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「土壌と木モデル(The Soil and Tree Model)」#孤独孤立

この国の共同体は、長らく「地縁」(地域の相互組織や助け合い)、「血縁」(家族や親族等による援助)、「社縁」(終身雇用制度や企業福祉制度)に基づく「3つの縁」に大きく依存してきた。しかし、少子高齢化、家計独立化、婚化・単身化、過疎化、高齢化、移住、雇用不安定化、非正規労働増加、ワーキングプアなどにより、「3つの縁」が希薄化し、共同体は危機に瀕している。2010年にはNHKドキュメンタリーで「無縁社会」という言葉が使われ、それ以降、望まない孤独・孤立への危機感が高まっている。


望まない孤独・孤立が齎している影響

望まない孤独・孤立が齎している影響については、以下を含め、既に多くの研究がなされている。

1つは、現在、地域でみられる課題の多くは、行政サービスの弱体化よりも「縁」の崩壊によるニーズギャップに起因するということ。患者が退院すれば支える家族がいる、地域で火事が起これば若者を中心とした消防団がいる、といったように、行政サービスが「縁」の存在を前提に設計されているため、その前提が崩れた今、地域では多くの課題が噴出し、行政サービスでは対応しきれなくなっていること。

そしてもう1つは、望まない孤独・孤立が、経済的困窮、高齢者の健康問題、子どもの虐待などの特定課題と結びつくことで、各課題が深刻化・複雑化していること。例えば、経済的困窮に陥っても、豊かな「縁」があれば問題の深刻化はある程度防げる可能性があるものの、孤独・孤立に陥ることで貧困が深刻化するなど、負の連鎖が起きている。

これに対して、日本政府は、孤独・孤立対策推進本部等を通じて、相談対応、見守り、生活支援など福祉的なアプローチの強化を打ち出している。しかし、これらのアプローチには限界があり、根本的な解決には、繋がりを希薄化させる社会構造の見直しと、地域での繋がりを再構築する仕組みが求められていることは言うまでもない。

土壌と木モデル(The Soil and Tree Model)

私はこれを「土壌と木モデル(The Soil and Tree Model)」と呼んでいる。養分も免疫力もない荒廃した土壌(望まない孤独・孤立が蔓延した地域=弱いソーシャルキャピタル)の上で枯れゆく木(個別課題:貧困、健康問題、虐待等)に対していくら処置をしようとしても、木の荒廃は止まらない。豊かな土壌(人々が繋がる地域=豊かなソーシャルキャピタル)をつくることが、木に鮮やかな色の実を付け、芳醇な香りの花を咲かせる(多くの社会課題の深刻化・複雑化を防ぐ)ために重要なのだ。

この文脈で、非営利組織(NPO)や地域組織(CBO/PO)は、土壌にいる微生物とも言える。課題解決や価値創造等の活動を通じて、人々のつながりを再構築する大きな力を持っている。この豊かな土壌をつくる行為こそが、プレイヤーとしての非営利組織や地域組織の大きな価値であり、資金提供者としてのフィランソロピーが果たす役割でもある。

地域での繋がりを再構築するために、「行政はNPOへの委託事業の予算を確保すべきだ」と言っているのではない。多くのNPO実践者は、これまで行政の委託事業の限界を既に理解しているはずである。硬直的な資金で、地域住民の交流促進やソーシャルキャピタルを豊かにする活動を継続していくことはできない。行政がすべきことは、日本中の非営利組織や地域組織が、柔軟な民間資金をもとにそのポテンシャルを最大限発揮できるように、税制優遇やエコシステム構築等を通じて、活動環境を抜本的に改善することである。

さいごに

行政がすべきことは、荒廃した土壌の状態を放置して、木に莫大な予算を投じることでも、土壌の荒廃に直接予算を投入することでもない。土壌の微生物が元気に行動できる環境を整えることである。

※この文章は、こども食堂の活動を行っている認定NPO法人むすびえの皆さんと一緒に行わせていただいている「こども食堂海外展開調査」の中での学びの1つを、個人的な見解としてまとめたものです。
※トップ写真は筆者

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