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鳥の囀りが如何に喧しいかについて

親父は映画が好きだった。
よく映画館に連れて行ってもらった。
毎週、レンタルビデオ屋にも行って映画を借りてくれた。
親父の兄(叔父)も映画が好きだった。
叔父は独身で子供が居なかったので、僕を息子のように可愛がってくれた。
そんな叔父にも、よく映画館へ連れて行ってもらったし、大昔、録画した土曜ロードショーとかのビデオとかを、沢山観せてもらってた。
一番印象に残っているのは 、小林桂樹主演の「裸の大将」 だ 。

1958年に公開された当時、山下清本人がまだ生存しており、小林桂樹は本人に取材をし、テープに録音した彼の喋り方などを練習して、撮影に挑んだらしい。
リアルに演じすぎたあまり、批判の声もあったそうだが、これが、本当に面白い映画で、
ハナ肇とクレージーキャッツの、映画初出演の作品でもある。
残念ながら、DVD化はされておらず、気軽に見直せる作品ではない。

叔父から貸してもらったビデオテープももう擦り切れてしまったし、その後、レンタルビデオ屋で見つけて、鑑賞したけど、それも、もう15年くらい前だと思うので、記憶で楽しんでいる。

不思議なもので、親父に連れて行ってもらった映画より、叔父に連れて行ってもらった映画の方が記憶に残っている。

田中邦衛主演の『若者たち』のリバイバル上映。
これは1966年にテレビドラマ放映された作品を、映画化した三部作だった。
映画館で観た時も、三部作を一気に見た。
当時小学生だった僕は、体力的にキツかったけど、それもまた、いい思い出だ。

それから、1999年公開、大林宣彦監督の
『あの、夏の日 とんでろ じいちゃん』
この映画は、今も僕の中で輝く、大好きな映画だ。
『新尾道三部作』の三作目であり、主演が小林桂樹さんです。

大林監督が、小林桂樹さんと仕事をするという事は、自分の映画作りを再確認する作業である。と小林桂樹さんが亡くなったとき、新聞の追悼文でそう書いてあった。
成瀬巳喜男、黒澤明、岡本喜八など東宝の名匠達との仕事、映画の黄金期のような時代を見てきた人であると。

なので、この映画は日本映画の歴史、大林宣彦監督の歴史みたいなものが詰め込まれてると感じるし、自分自身が少年だった頃を、儚く輝いて思い出させてくれる素敵な作品だと思う。

叔父に映画へ連れて行ってもらった。
というだけで、何か物語が生まれた気がする。

じゃあ、親父との映画の思い出に物語が無いのか?というと、そうではない。

高校生の頃、デ・ニーロが監督した『ブロンクス物語』をビデオで見ていると、親父が、『ワシも観たい!最初から!』と言って、巻き戻しを要求された。
僕は、何度も観ているので、巻き戻しして、その場を離れた。映画を観終わった親父がポツリと『自分の父親に捧げた映画やな。いい映画や、親になってもう一回見てみ』と言ったのを覚えている。

ブロンクス物語は、地元マフィアのボスからの組織犯罪への誘惑と、実直で勤勉な父との狭間で葛藤する少年カロジェロの成長を描いた作品だ。

2人の大人から人生を学ぶ少年の話であり、なんだか、僕自身にとって『叔父』と『親父』から人生を学んだ。それに似ている。
親父は、酒を飲むと手がつけられない、粗野でクレイジーな男だった。酒さえ飲まなければ、真面目な公務員だった。
逆に、叔父は転職を繰り返すフーテンだが、温厚で酒も弱い男。
そんな対称的な2人から多くの事を学んだ。

ブロンクス物語、親父に言われた『自分が親になってから、もう一回見てみ』

僕は、三人の子どもの親となったが、親になって、まだ観てない。

泣くかな?

僕は、映画を見て、涙を流した事がない。
これは、なんだか虚しい。
しかし、この間、息子とクレヨンしんちゃんの映画、ロボとーちゃんを見てて、泣きそうになった。

けど、結局、泣かなかった。

でも、息子に目をやると、静かに静かに泣いていた。声も出さず、ツーっと頬を涙が流れ、静かに拭っていた。

それを見て、号泣してしまった。

映画って、観てる人で完結するんやなぁ。

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