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映画【個人的発掘良品】『サザン・コンフォート』

SOUTHERN COMFORT
1981年 アメリカ
監督:ウォルター・ヒル
製作:デヴィッド・ガイラー
製作総指揮:ウィリアム・J・イマーマン
脚本:デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル/マイケル・ケーン
撮影:アンドリュー・ラズロ
編集:フリーマン・A・デイヴィス
美術:ジョン・ヴァロン
衣装:トム・ブロンソン/ダン・ムーア
セット:ロバート・グールド
特殊効果:ローレンス・J・カヴァナ
メイクアップ:マイケル・ジャーマン
キャスティング:ジュディス・ホルストラ
音楽:ライ・クーダー
音響編集:ランディ・ケリー/ワイリー・ステイトマン
助監督:パット・キホー
スタント・コーディネーター:ベニー・E・ドビンズ
出演:キース・キャラダイン/パワーズ・ブース/フレッド・ウォード/ピーター・コヨーテ/フランクリン・シールズ/T・K・カーター/ルイス・スミス/レス・ラノム/アラン・オートリー

7,80年代の男映画の名手ことウォルター・ヒル監督作で最もスリルが高まった傑作。"SOUTHERN COMFORT"というのは南部の安らぎとか南部の快適といったところでしょうか。ルイジアナの湿地帯で演習訓練にあたっていた州兵たち。そこで偵察小隊が組まれるんですが、素行の悪い輩が紛れているんですね。最も兵士に相応しくないような者が軍務につくところ。これがこの映画の恐怖の根本ですね。沼地を渡るために現地民のカヌーを拝借したところ、途中で見つかり、ふざけて空砲で威嚇射撃したところ、現地民から反撃の狙撃をうけて指揮官の軍曹が射殺される。まさかの事態に動転する一行。なんとか逃げ延びるも、小隊内で緊張が走る。冷静さを失っていく軍人たちは軍曹を殺した連中を追い詰めて報復してやろうと提案し、遺体を担ぎながら湿地帯を進んでいく。さあどうなっていくか。

 この現地民というのがケイジャンという人たちで、ルイジアナへ定住するフランス系移民なんですね。なので英語が通じない。よってコミュニケーションがとれずに争いになりました。これはケイジャンとルイジアナ州兵の戦い。兵隊同士の仲間割れ。亀裂やら対立が深まりながら、抜け出せないこの湿地帯で仲間の墓標がひとつまたひとつと増えていく。相手は同じ人間のはずが、どういうつもりで狙ってくるのか。ただ狩猟のごとく殺しに来る。そういうスリル、サスペンスがじわじわ迫ってきます。軍人たちが主人公ですが、単なる戦争ものじゃあない。怖い人間性が出てくる殺し合い。沼地を舞台に苦しんで苦しんでいく怖さを描きました。

 デヴィッド・ガイラーとウォルター・ヒルといえば、『エイリアン』の製作ですね。だから怖い映画の何が怖いかを熟知している。仲間同士の睨み合い、じわじわ命を狙われる恐怖。そういうのを宇宙船から湿地帯へ移し、演出しています。州兵メンバーにも個性的な連中が揃っています。『ナッシュビル』や『ロング・ライダーズ』のキース・キャラダイン、『エメラルド・フォレスト』のパワーズ・ブース、『トレマーズ』のフレッド・ウォード、『E.T.』のピーター・コヨーテ、『ブレードランナー』や『ザ・プレイヤー』などの名脇役にしてウォルター・ヒル監督作に度々顔を見せているブライオン・ジェームズもケイジャン役で出演していました。ということで、この映画は沼地という独特の空気のなか、苦しんで弱っていく兵士たちの心理が描出されました。調子に乗って異質を軽んじる報いというのもありますね。そのあたり、ウォルター・ヒル映画で最も怖いサヴァイヴァル・スリラーの最高傑作になりました。

 ウォルター・ヒル監督。大好きな映画監督のひとりですが、このひとは西部劇の神様ことジョン・フォードを敬愛し、現代のアメリカを舞台としながら、西部劇の映画スタイルを貫いてきました。寡黙さ、非情な暴力、犯罪の横行、男同士の決闘など、アメリカの闇を突っ走る男たちを撮り抜いてきました。幼い頃から西部劇、冒険記、ミュージカルなど多様な映画好きで、学生時代はコミックアーティストを志望してメキシコの大学で美術を学び、ミシガン州立大学では歴史学を専攻したそうです。ロサンゼルスで就職した会社ではいろいろな映画脚本に触れる機会があり、自分でも執筆していくうちに映画監督を志したそうです。アメリカ映画のみならず、ヨーロッパ映画や日本映画も鑑賞していき、膨大な映画感覚を吸い込んだ。テレビ番組の制作に携わり、映画では20代後半の頃、ウディ・アレンの助監督にも就いたそうです。1972年『ゲッタウェイ』の脚本、1975年『ストリートファイター』で監督デビューしたことが転機となり、多くのアクション映画を手掛けていくことになりました。

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