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偶然が運命に変わるとき-モコと出会った女性たち-

30歳になった時、初めて私は恋について考えた。

学生時代の成績はいつも普通だし、部活も適当に決めた。友達と帰り道にファーストフードで話すことが楽しみなThe普通の学生。今考えれば「好き」だった男性もいたが当時はその感情に気づいていなかった。

就職したのは地元の大手メーカー。いわゆるモノづくり企業。そこの総務部に入社した。同時に一人暮らしを始め、会社から2駅のところに小さなアパートを借りた。狭い部屋だけど日当たりの良いさっぱりとした新築のお気に入りの物件。

しかしそのお気に入りの部屋はすぐに”寝るだけの部屋”になった。ひどい残業があったりするわけではないが、仕事に慣れることに時間がかかったし、経験したことない疲れ方に体がついていかなかった。

先輩社員とのやり取り、わけのわからないおじさんとの電話応対、日々発生する新たな業務。

帰りの電車の中では必死に座れるポイントを探すのが日課になった。

やっとの思いで家に帰り、食事をし、風呂に入り、家事を済ませて新生活のお祝いで友達からもらった壁掛けの時計に目をやると、いつも時計の針はキレイに縦に並んでいた。

***

数年が経ち仕事にも慣れた。The普通の私に後輩が出来たりして少し驚いている。生活もある程度安定し「自由な一人暮らし」を満喫していた。

ある日、実家の荷物を送ってほしくて母に電話をした。いつものマシンガントークを適当にいなし、要件だけを手短に伝える。母はそれらをメモにとっていた。私が良きタイミングで電話を切ろうとすると

「ねぇ聞いても良い?」

珍しく母からの質問。何かを察知されたか?

「どうしたの?」

母は少しだけ間を開けて

「あなたって好きな人とかお付き合いしている人っているの?」

来たかと思った。同世代の友達から聞いてはいたがこんな感じか。

「うん。そうね。まぁそれなりに。」

「そう…ならいいんだけど。最近お母さん気にしてたのよ。あなたはあまり服とか化粧品を欲しがらない子だったから、もっとかわいい服とか着せてあげればよかったのかなって。いるならいいの。じゃあまた連絡してくるのよ」

そう言って母は一方的に電話を切った。今まで感じたことのない黒くてモヤっとした気持ちが残った。私はキッチンに向かい冷蔵庫のペットボトルの水を取り出しグイっと飲んだ。

学生時代からあまりファッションには興味がなかった。別に休みの日に出かけるのもシャツにデニムでいいし、何なら今でもそう。社会人になっての御用達はハニーズやユニクロ。動きやすいし、いつでもどこでも買える。

確かに同世代の友達はファッションにお金をかけていた。合コンや婚活に行く前の日には美容院を予約し、キレイな髪を維持している。バックも私が想像するより全然高いんだろうなっていう知らないブランドのモノが多い。

別に今の生活に不満はない。仕事も慣れて、給料も高くはないがお金に困ってない。休みの日も学生時代の友達とカフェに行ったりご飯に行ったりしている。この生活のどこがいけないのだろうか?

***

次の週末、私は近くのショッピングモールの大型書店にいた。普段見ない女性ファッション誌のコーナーをゆっくりと物色する。派手なメイクで笑う女性、白いふわふわの服を着て木々の生い茂るカフェでコーヒーカップを持ちながらはにかむ女性の写真が写っている。その写真の中の女性たちは、自分の“それ”とはまるで違った。ぐるっと雑誌コーナーを見る中で一つの雑誌を手にとってみた。働く女性向けっぽい本だった。

『ランチは1100円のパスタとサラダのセット。仕事帰りにはフレンチバルに行き、白ワインで仲間と乾杯。自宅に帰りシャワーのあとはボディクリームでむくみ防止のセルフマッサージ』

なんだこれはと思った。こんな暮らしのどこが楽しいのか。
恋愛に興味はある。私だって自分を好きと言ってくれる男性がほしい。ゆくゆくは明るい家庭を作りたいとも思う。でも今の生活も変えたくない。こんな1100円のランチになんの意味があるのか。やりきれない気持ちだけが残った。

***

書店を出ると外の広場でマルシェが開催されていた。親子連れや大学生くらいのカップルがハンドメイドのアクセサリーや小綺麗にラッピングされたパンやお惣菜を物色していた。それを横目に見ながら家に向かう。なんとなく惨めな気持ち。

広場を出ようとすると「占い師モコのタロット鑑定」というのが目に入った。テントの中には女性が座っていた。彼女は文庫本を読みながら紙のカップに入った飲み物をゆっくり飲んでいた。変な被り物もしてないし、水晶とかもない。全然占い師という雰囲気でもなかった。

***

「こんにちは。今日はどんなご相談でしょう?」

静かに占い師は質問してきた。ショートカットの落ち着いた雰囲気の女性だ。

「あの、私恋愛経験が少なくて。でも今の生活に満足してるんです。今後私に彼氏は出来ますか?」

すると占い師は少しだけ微笑んで

「わかりました。まずはカードに聞いてみましょう。」

と言った。すると占い師は目の前のカードの束を混ぜてゆっくりと一枚のカードを引いた。私の前に置かれたそのカードには大きなソファーに座った女性が描かれていた。

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「これは女帝のカードです。豊かな実りと母性愛を表していると言われていますね。恋愛に関する相談でこのカードが出る時は、いわゆる『実りを実感しやすい時期』です。幸せの頂点を迎える、その目の前のようなそんな感じです。」

彼女の言葉は不思議な落ち着きがあった。言葉が終わると彼女は少し考えて

「そうですね。近い時期に出会いがあり、その男性と付き合うみたいですよ」

彼女はそう言い切った。その柔らかい表情の中に説得力のようなものを感じた。すると彼女は別の白い紙を取り出して女帝のカードを見ながら何かを書きだした。

「よかったらどうぞ。カードからのメッセージです」

カードには

【今の自分を大切に。あなたの魅力は必ず伝わります】

と書いてあった。私は彼女にお礼を言い、料金を支払った。

そして自転車に乗り、普段と少しだけ見え方の違う帰り道を楽しみながら自宅に帰った。

***

2週間後の週末。私は同じショッピングモールの「占い師モコのタロット鑑定」のテントにいた。

一つ違うのは、私の隣には3日前に告白された彼氏がいること。いつものショッピングモールも彼と一緒だとこんなにも見え方が違うのかとわくわくした。

「今日は素敵な方といっしょなんですね。」

「はい。あの後会社のセミナーに参加したんです。そこに彼も参加していて同じチームでセミナーを受けて話が盛り上がったんです。」

彼には事前に占い師のことを伝えてあったので、少し照れくさそうに占い師と話していた。

***

初めての彼氏が出来たことを周りの友達も母も喜んでくれた。父だけは少しとまどっていたが。これからどうなるかわからない。でも今は彼と過ごす時間がとても楽しい。新たな楽しさに出会えた。そんな気持ちがあるだけで生活と気持ちに新たなハリが出た。

彼との出会いは偶然かもしれない。でもそれは捉え方で変えられる。

私はあの占い師との出会いも彼との出会いもどちらも“運命”であったこと。それだけは間違いなく信じている。

written by こんちゃん

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◉モコからのコメント

このお話は今から7~8年前に実際起こった話をモデルに書いていただいたものです。

そのお客様は一見恋愛に興味を持っていなさそうな方でした。

「私に恋愛はできるのか?彼氏はできますか?」

と占いを聞きに来られました。そしてカードが出たままを正直に伝えた所とても喜んで帰っていかれたのでした。

次にその方が彼氏と腕を組んで現れた時には本当に驚きました。
きっとその方は週末のセミナー会場で周りにいる人を見まわした時に「もしかしたら占いで言われた出会いはここにあるのかも?」と思って、その時に今までとは違う視点で周りにいる男性たちを見たのだと思います。

単なる『同じセミナーに参加している人たち』だったのが、『私の彼氏予備軍』となったのです。私はヒントになるような言葉を伝えただけで、自分で道を切り開いたのは彼女自身です。

占いで誰かの人生を変える事はできません。

自分の手で人生を変えていくきっかけを占いを通してお手伝いするだけなのです。

▼占い師モコへの占いのお問い合わせはこちらから▼


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