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実
2022年8月9日 18:38
風がうねりをあげているあいだは、男の肉声によって語られる過去が遠くから運ばれてきて、島の女たちの与えた身勝手な名前や醜く膨張する妄想に蝕まれないでいられる。しかし、風がやんでしまえば、男は自身の過去から断絶され「エステバン」としてそこに横たわるしかない。「エステバン」という名前と溺死体が恣意的に結合されて、そこからあらゆる妄想や幻想がリアリティをもった虚構として男の周りで網の目状に拡大してゆく。