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デンジャラス フレーバー

街中には色々な「におい」で溢れている。

雨が降ってきたとき、アスファルトの薄い灰色が、雨粒で濃い灰色に徐々に変わっていく。それと共に、雨が降りたての何とも言えない「におい」が鼻の中に充満する。

居酒屋がひしめく狭い道路を走る。焼肉屋の横を通ったとき、ダクトから漂ってくる香ばしい肉の「におい」がタッピーのお腹を刺激する。

においはバスに乗車するお客さんから持ち込まれることがある。たとえば香水のにおい。このにおいは、タッピーが学生時代に初めてドン・キホーテで香水を買ったとき、少し大人になった気がした。おしゃれな箱に、おしゃれな瓶の中に入っている液体。これを付ければモテモテになる気がした。結局つけるタイミングが分からず、かなり残っているのに捨ててしまった。後にも先にも香水を買ったのはこの一度きり。タッピーにはまだ早かったのか。

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においとは不思議なもので、あるにおいがきっかけに、昔の懐かしい思い出が思い出されることがある。たとえばコンビニのおでんのにおいを嗅ぐと、タッピーは小さい頃よく母親とコンビニに行って牛乳を購入していた時の情景が脳裏によみがえる。浄水場の水が腐ったようなにおいを嗅ぐと、タッピーが幼いころに住んでいた家の脇にあった、どぶ川をよく歩いていた時の映像がフラッシュバックする。

上記の記事によると、においによって記憶が呼び起されるのは、「プルースト効果」と言うらしい。

においを嗅ぐ嗅覚は、記憶や感情を処理する「本能の脳」と直接つながっていることからおきる現象のようだ。

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バス運転士になる前に勤めていた会社で、隣の班の上司と飲み会をした時、こんなことを言われた。

社会人になったら、においで人を嗅ぎ分けなきゃだめだ。におう人には気を付けた方がいい。

ここでいう「におい」とは、鼻で感じるにおいではなく、キャラの濃さのことを差していたと思う。つまり、キャラの濃い人には気をつけろということだったとタッピーは理解してる。

ちなみにタッピーの配属された班の直属上司は、その人曰く、「かなり、におう」と言われた。確かに直属上司はとてもキャラが濃かったと思う。タッピーは本当に毎日のように怒られ通しに怒られていた。(タッピーが仕事を出来なかったのが原因だったのだが。)

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バスの運転をする上でも、やはりお客さんの「におい」は重要だ。お客さんに何かを伝える場合、まずはお客さんの「におい」を嗅ぐ。「におい」がしなければストレートに伝えるし、「におい」が濃い人には遠まわしに伝えたり、ボディランゲージを交えたりして、あの手この手でキャラを刺激しないような方法をとる。

上記のにおいで人を嗅ぎ分けろと言っていた上司に、タッピー自身はどんなにおいがするか聞いたら、「お前はまだ何も臭わないな。真っ白だ。」と言われたことを思い出した。

あれから10年以上も経ったが、タッピーはいまどんなにおいがするのだろうか。少しはにおいがするようになったのか気になるところだ。


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