されますが建て替え時には戸数は増やさない方針ですのでなかなか、これらのセーフティネット対応が難しい状況ですので、SN登録制度が出来が経過もありました。しかし、今後は改めて建て替え時等に関連の住宅も含めて一定水準の公営住宅を整備して、新たな、日常生活支援団体等に委託する方策も重要かと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?