思考の濾過装置
旅先の夜が好きだ。ひとりでも、他の誰かとでも、いつもと違う場所で過ごす夜が好きだ。
「どうしようもなくなったときには環境を変えればいい」というのは、半分正解だ。環境さえ変えれば自分自身が丸っきり素敵に変われるわけではないけれど、環境の変化で変わる思考回路というものは、存在していると思う。
ぼうっとひとり思索に耽る。ぽつぽつと、ふだんとは違うトーンで会話する。特別ハイテンションでもないけれど、特別沈み込むわけでもない。そんな、ニュートラルな状態が心地いい。
ずぶずぶとネガティブ方面に沈み込んでいたことが、あまり気にならなくなることもある。完全に吹っ切れることばかりではないけれど、すとんと「まあ、仕方ないかな」という思いが心に収まったり。
実際に、くよくよしていたって仕方がないし、自分ひとりで解決できるわけでもないのだ。そんな当たり前の結論に、旅先でようやっと心から至れることも多い。
日常の延長線上にある、だけど完全なる日常ではない、小さな非日常感がいいのかもしれない。
それが、リスタートというか、自分を“それまで”と“それから”とに切り替えてくれるきっかけになっているのかも。
自宅では、どんどん想いが増え、絡まって収拾がつかなくなりがちだ。旅先では、どんどん濾過されて透き通り、本当に残したい想いだけが浮き上がってくる、そんな気がしている。
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