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車窓の碧空

「命は巡るんやな」

 そっと大事なものを置くように、母が言った。静かな物言いとは対照的に、わたしたちを乗せたトヨタのAQUAは、青空の下を時速100kmで走っていく。わたしは、何とはなしに隣に設置された真新しいチャイルドシートに目をやる。わたしに似ているらしい小さな命が、音も立てずに眠っていた。

「諒ちゃんが生まれる前、おじさんが亡くなりはったやろ。生まれ変わりやないけど、巡るんやなあと思ったんよ」
「せやな」

 運転席から父が続けた。父の伯父が亡くなったのは、息子が生まれる数週間前のことだった。親戚の葬儀や法事でしか顔を合わせたことはなかったけれど、孫のようにかわいがってくれた人だった。

 車窓から見える空はひどく青い。富士山が見え、わたしはスマホを構えた。

「今日は空気が澄んでるみたいやなあ」

 ふにゃ、と息子が声を上げる。高速道路は、つまらないほど真っ直ぐだ。夫の待つ家へ、息子は初めて帰還する。

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