2023年のうた 第二期 春・夏
2023年のうた
第二期 春・夏
ぼんやりと物思いする万愚節つみなき嘘はありやなしやと
四月馬鹿りちぎに用意した嘘を噴かすツイート眺めたりして
駅前で信号待ちをしていると頭のうえにまた飛行船
駅前のスクランブルする交差点見上げる先をビルがさえぎる
その先の道が見えてる春ならば散る花ですら目に楽しかろ
ひらひらり書いて消してのその後ろ桜吹雪がとめどなくふる
あの頃のリアルスティックどこいったリアリスティックさに欠ける棒
あまりにも明るい光が差していて細部がもっと見えにくくなる
人間が生の知能で書いたからAIほどは伝わらないよ
実際に空や無の字を書くだけで少し心が楽になる気も
石を背にひっそりと咲く躑躅かな花ほころんで春はふかまる
蕾から紅紫の花が顔をだす開きかけから香るしゃくなげ
葉にまじり枝につきたるまましおれゆく深い緋色の木瓜の花
閾値で今と昔の東京を折り重ねたり継ぎ合わせたり
岩船を天の探女が漕ぎ寄せるえいさえいさら宝珠をのせて
これはもうにせの探女のにせ宝珠なめればわかるたくあんの味
布団の背中が浮いていて薄ら寒くて目が覚める春の朝方
ベートーベンの四番を聴くたびにソヒエフの顔を思い出しそう
ぽんぽんと年度始めの号砲か四月三日の午前八時に
通りかかったウグイス嬢と張り合って白鶺鴒が鳴いている
音のない世界でなにを聞くのだろう音にならない音を聞くのか
坂本のピアノに耳をかたむけるこれはるかぜに似たるものなり
何となく折り合いがつき少しずつ近づいてると感じてたのに
道はいくつもあるけれどどれもいずれは空となり無へかえりゆく
零落れた帝国の中の帝国が今まさにほら自然にかえる
黄昏のポストモダンの灯がきえて遠ざかってく遥か彼方へ
近代に終焉などはおとずれずスーパーモダンに移行しただけ
プリファブでかさかさしてた生活がちょっと踊ってすぐ元通り
ヴィオラなんぞは裏返しひょいと片手で掲げもつ乙なフォトだね
花に酔う浅葱裏らに見せつけて土手のうえからする小三郎
近代は終わることなく息絶えて古典のさきに未来がみえる
あらかじめ決められているスケールを極微なとこへ引きおろす
骨は骨皮は皮でのばらばらでつかい道などないようなもの
口実に口実つけて蓋をする今日という日をまた遣り過ごす
新緑のまだみどりとはいえぬよな澄んだ淡さでかがやくみどり
ゆらゆらと風に吹かれる薔薇の葉も芝生のうえの影もゆれてる
四時のチャイムが五時になる季節はすすむだれの都合もきかないで
清明につばめすずめも何ならと身の丈にあうこころざしもつ
横揺れし足もとてんでおぼつかぬ右肩下がりのブルーなピアノ
春の夜がとても暗くて何だかみんな嘘のようとぼとぼ歩く
夢がまだ形とどめているうちにちゃんと覚えたはずなのだけど
春らしさ頭の中で演出し目を閉じて聞く遠くのつばめ
ようようと鷺が羽ばたき飛んでゆく春の田んぼで朝の食事か
物陰の畦に咲きたる鈴蘭も群れているから目にとまるのか
耳慣れぬ鳥の声だと聞き入ればどっかで使うとんかちの音
花が散る真下をそろり抜けようとしても降るのはもう軸ばかり
なにひとつまともにできぬものですが期日前投票にいきます
小文字でゆっくり間を置いてワタシハサケンデイマセンと布告する
滑らかで平らなとこへゆっくりと落ちてゆきますぐにゃりぐにゃりと
細い糸一本だけの命綱しがみついてもずるずるおちる
われもまた意気消沈する愚鈍なり何をどうすることもできない
今朝は怒風激しく何やらと不安になりて寝てもいられず
うっすらとコップのお茶に水滴をまとわせてゆく春荒疾風
こんなのはほんの些細な一部分インしてアウトする全体の
近づいてくる去ってゆくもの遠ざかる流れ込むものインアウト
何もかもなるようにしかならぬのに何でこんなにじたばたとする
おかしいからかなしいのかかなしいからおかしいのか寄席紳士録
それなりに立つ瀬がそこにあるのなら浮世離れも楽しからずや
歩みよる灰褐色の死の舞踏だんだん遅く消えいるように
さざなみのあやなす色の渾身のタッチでえがくひらいた響き
この歳でまだあの頃と同じよな胃が重くなることで悩んで
ねっとりとしめった肉が腐らずにあり続けるを生きると申す
昨日はちょっと過多に聴こえたエイナウディ雨の午後には心地よい
さめざめと春の雨ふる仏生会はなのかおりのうぶゆにつかる
よく晴れて薄着になりし卯月かな冬の布団にくるまりながら
よく晴れた平年並みだという昼も卯月九日まだ肌寒し
猛烈なはやさで回り回るだけその暁の明星がちゃや
きぬかつぎうでたたまごをむくまでもなく春はうれいをふかくする
古い大きな木の根の中に横たわりそこに命がインアウト
目をつむり眠りつづけていればいい痛みはいつかすべてきえさる
少しだけ日陰がほしいとひとりごつ苛むようにつづくパレード
人には上も下もなく誰もみんな同じようにやさしくほほえむ
歩いてもいけそうだけどどこよりも遠く感じるとこもあるのだ
雉鳩が呑気に鳴いている春を見捨ててかえる鴻雁のむれ
とことことこっちに歩いてくる鳩が大人の目には見えてないのか
落ちかけの椿の花に見守られ奥にひっそり庚申の塔
二三軒先に大きな鯉のぼりちょうど窓から見えない角度
本当は口をきかないものだけど語りかけんの待ってたよって
かんじんの愛ってえのが見あたらぬ皮肉なものよないてわらって
橋が落ちてもまたそこに橋をかけようどんなに時間がかかろうと
陳列の台に置かれたひょろひょろの三葉躑躅の花を見あげる
けけけけとはやいピッチで鳴くかえる予報じゃ雨は明日らしいよ
風よけて布団にくるまり昼寝する眠気はあれど春眠未遂
はずれてる利いた風なこというなって弱っちゃうねはなしてんだよ
直進し右に左に折れ曲がるすべての点が同時にうごく
無限へと開かれている四つ辻にすべての動きが凝集される
ときたまに嬉しいことがあったなら少しぐらいはにっこりします
水も空気も澄んでいて空はとっても青いけどみんな夢かも
野暮だからするのはいつも野暮なこと決まりがよくては決まりがわるい
閉まったままのシャッターの前にならんだカプセルトイが雨ざらし
目を閉じてまるで苦行をするようにそれとも気持ち込めているのか
黄砂ふる火山灰ふる千早ふるいろいろあって水くぐるとわ
どの風が黄砂まじりの風なのかそうじゃないのか見わけがつかぬ
人間の猿真似をする人間の人真似をするあじきないやつ
さざなみが次から次へたつようにふるえ揺らめく音のかたまり
形而下の音と混ざったアンビエントの鳥の声に耳が惑う
意味もなく石を積んだりするような誰のためでもないことをする
ふかふかと代かきされた田がならぶそろそろ水の音のするころ
燦燦と春の陽射しが降るなかで牡丹の花もくたくたになる
空き部屋なのかベランダを我がもの顔で鳩のアベック占拠する
ひといきに歌いあげたる燕かなつきあたってもまたたちあがる
果てしなき差異と反復ぬけだして無人島へとひとっとび
縄文のねとねととした耳垢に黄砂つくのかむずむずかゆい
もういない人のあれこれ放語する浅田彰に安堵する春
ゆらゆらと消えかけては持ちなおしてまた消えかけてまた持ちなおす
しょうがねえしょうがねえとは言いながらどこもかしこも見知らぬ顔に
窓辺にて外を眺めているようで別のなにかを見ているような
この耳ですべての音を聞きとってあの足音を聞かんと欲す
柿の種ぼりぼり食べてこのへんで聞こえた波を思いうかべる
かさぶたをむかれつぶてをなげられてひとり相撲でなげなげられて
重なり合って棲み分けて一部分だけ融和して癒されるもの
特別な一回きりのパターンとデザインされた無限反復
雨が降り土の匂いと新緑の匂いにむせぶ土曜日の朝
なぜなのかセミセルフレジでも頻繁にエラーになるの辛いわい
徒っぽく赤みをのせた橙のぱっと咲く薔薇これ遊び人
もう少しきりのいいとこまでなんていってるうちにきりがなくなる
窓里から葉書がきてた亡き母に円窓さんも去年だったな
シャレなのにオシャレになってスカではないがスカしてた少しとおくで
最初から過去形で語られていたかなうことなき夢を追う人
待っている裸になった空のした世界の裏の最初のひかり
日付曜日の感覚がひとつずれてて戻らないぼやける四月
薄暗い寝床のうえを手探りしなくしたものをまた取りもどす
大粒の雨のおと雷のおと目で追いかけるその夢の影
灰色の色なき闇をゆっくりと手すりにそって窓辺へむかう
法華豆腐の願ほどき甲府胡麻入り鰍沢では御材木
不器用でおつなまくらをふれぬ無芸を芸とするおつな文菊
本堂の大きな屋根の下に入って雨宿りする浅草寺
降りしきり溢れかえっているなかでその奥にある言葉をさがす
狭い路地すこしくだれば明かりのしたに風呂をあがった子らの声
葉を揺らす冷たい風が滑り込む寒と暖との狭間の卯月
節つけずまっつぐいってにじみでる淡くて渋い枯れたあじわい
見境をなくした伊勢屋のポトラッチこれ幸いし店はさかえる
品川の沖に漕ぎ出し内々に屋敷の庭に豆をまく下知
自作した調子はずれな三十一文字の時限爆弾なげつける
景気よくぼんぼんまいてちらしたがどれもどこかに消えてしまった
延々とききとり可能なぎりぎりのところでなっているマーマー
思い出が見つかりましたとお知らせをしてくれているあなたどなた
春だ春だと気持ちが緩み油断して体ひやして風邪っぽい
これはみな鏡にうつる影なのか明瞭でなく夢見てるよう
あの夜にたしかに彼は虎を見た釣り銭のなかまぎれ込む影
薄暗い地下にもぐったどん底のぎしぎしきしむレザーのかおり
池のほとりの清水の舞台にあがり眺めれば円月のまつ
最初からはなしにならぬ負け戦ゆえになにをしようと悪あがき
がむしゃらにくいさがっても無駄なのか耳にのこりしお退き候え
風化して記憶はすべて崩れ去り語らるるまま言葉でのこる
憶えてるけど曖昧でこのままさらにおぼろげになってゆくだけ
ふと見れば白く小さな花が咲く春のながめの朧月かな
水道の水が冷たく心地よいまだ春なのに手が涼をえる
もう少し深いとこからくみあげるものでなければやる意味がない
こんもりと茂る枝と葉の下に小さくなって隠れる庭石
風邪気味なのか頭だけならいざ知らず全体的にぼんやりと
愚かさに欲望された邪悪なゲームそのなかで何を夢見る
松の芯群れていでたり近いうちインドの人口世界最多
過ぎ去りし日々の記憶はどれもみなおんなじようなものになりけり
乃木坂の奥地の地下の奥底の奈落に降ったイファイクチェンジ
春深しまたででぽぽと鳩が鳴き掘り返された土くれひかる
穀雨だと知ってか知らずか蛙なく押しせまりゆく春の夕暮れ
本尊は杵だときいてたずねたらそれは臼だと笑われました
迫りくる夜の闇より眩しいひかり一心に踊りつづける
ひび割れた黒い焦土におおわれた地球のきわでグールドを聴く
それとこれひとつのことの裏表ゆえにやすやすひっくり返る
なにもかもわたしひとりでできるほどたやすくないとわかるたやすく
サボテンの花咲きそうな気配あり棘のすき間の小さな徴
昨日にも今ごろきては歌ってたのどかな雲雀のさえずりをきく
穀雨なら降っておくれと蛙なき雲雀はくもることをわすれる
この暑さ夏かしら認証バッジついてないからなりすましかも
認証バッジありませんわたしはにせのわたしのふりをしています
京の錦の青物屋ゆがあるならと店先でおびをときまつ
目になみだ浮かべしものも押しつつみぱっぱぱっぱと春は過ぎゆく
遠くからまた近くからお願いをしている声が聞こえる土曜
脱いだり着たりまた脱いでまた着たり寒暖の差に振り回される
今はまたその手の傷は癒えたのか土のなかの手その身をうめる
周縁に追放された魂よ歌え俺たちはみな売女だ
持っているものから盗み貧しきものに分け与えよロブアバンク
大量の殺戮行為破壊犯罪まだそれを許容するのか
舌を抜かれた隷従者の盲信が涙と嘆きに変わるまで
ゆっくりと降りゆっくりと積もってく細かな砂が町をのみ込む
雀らもさわがしく鳴く日曜日まず投票でつぎ外食か
こうやってシステマチックに死んでゆく自分を生きる実感もなく
厳かにオルガンの音がなりひびくよどんだ春の日曜の夜
ゆるやかな時間のながれノートルダムは焼け落ちてまたよみがえる
鉄線と書くといかにもいかめしい刺々しさのあるクレマチス
亡き人のマイ走馬灯にわたしは登場させてもらっていたか
なんてことないかのように話したが立ち尽くしつつしみじみと見る
暑いのも寒いのもみな時期はずれとか極端でやってられない
暁の明星がくるくるまわる麗しきかなたえなる調べ
大きな釜の天水桶になみなみと水のたまりし草月流
大きな釜の天水桶を覗き込み剥がれた時間の底を見る
文楽がいい羽織だねそれウールかい志ん生がいいや売らない
白すなが敷き詰められてとまった流れ静寂が庭にさざめく
動けば動くほど無駄な要素が入り込む絞り込み繰り返す
少しずつ要素が増えるミニマルな反復だけが信ずるにたる
今日もまた未遂におわり過ぎてゆく先のばされるとけきえるまで
信長は神君の耳なでて嚙み曽呂利は猿の耳をくんくん
鰻屋にいった晩から川の字にはなれこそすれくっつきもする
亀戸の天神様の心字池とうかをめでるつがいの燕
すこしだけ子どもの声が大人びてきた一之輔の初天神
霜はやみ苗もそろそろいずるころ烏もいさんで畑にむかう
間違ってあなたの声を聞いたのか教えてほしいハウドゥアイフィール
どんな感じかおしえてほしいまだここで立ち尽くしお待ちしてます
去年から入れっぱなしの四神剣そろそろ出しておこうと合議
そぼそぼと冷たい雨がふる卯月いさんだ足がまた冴えかえる
雲間から薄日さすよな穀雨かなフリースを着て腕組みをする
一日は短いけれどそのなかに人生すらも凝集させる
世は情け切り苛まれし与三郎いのちあるのも人の為ゆえ
海棠の雨にぬれたる妙本寺けぶる風情は反魂香か
引き出して引き摺り出してぐいぐいとほじくり出してまとめ上げてく
寒気すら甘いものだと歌うひと背筋ふるわす神聖な雨
世も末とはやりにのりて初がつお徒然なるままに箸つける
何ひとつなせずに今日もうなだれて布団のなかに身を沈めゆく
春らしきことをなんにもしないまま牡丹はくずれわたしもいずれ
雨上がり若き緑がきらきらと風にそよいで春も大詰め
よく晴れて人は静かに這いまわる賑やかなのは鳥の声だけ
残りしは一羽の鳥の濁りだけウィンクして飛び出すソクラテス
空っぽになるまでみんな捨て去って走りながら考えればいい
なぜこれは今ここで起きているのかこれまでなしたことの報いか
時が経ち川の流れも移ろいて届く便りも届かなくなり
店先に天竺牡丹が咲いている穀雨も晴れて夏もう近し
そこここに戻ってくればくるほどに遠いふつうがまた遠くなる
建物の外観だけを見にいった西のはずれの元パラダイス
向島すみだの川の葭原で清十郎とまみえるお夏
戦争が起こらぬ方に賭けたので大統領になって阻止する
本堂の横でゆらゆらおよぐ鯉ライヴカメラでしばし眺める
一度きりすべてのことは一度きり無限の差異をもつ一度きり
屋根より高い鯉のぼり矢車のおと寿限無長屋の初節句
ゆらゆらとそよぐ柳の面影がぼんやりとだがまだ目にのこる
気に入らぬ風もあろうよ柳にもこっちに吹くなと祈ってるはず
いるんだかいないんだかはわからぬがいるつもりにて過ごす気苦労
暇そうにぽつりぽつりと目白なく風に誘われ舞う紋黄蝶
自分でも悲しい気分になるものを書いてがっくり溜息がでる
宝登山で猿を見たことあるけれど千葉で鼠を見たことはない
水は涸れ子供の姿も見あたらぬ砂に埋もれて横たわる街
本物と見分けがつかぬ偽物が本物よりも本物らしい
待ってると時はなかなか進まぬがぼんやりしてると逃げ去ってゆく
もうちょっと追いつけないなここからじゃ目が回るほど周回遅れ
読む人のいない手紙を書くだけか今日も明日もそのまた次も
曇天のふるやふらぬか荷風忌に躑躅の花も身をもちくずす
あかあかと咲くばら花にけおされて荷物まとめて退散をする
咲き咲きてフェンスをつたい夏をよぶそうびの花のあざやかな赤
いつか何かと思うよな何もできないものほどにいつかいつかと
ぼこぼことひどい音たて炊いている地面がゆれた朝の五時過ぎ
赤貝のにぎり寿司やらきんとんのくわい飲み込む五月が来たり
駄欠伸を撲滅せよと五月祭とりもどすべし暇と退屈
巣をつくる場所をさがしてスーパーの店先を飛ぶつがいのつばめ
風がでて降りそうになりまた晴れる春ゆくこともまた迅きかな
さらさらところがり流れ落ちてゆくまばゆきひかりステラルジアダ
ケニヤッタカギアカルンバクバインゲイオネコカペングリアシックス
朔日になったとたんに昨日までとはちがう人だというものの
羽根やすめ身繕いする松のえだ五月のはとが風に吹かれる
秋色の父がお庭を徘徊す信友とやらの灰買い屋敷
七曲りぬけて瘡守てをあわせ左に折れて御武家の屋敷
風強し遊泳禁止こいのぼり雲ひとつない五月晴れでも
戸の隙間ふきこむ風にはたはたとタオルがゆれる八十八夜
平等がない公平がない公正がない偽の自由しかない
優しく降った雨のおと土の匂いや日のひかりマダオボエテル
初鰹まるで三分を買う新三おろした刺身と片身の十両
鳴き方がちがう流派の雉鳩が朝早くから唸りつづける
投げたとて届きはしない水辺まで波紋もなにもたつことはない
草叢にかわず飛び込みもぐり込み烏がかあでようやくかえる
銃口を真っ直ぐ胸に向けられるプリンシペピオの丘の上で
はっけよいワンスイワンスイチンプルポー春のかかとが土俵際
望まれた静寂が今ここにある人間が去り時間が止まる
悩みをすべて夢で包んでボトルに入れて海に流してしまえ
あてどなく彷徨いあるくツィガーヌ街角を吹き抜けてゆく風
鉄橋を電車が渡る音だけがたまにかすかに聞こえる夜に
何となく終わりのときを待ちながら観世音にも手をあわす日々
目をつむり五月の風をすべからくわたしの中でそよがせてみる
春の夜に無人飛行機モスクワを飛ぶテレビに映るあやしげに
水道橋の駿河台かおる五月の風はらみ舞う鯉のぼり
ゆく春や冬ものたたむ日和かな心のしわも乾いたころに
青い新たな地平線いばらの棘の冠を逆さにかぶる
色褪せた狂気の沙汰も金次第ついた付箋に身に覚えなし
老いた葉が下のほうから枯れてゆくのびゆく幹に模様のこして
若い葉が上へ上へと伸びるほど役目を終える下の老いた葉
あたたかなかわいた風と陽光にさらされて田の土しら茶ける
ほろびゆくものこそあわれ印地打ち追い風にのりふわりと空へ
春眠をむさぼりました子どもの日ひとりみゆえに悔いなかりけり
甘食を食べてもぞもぞ子どもの日ぼそぼそ食べる端午の節句
南からあやしき風が吹いてくる朧月夜に地震速報
とろとろとまどろむようにささやかな音の響きの波のまにまに
ひょっと出た枝の小さなホヤの葉も今やすっかり一人前に
日の道がぐるり回って夕どきに西陽射しこむ季節となりぬ
浅草の灯をひとつ消す赤貝の握りに咽ぶ万太郎かな
踏みかえし流寓をする万太郎ああ浅草は血の海のなか
降ってきそうな雲行きで薄日もさしてどれがほんとの傘雨忌か
春すぎて夏きにけらし南風やすみなく吹く万太郎忌に
燃えるおと考えるおと変わるおと揺れて落ちてく回転木馬
赤茶けた土の大地を踏みしめたよりそう星のうるむ夏の夜
気づいたらずっととにかく低空でこれっぽっちも浮かび上がらぬ
こちらから眺めてばかりいるだけで誰もこちらを覗きこまない
しもたやの格子の枠にさみだれがぽつりぽつりと色をつけてく
もうひとつ持ち手がとれてテーブルに縦縞ふたつ並べて置いた
五月雨は人の涙というけれど緑色なら浅い夢だから
雨やどり花を出された道灌がエディブルですかお茶もください
変わらずにいられるものはなにもない光と影が互い違いに
闇雲に押すものと押し戻そうとするものの狭間で揺れている
さようならさようならだと言いたいとこをぐっとこらえて茶を啜る
湯を浴びる習性をもつ猿がいてうだった顔を団扇であおぐ
春の終わりは夏めいて五月は雨で肌寒い布団をかぶる
雨上がりやっと晴れたり曇ったり夏に入ってフリース着たり
冷ややかな水の底へと沈んでる落ち葉のように身動がぬまま
雨に濡れ風に吹かれて飛び散るか菖蒲葺くよな家でもあれば
いつの日か理解されると疑わず高い山から叫びつづけた
心が冷えて何も感じることはないここにお墓が建つだろう
風が吹きそうびの垣を越えてゆく日かげ日なたに舞う揚羽蝶
上げ潮がひたひた運ぶプラごみが尺八吹きの足もとにつく
だらだらと布団の中で考える縦のものみな横に見ながら
そとの樹が日陰でひといきつくころに窓辺の鉢に西日があたる
魂の銭湯ならば心までまる裸にしさらけ出せるか
志ん橋がふるしきふるしきといって味わい深い風呂敷を演る
目を閉じて時がくるのを待っている朝日はのぼる息はたえだえ
起きているのに寝ぼけたようなことをいい死んだふりして生きている
心配をする必要はないのかも空は青くて日のいろも濃い
できるだけ動かずにいて目を閉じてゆっくり静かに息をしている
何となく気持ちよさげに晴れてるが目はまぶしくて息はくるしい
かわずなきみみずでてくる時節だが鼻が詰まって息が苦しい
ぼんやりとしている頭をつぎつぎと愚にもつかない言葉がめぐる
日ざかりに袱紗の包みと日傘もち渡しの舟まつ銀杏返し
なにごとも鼻歌まじりのんびりとはてさてふふんとやってゆきたい
人生よ勝手に逃げろ愛してろ勝手に逃げろ人生してろ
すっときて思わぬときに通るけどおっと思ったころにはもどる
これまでにしてきたことの失敗が露見しそうで急に慌てる
野放しのけだものたちが本能のおもむくままに生きて堕ちゆく
乾ききり殺伐とした運命の風だけが吹くしずみゆくまち
青々とかがやいていた五月の空がまた灰色ににごる午后
夕どきにからすの声がちらほらと五月の雨と雷ののち
不当な差別があってはならないしいかなる差別も許されない
貝殻で海を底まで干そうとしてもセイムアズイットエヴァーワズ
煮え立つような熱い血が硬く凍った弦の音からもほとばしる
浅草の開進館の前あたりあやめ団子を食む万太郎
探してもたどりつけない場所がある近づくほどに遠くなりゆく
入り組んだ迷路のような細い道あらゆるものをゆがませてゆく
ジグザグに丘を登って森を抜け狭い階段ネマツァデの家
人生は鉄のドアより短くて閉まりが悪く風も吹きこむ
迷い込み断片的な情報をたどっていってより迷い込む
親切だけど頼りないおじいさんがくれた花をノートにはさむ
高いところでつぴつぴとどこからかちいと小声で反応がある
コバックは変わったけれどその次のおおぎやラーメンは不変なり
予報では降るというので植えるなら蓑と笠だが山吹の花
圓生によく似た七味売りのいる神田祭も雨に打たれて
ぽつぽつと雨の降る田の泥水の中をのたのたすべる合鴨
土色に濁った田んぼの水に浮く薄くれないのばらの花びら
何の気なしな救いでもないよりはましほしいのは明日の食費だ
あのころとずっと変わらず今もまだ外側にいる孤独なままで
線はある太くはっきりだがそれの動きまでをも読み取れようか
冷たくなってしびれてる血のかよわない先端に神の御慈悲を
百万のやるせなさやらかなしみがそこに静かに立ち尽くしてる
目くらます仮面をつけてかくしてもまだそこにある失せはせぬもの
ねえちょっと聞いてほしいな少しだけほかに話せる人いないから
ほら逃げろ一目散に随徳寺なめらさんぼう南無三し損じ
ずっと待ち望んでた破壊のための身代金コンプリケイション
ここに助けにきてくれますか今歌っているのはブルースですか
例年と違うってっても一四と一五日なら正調な気も
今なのか今じゃないのかいつなのかこれがそれだというというのか
五月雨や上野の山を降りたのち羽二重団子で江戸と別れる
空はもうあかるくなってきているが雨音きれず卯の花くたし
駒形のどじょう汁のうら二代目の梅坊主が住んでたところ
権利をまもりぬくために手袋をはめ息たえるまで立ちむかう
ぼろ切れに隠れることを笑われるあちらのがわにいる人々に
今はまだ手袋のなかに隠されたこの手のなかにそれはもうある
最後まで戦うわれらの後ろから今日もまた陽がのぼりかがやく
ベッドから初めて見あげた天井をわたしは覚えていないのだ
空白のジェネレーションは孤独しか感じない運命も信じない
逆さまに景色をうつす水面から橋を見あげるあくび実習
夏に入り水の匂いにそまる空すみだの風と祭ばやしと
復活し買えないものの紹介もするおそるべし有坂幸代
風鳥のくらいこぼしがどこに吹く若葉をゆらし武蔵野のそら
薄皮のチョコパンあけてひとつだけのつもりがぽんぽん全部食う
柳朝を弔いあげてひっそりと高座をおりるいなせ家半七
本当にどうでもいいと思われてふっと吹かれて吹っ飛んでって
すべてすてむなてとなったものだけに菩薩は道を開くというか
首だけのごろごろしてるやつがいる見れば見るほどにせものだった
はっきりと記憶のなかによみがえるフードに隠した小さなナイフ
泉水に泳いでいたのはありゃ金魚いまや似ても似つかぬ櫻川
かなしみにひたりつくしてそのうえに日々あたらしいかなしみをつぐ
スキャンして遠くの顔にズームする見えてくるのは偽の真相
なにもかも嘘だらけだと度をこしてひどいものほど本当らしい
五月晴れこのままゆくと猛暑日に少し動くと汗が噴き出す
五月晴れまだ夏もなりたてで加減てものをしらずに猛暑
死ぬほどのことはなんにもしてないが勝手に死だけが近づいてくる
やさしさがいたるところにあふれてるみんなほがらかやさしい世界
粉々に打ち砕きます容赦なく今日こそ天も味方をしよう
今日もまたずさりずさりと引き裂かれ明日ももっと引き裂かれてく
ひっそりと何も言わずに立ち去った今日もわたしは黙ってあるく
ぼんやりと腕組みしてる顎あげて吐き気がするほどあつい五月
Tシャツで両手をあげて仰向けで吹き込む風と二度寝する朝
ちょっとずつ中のなにかが限界で全体として人をなさない
誰にでも善玉になる日もあって悪玉になる日もうややれや
猛暑日の次はがくっと五月雨て生きてくだけでもうひと苦労
なあみんなゼレンスキーも来るってよど派手なパーティになりそうだ
干涸らびた地面のはるか上空でぶくふく泡が膨らんでゆく
問わずともあなたがあなたであることで手にしたものは頭の亀裂
単純に受け取るだけで与えないその生き方を宣言します
いちめんに蓮華の花が咲いていて風が吹き抜けこころ乱れる
もうなにもきこえてこないこの窓をしめった風が通り過ぎてく
松風やあせふくくびにふうじんがふうっと息を吹きかけるよに
松風をうつつに聞いているようでうつらうつらとまぶたはおもい
どんよりと曇ってる日の夕どきは西日がささず活字がおえぬ
家の中その辺境であたらしいバルバロイらのうたは生まれる
フィールドをジム・ブラウンが駆け抜ける背筋を伸ばし広い歩幅で
仲見世のおいさおいさの掛け声が聞こえてきそうなうねる人波
あてことのはずれてばかりいる五月うっすら曇る麦の秋かな
白壁につばくろぞめきいぬたちもよろこびはしる麦の秋かな
死してまた生まれ変わって巡り会うわざおぎの血に引き寄せられて
笑うことさえできないかきっとお前が死んだんだ嫌になったよ
聞こえない音をひとりで聞き取って誰にもわからぬ言葉でうたう
びっしりと田植えをおえた田の畔にどっしり座る二羽の合鴨
真っ白な見渡すかぎりの砂のうみ殉教者の血にぬれた砂
すべてからすべてが遠く離れてるたまにトヨタが近くを通る
ものおもうことにつみでもあるようなたまむしいろにぬめつく世界
いまごろになってようやくこんなことしているなんて馬鹿みたいだね
今日のこと昨日とさほどかわりなくみな今日中に忘れてしまう
ねばりつく会話がぐすぐす崩れてく同じ単語の羅列の揺らぎ
窓越しの雨音くらし五月闇おぼつかなきもせんなきことと
思い出のなかの小さな部屋のなか百年前を知っていたひと
くるくると繰り返されるフレーズが段々ずれる会話のような
サボテンの花が咲いたよ見る人がひとりしかないさびしい世界
雨の日は季節が戻り肌寒くなかなか風邪が治らぬ五月
五月雨を集めてはやし用水路コンクリートのまっすぐな溝
五月雨や窓辺もずっと薄暗く寝入ったままのサボテンの花
窓の外ぎこぎこ貝殻こすり合わせるような声でかえる鳴く
無意識にやってたことをし損じる口の中を噛んでばかりいる
にんげんが真っ逆さまに落ちてゆく輝きは失せ砂塵に沈む
この手からすべてを奪いばらばらに引きちぎるのかそうはさせんぞ
ずっと静かに聞こえてる雨音のうえにかぶさる弦楽のなみ
よみがえる万人がみた記憶のかけら一瞬にみるオネイロス
夢のなか寝ぼけたことを言っていて誰か知るアイムミゼラブルナウ
躓いてばかりいてちっとも前に進まずにいるヘイセイレイワ
生きてれば色んなことがあることを見せるがためにいるわけじゃない
端っこの戸のかげになる棚のうえひとつの世界が乾涸らびてゆく
ものの名をわすれてばかり蝉丸忌これやこれとかあれやあれとか
フリーダム・ハイウェイを突っ走るタラハッチー川と湖をこえ
ちょっとでもこの世の中をおもしろくゆたかにすべく無駄にのさばる
気をつけて見えない敵はそこにいる自分で自分を噛まないように
もうここでたえるさだめをさとったかやっとこころが片目をあける
まどしくて普通の人が普通にしてることとかが眩しくみえる
とうとうと今も昔も変わりなく川はながれて車輪はまわる
川は流れるぐるぐると高い山からより深い深い底まで
焼け残るピエタの像と薔薇窓とプラウドマリー川は流れる
思い出が色をうしない薄れゆき時間とともに消え去ってゆく
バスにのる見知らぬ誰かなにひとつ変哲のない人ににた神
ゆくすえはちぎられようと紅の末摘花のつぼみはさかう
火に近づいておやまかちゃんりんかわいた魂おやまかちゃんりん
服を着たへんてこりんな生き物が顔をごしごし手でこすってる
地下鉄の窓に映った見知らぬ影に一瞬のぞく神の貌
匂わせの記事を眺めているときに緊急地震速報が鳴る
髪の毛はべっとり濡れて見るからに汗臭そうなシャツを着たボノ
待ち続け残されたのはわたしだけ冷たくなって明かりも消える
打ち砕かれた欠片を拾うゴールドダストウーマンの蒼い影
高いとこのぼっていってぎったんがばっこんとなりまた低いとこ
しなやかにふわっとたわむ曲線の上なめらかに吹く初夏の風
六〇の手前で行ったり来たりする夢に出てきたデジタル時計
一から二三から四へ分散してく音の狭間の音を聞く
どれほどのおもいをうすく引き延ばしこの一七字へとこめたのか
あっけらかんとした裏のことばにならぬおもいをおもう西日中
空襲で家は焼けみな灰になる朝がきてまた生きるがつづく
どこにいてどこにいくのか誰が知るどこにも辿り着かぬ道をゆく
絞り出すようにしっかり伸びをしてゆっくり毒を吐き出してゆく
目に見えぬくらいに薄く透明な仕切りで生きる世界をわける
雲間から陽が差し込んで業平忌かえらるるかな声さわやかに
牛女流最強の対局の裏の蝠丸の鬼娘をみる
ハンマーを振り下ろせ悲劇的にハンマーを振り下ろせもう一度
響きあう歌よりもっとハンマーを打ちおろすよな大轟音を
降りそうで降らすにたえる虎が雨たまやかぎやの両国のはな
降りそうで降らすにたえる虎が雨されどきせるは助六に降る
混ぜ合わせ日々あれこれを混ぜ込んで今現在も変身している
五月雨の降り残さずや寝釈迦堂ゆくものこるもおなじほそ道
人間よ小さく生きよ慎ましく大きな夢をみて籤を買え
なんとなく気温の割りに蒸し暑くすぐに疲弊し眠くなる午後
力なく排水口へ流れてく離脱してったかつての仲間
立石と梵天鼻の松越しに富士を眺める目に焼きつける
どこへ行っても安らがず流れ流れて風もなんだか冷たくて
浅草よ静かに眠れ今はもう文公幾馬鹿のいない町
意識せずやってたことを継続しやってくための注文がつく
じたばたとおかしな色のへんてこな翼ひろげてのたうちまわる
藤田の弾いたラフマニノフが極彩色の樹花鳥獣図のよう
するするとただ時だけが過ぎてゆく砂時計の砂も色褪せて
よしきたと咲いた途端に雨続き植物だって調子が狂う
ひとつずつちいさな石を積み重ねちいさな石のお山ができた
しろじろと靄のかかったうちがわになにか見ようと目を凝らすけど
神の手も悪魔の目さえ届かないすきまに堕ちるアリアナシオン
絶え間なくささやきかける水のおと手足をひたし穢れをはらう
殊更に道徳だとかノモスとか言いたかないが言いたくもなる
蚊に刺され左脚を右脚で掻く何もできずに五月も終わる
サイコマニアックはインターブレンド愛のミサイル撃てよシューリラ
ゴッホの背さもなき雨にぬれにけり手もちぶさたな麦の秋かな
月の輪の谷へとおちるつごもり日なむあみだぶつ明神峠
真夜中に風に吹かれてひとりさすらう発泡スチロールの箱
弁明をする必要はありませんきみの望みを叶えればよい
内側に血の滲み出す傷のある仮面をほぐし浅漬けを食う
嫌いなものはお金です玄関先に山ほど置いていかないで
ぐるぐるとウィンドマシンまわしだす前の静けさ台風二号
六月に綺麗な風が吹くようにお祈りしますただ祈ります
霞たなびく隅田川この世はいつもあほうばかりと鳥が啼く
お母さん元気ですかとスーパーで久方ぶりに話した人に
さめない夢を見つづける人々をほったらかして世界はまわる
新しい神様になどなれやせぬホットロッドでクルーズしても
何もない空白の部屋さまよって壁を見ながらひとりでうたう
どうすればわらってくれるのでしょうかわたしはずっとかんがえている
たくさんの不安な気持ちが交差するあるようでない憩える場所で
扉から外に飛び出す瞬間に色を失う雨の夜の夢
雨音が聞こえるだけのひっそりと静まりかえる薄暗い部屋
ぼそぼそと底のほうから物音がしているうえに降り続く雨
目を閉じて心も閉ざし大好きな場所にごろっと横になります
風のおと雨粒のおと激しさをましてくなかでなるチョンジェイル
雨あがりひんやりしめる薄曇り午後には晴れて夏日の予報
しっとりとつめたくしめる六月の途切れ途切れのよわい物音
たっぷりと水をふくんでぴったりと蓋をしたってじわじわもれる
浜川の砲台にでて夏の夜に蛍をながめこりゃきついぜよ
ヨーグルト食べて洗ってしまわれて牛乳いれたコーヒーまぜる
ぎゅいぎゅいと緑の虫をくちばしに咥えたままで飛んでくオナガ
ペダル踏み音を響かせやわらげるペタルは開き華やかに咲く
水無月やオチャTシャツの水あさぎピンクのドーナツかじるビヨちゃん
ざわざわとしているちょっと奥のほうそこをつついて尻尾をつかむ
濃い青がすうっと白く霞んでく午前六時の六月の空
さっと斜めに降りてきたオナガの声と隣家の犬の吠える声
物真似で文治がいじったその後の春雨宿の桃太郎節
魂を売り渡す必要はないそれはもうすでにこのなかにいる
あの年の六月はストーン・ローゼスのアルバムもよく聴いていた
ネナ・チェリーのアルバムが出る前の日が八九年六月四日
ピープルホールドオンで踊る世界と天安門の血の日曜日
N響の風神と雷神もといウィンドマシンとサンダーマシン
ぼんやりとしているとこにいつもこれしてくださいが割り込んでくる
エアコンのダストボックス掃除するつもるうき世の灰色の塵
スーパーでばったり会った人にまた会ってえらいえらいとほめられる
燕の巣から声がして見上げる人とちっとも見たりしない人
あじさいの花見にころぶ飛鳥山おちゃけに酔いてあめふりたまえ
あっけなく何の山場もないままに道はもうすぐ終着地点
目を覚まし隅々にまで血が巡る新たに生きる別のラウンド
お前より自分のほうが孤独だと自分にたいし自分でおもう
目を閉じてみれば不安なことばかり寝つけずうなる先のない人
目を閉じてこのまま二度と目ざめぬかもと不安をおぼえながら寝る
まだなにか少しずつでも切り込んで生きるにしがみつこうとしてる
日がながくながくなりゆく芒種かな明け易き夜のふかき宵闇
目の前にあるかのように見えるだけほんとは遥か遠くを見てる
たくさんのチャンスがあってないならつくるいないならなるオポチュニティ
もし友だちならば集まって今すぐ会おうバンゴゴバンゴバンゴ
もうだめだそう呟いてひとつずつ鎧をぬいで素のひとになる
まだひとり寝ぼけたままで夢みてるあわれな人のあわれな末路
穏亡にただで焼かせて墓もただあとは疫除け夏越の祓
色のなき枯れたとこから葉をだしてまた莟をつける松葉菊
味の店いせやのだんご御赤飯そとで待つひと食べ歩くひと
屋根のある銀座通りと提灯とミニSLの銀河鉄道
淡々と終わりを次の始まりに繋げてまわすタマオシコガネ
夢の国から夢を広めにきたようなふりして夢に引き入れる
風に揺れ煽られながら松葉菊ひとりじめしているしじみちょう
梅雨に入りあかるい雲もにごりだすさえずる鳥のせわしなきこと
ぽっかりと浮かびあがってふわふわり見ようとしても見えない余情
非力ゆえすべてをかけてやってるが思うようにはならぬものよの
あざやかに躍動をする漣の光と影の終わりなき旅
うねる序に大河がけぶる村雨の破から静かに天翔ける急
やんわりとグラスのミニマリズムを掴んで転がすディナーステイン
真っ暗な空から雨が落ちるおと木の葉をぬらすぽたぽた垂れる
朝方に滝の如くに降った雨やんでも暗き梅雨寒の空
右の手でスマホに打ち込む文字に一切関わりもたぬ左の手
わたしにもあなたにとっても世界にも何の足しにもならないものを
グラスのピアノコンチェルト三番の四季の自然が織りなすドラマ
馬と呼ばれた男もいれば馬なのにらくだと呼ばれたやつもいた
縁に顎のせて並んでこぢんまり仏頂面で寝る燕の子
なにもかもスローモーションで動くならもつれた糸もほぐせるだろう
流れだす小さな穴や裂け目から夜のかなたの脳のしわへと
風のふく断崖のうえさえぎるものはなにもなくじっと佇む
どこをどう掛け違えたらこんなことなど思い悩まず済んだのか
ちょっと前ほど遠くなり遠い昔が昨日のことのようになる
ちちと言いちちちと返す白鶺鴒の会話のような独り言
それらしくこじつけられた出鱈目でにせの正義を根こそぎにする
運命の呼ぶ声がして立ち止まり芝生のうえに身を投げ出した
音楽となり動力となり財となり思い出し駆けてくる馬
溶けて消えゆく約束の道マイハートランハートランハートラン
雨の日も構わずひらく松葉菊そういうものにわたしはなりたい
二度寝して三度目の寝には苦戦する雨音してる日曜の朝
呼びかけて何かこたえるものはなし聞こえないのか聞こえぬふりか
鳥たちが羽根をやすめる踊り場の手摺りのりこえ鳥になるもの
意気のよいさいさい節とててつくの祭り囃子でぞめく笑遊
階段下の占い師と似顔絵師どちらが怪物なのかしら
誰ひとり足の真下にあるものを見てはいないし知ってもいない
万物はただただ流れ変転し常に未知なるわたしと出会う
起き出せどぼんやり暗き梅雨の空ぼんやりとした月曜の朝
心にもないようなこと口にしているからよけい挙動が不審
少しずつ端のほうから剥がれてきようやく見える本当の意味
雲上の遊び心にくらぶればこちらはまるで泥濘遊び
笛を吹くパーヴォヤルヴィの照れ笑いおいしいとこを独り占めして
富む者に門はひらかぬマイナカードが一枚あればそれでよい
新しいポリス国家がやってくる退化してゆくデジタル奴隷
人知れぬ語調ではなし理解をこえた問題もいずれはとける
それちょっとどうやってんの教えてよなんかコツとかあんでしょきっと
それちょっとどうなってんの教えてよなんかカラクリあんでしょきっと
まだ少し湿ったとこを桜桃忌ちょこまか歩いてく団子虫
じんじんと蛙のように茹でられて見ればあちこち湯気のたつ人
少子化対策の加速化プランでわたしも何か加速するのか
子育てはしていないけどどさくさに紛れて加速してみようかな
子育てをしている人が加速するのを邪魔しないようにしますね
少子化対策の加速化プランで加速するひと応援します
ナニがナニするその前にわたしがちゃんとリンゴを理解していない
しょぼくれた毎日だから人生というほど人を生きてはいない
下着を二枚持つものや食べ物余分に持つものが見あたらない
てをぱあにひらいてごらんおこらないからなんにもなくていいんだよ
根腐れてしなだれくたりうなだれるその繊維からいでよ蛍よ
ひっそりと星のなき夜にふわふわり蛍はかなや短きいのち
白い皿一枚分は集めたが引き換え期間とうに過ぎてた
変身し澱んだり流れたり時間の流れまで変形してく
軽すぎてまるで催眠ガスのよう大混乱の連続ドラマ
一二五〇歳の御誕生日お大師様にハピバおたおめ
指差せばどこか遠くの未来へと辿り着けると思ってたころ
隙だらけ敵も味方も入り乱れどこもかしこも戦場になる
不意の晴れ間が明るさを残しながらも曇りだす予報では雨
だらだらと持続不可能な世界が破滅へ向けて腐乱してゆく
デマが流れるオカマやら難民たちが武装して押し寄せてくる
われわれは宇宙人だよへんてこな形していておしゃべりするよ
仏像の中から小判でてきたり井戸の茶碗でお茶のんでたり
いちにいさんしいごおろくしちはちく梯子のぼってあの雲のうえ
レーダーで真っ赤になってる雨雲があそこに見える灰色の雲
ふかふかと茂る若葉のその上をトラヴァースしてたのしむ雀
芒種末まどの西日のまぶしさもとしふるごとに侘しさをます
まずなにか自認しようとする前にあなたほんとに人間ですか
何もない寂しいとこへ消し去られ毀れた輪からこぼれて落ちる
最初からそこに輪はある終わりなくちょっと欠けてもまたすぐ戻る
ぷっつりと切れてしまったまるい輪はまたちゃんとつながるのでしょうか
生きるとか死ぬとかとかのぎりぎりをへめぐらされてシベリウス四
吸い込めば吸い込むほどに塞がれる空気の穴が粘つくもので
なだらかな坂の上から見わたせばそこにはかつて海が見えてた
さっきまで近くを飛んでいたけれど今じゃすっかりもぬけのからに
梅の実が黄ばむころだと土井先生のツイートでみる季節感
はじめから歯牙にもかけずこの世界じぶんの靴で歩いてくだけ
ぬかるんだ道でも平気だった靴ばかりが靴じゃないことを知る
暑い日に正気をつなぎとめておくためにも初期のスワンズを聴く
たえまなき心の痛みからだからからだへからだからからだから
音もなく平たく長く打ちよせる目には見えない波打ち際に
しぼんだとこにようやく何か落ちてきてぎゅっと捕まえ溶かしてく
凋衰とどうでもいいで満ちてゆくあちらの路地やこちらの路地が
ちりぢりにされていたって構わない裏でつながる別の紐づけ
叶わないことだと知ってはいるがレットノーマンプットアサンダー
溜息をつく天使たち涙がながれ焼きつくされるこの世界
打ちこわす古ぼけたまち新しいへんてこなものを打ちたてるため
よれよれと夢のふちからよみがえる亡霊たちの長い行進
近年の肌感覚でいうならば六月末が一番暑い
季節とか時代のほうが早足で追いつけないでずっと迷い子
出ばなからがんがんうける熊の皮キュレル師匠のさすがの至芸
上水に材木ながすものはないそれを知ってて身を投げたのか
わたし犬あなたは猫でそのうちにみな蛇になる生まれ変わって
古池や蛇が飛びこむ水の音りんねてんしょう喜びのみち
古池や蛇が飛び込む水の音あれはいつかのあなたかわたし
近づけどまた離れてくいつだって迷子になってその日は遠い
朝風やぱくりぱくりとひらく蓮さえざえと耳そばだてる子規
もうまるですでにつんでる将棋なり雲も日差しを弱めてくれぬ
五条まで鞍馬の竹を伐ってゆく天狗刺したという阿呆にあう
ひとつずつ何かなくしてゆくことで何もできない人となりゆく
おおよその見当だけでやってみて目論見なんて外れてばかり
なにもかも思い通りにならぬ世でまだ試すのかおのれのことを
こことは別のどこかからきていた人がまた次の旅にでてゆく
なんとなくとても不安で気もそぞろヤングゴッズのインCを聴く
明易や空が白んでくる前にらちくちもない世を離脱する
短夜に地面に落ちて腐りゆく果実みたいな気分の目ざめ
短夜やはさまれたまま時次郎からすのこえもあけきってから
短夜やうすものをきて銀屏風ぜんしょうのことふとおもうあさ
短夜に更科蕎麦をどっぷりとつゆにひたしてくうゆめをみる
みじか夜やおもいおもいの思いかな赤坂ホップアンジュ横アリ
夏至の日の薄曇りのしたかすかにむっと湿気てるペトリコール
月曜日わたしは家をあとにしてまだ火曜日を探しています
雨が降りどんよりくらい窓のそとなかなかいつも通りにゆかぬ
真っ直ぐに等間隔で落ちてきて強弱つけてうたう雨音
雨に濡れ六字にたまるしずくたち徳本さんの名号の碑に
なまきずを深く抉れば抉るほどわけのわからぬかなしみがます
でも実は頭の中はいつだってちょっと馬鹿げた妄想ばかり
もう少し未来をこの目で見たいけど霧はますます濃くなるばかり
すこしずつ何かをなしてゆくことで何かちがいがわかる気になる
じわじわとかわいた手拍子がはやくなる砂漠の風が吹きぬける
棕櫚の木の繊維を抜いて運ぶのかひとり奮闘しているすずめ
窓の外なにをそんなに熱心に訴えてるの鶺鴒のこえ
誰もが親になるというテーマにまつわる悩みを抱えています
段ボール箱置くだけの簡単なお仕事ならばできそうだけど
武蔵野は草より出でて草に入るとおくの山を眺めてばかり
うすあかねいろ七時過ぎ耳をすませば秋のけはいの虫のこえ
ここまでずっと光の中にそれはある遍くてらす奇跡のもとに
あなたとわたしはともにわたしたちの未来のためにたたかいますか
真夜中にどこかちかくで時鳥しずかにひびくあやしげなこえ
ぴょんぴょんと低い枝から高い枝ぎいとひと声さりゆくおなが
咲いたとてぽとぽとおちるだけなのに今年も花芽のばしだすホヤ
ぼんやりと糸をたれてるそのうしろ小さんの俥はしり去りゆく
橋わたり川をこえればべつのくにこだちにせぶりかわらにやどる
光なく生気が失せてゆくほどにアニマにみちて湧きたつことば
保護されず放っておかれもうかなり瀕死に近い森の生き物
耽美でも脱力でもなくふりきれてフリークアウト蒸し暑い夏
短夜やお見世立番いれかわるまた台をかえまた台をかえ
一瞬ふわっと日が翳りまたすぐに元の日差しがじりりときてる
さらさらと風にそよいでおしあってひしめきあって若苗あそぶ
はあそうですかとしか言いようのない見出しをながめすぐに忘れる
観光客が憐れみの目で眺めてるごみ箱の中で咲く花
冗談じゃないよゴッドセイヴザクイーンさもなくばノーフューチャーよ
どれもみな消えてなくなる雨の降る中を流れる涙のように
いわさんが夢枕にたつんですよそれで夜中にはっとめざめる
隠亡堀にゆらゆらと杉戸がうかぶ表もうらみ裏もうら
盥からにゅっと手のでる三角屋敷形見の櫛の連理引き
トムジェリを見ればすぐさま思いだす神田愛山先生のこと
やっとこさ五月のままのカレンダーめくらなくちゃと思いはじめる
いかずちにうたれやかれし清貫に無名もむせぶ逢坂の関
天国に一番ちかい死にかたをぼくらはうたうあのメロディで
どれほどに遠く離れて現実をあるがままにて眺められるか
すべてはそれがそれであるということをどこまでわかっているのかだ
水無月の末のあやめの濃紫おおよそ曇りぱらぱらと降る
戦車が通るロシアの町の道端に紅色のタチアオイ
なにからなにまで銭ひとのことなど信じない薄っぺらな時代
あるようでないようなもの手の上にのせてみせあい虚勢をきそう
ひっそりとひとめにつかぬ密室でくさりくちはて骨になってく
百年の長い準備を積み重ね光と色と音とまみえる
人間の頭でも理解ができるこれも仏陀の慈悲の顕れ
寂静とあらゆるもののあらゆる音に包まれて扉がひらく
声はなく言葉もないがそれでもなにかつたわるような褪せた色
つまらない短歌がなにかポリシーに違反してたというのでしょうか
寒々と聳える黒く高い影ラフマニノフの岩の手ざわり
グドナドッティルのジョーカーの劇伴らしい劇伴ゆえのするめ感
おおまかにわかったつもりだけどだいたいわかったつもりではいます
志ん生の火焔太鼓じゃあるまいしどろどろどろと派手にはたくね
たいていの生ものならば避けるべき高温多湿の世界に生きる
愛してる金いろの字で書かれた真っ白な凧たかく舞いあがれ
梅雨ふかし空は夏めく水のいろうかんだ泡もながれきえゆく
梅雨ふかし田んぼの水もひあがって土にひびいる炎天のした
夏至をすぎ日に日に夜は長くなるつまり熱帯夜も長くなる
寝る前にもう汗がじっとり覚めてなお汗にまみれし昼寝かな
これまでにあまり経験ないような角度で窓に吹きつける雨
偶然の出合頭の衝突でぽろっと落ちるわたしのかけら
最後には提出します少しだけ痛みもあるがひとりきりです
終わりもないし始まりもないまるで夢ただおどる子供のように
除湿かけぐっすりねむる夏祓え茅の輪をくぐり後半戦へ
しとしとと雨のつごもりどこかの川で魚がはねる夏祓え
梅雨のあめ湿度もたかい年の臍なあみんなへそんとこよろしく
雲がきれ束の間はれて日差しうけぬれた若葉がむわっとひかる
気がつけばいくつか顔をだしているホヤの花芽のちっちゃいやつが
くすんだ色の毎日がぬるりと肌にこびりつきしみ込んでゆく
形でも線でもなくてただそこに光があって色があるだけ
ひと区切りふた区切りただいくつものただいくつもの区切りだけつく
付録
2023年のうた 第一期 冬・春
2022年のうた
ひとこと
短歌を毎日のように(ばかばか)投稿するようになって、一年とちょっとが経った。ただしくは、これらは短歌ではないのかもしれない。だが、そんなことはどうでもいい。少なくとも、わたしにとっては、それはあまり大した問題ではない。今はただ毎日のようになにか詠むということが、ただただひたすらに最も重要なことになりつつある。一年とちょっとで、これまでに発表してきたものは、約三五〇〇首ぐらいになる。この制作のペースでいけば、今年中に五〇〇〇を越えるかもしれない。未発表の作品をそこにくわえれば、たぶん五〇〇〇以上になるのは間違いない。目標は、その倍の一〇〇〇〇首に設定している。今のペースをキープして無事に完走できれば、再来年には一〇〇〇〇首の目標に到達できるはずである。それが達成できたあかつきには、一〇〇〇〇首をすべて網羅した歌集にまとめたい。まだまだ大きな山の五合目にも到達していないうちから、そんなことをいうというのは少し気恥ずかしいものがあるが、とりあえずそういう目標をもって毎日のあほみたいな作品の投稿を続けていますということを、ひとまずお伝えしておきたいと思っている次第でございます。みなさまの応援そしてサポート、とても励みになります。何卒よろしくおねがい申し上げます。
お読みいただきありがとうございます。いただいたサポートはひとまず生きるため(資料用の本代及び古本代を含む)に使わせていただきます。なにとぞよろしくお願いいたします。