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アイスクリーム【オリジナル】

 スマホと財布だけ持って家を出た。ポケットの中で、通知音が鳴り続けている。画面を見ると、「一年二組最高!」という文字が表示された。

 六か月前、中学生になった。夏休みまでは、すべてい上手くいっていた。部活の練習も、「面倒くさい」とぼやきながら毎朝向かっていた。友達と過ごす時間がただ楽しかった。

全てが狂いだしたのは、先月の夏休みが明けたころだった。

 人と話すのが怖くなった。否定されるのではないかといつも怯えるようになった。段々言いたいことが言えなくなっていった。そして、関わることを辞めた。

一か月近く、学校から逃げている。長く外出もしていない。漫画や小説のように、外に連れ出してくれる人はいない。友達は迎えに来てくれない。自分だって外に出ようとしない。

 自転車を押しながら、前通学路だった道を歩く。無意識にクラスメートを探してしまう。

おっ、久しぶり。どうしたの、何で学校来ないの?君がいないと寂しいよ。みんな待ってるからおいでよ。

頭の中で現実味のないセリフが再生される。

コンビニの店内には、客が5,6人いた。中学生です、毎日楽しくやってます、と心の中で念じながら歩く。期間限定パンプキン味のカップアイスを手に持って店から出ると、空しさがこみあげてくる。

コンビニに来た理由を作るためだけに買われたアイス。自己満足のアイス。サドルに腰かけてふたを開けると、カボチャのにおいがした。

パンプキン味のアイスは、甘ったるくて冷たくて、おいしかった気がするけどやっぱり不味くて、もう何が何だかわからなかった。


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