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想いも届けるバス

今日も陽が傾きはじめた。真上から差し込む強烈な日差しは、時間と共に沈む太陽に合わせて、空をオレンジ色にそめていく。日曜日の夕方は、次の日の仕事に備えて家路につく人が動き始める時間帯。秋の高い空に浮かぶ雲は夕日に照らされて、人々のこころをノスタルジックな気分にさせる。

あるバス停に、おばあちゃんと、お父さん、お母さん、男の子の4人が待っていた。みんなバスに乗るのかと思ったら、おばあちゃんだけバスに乗り込んだ。

「じゃあね。」

とバスに乗り込みながら振り返ったおばあちゃん。男の子が大きな声で「ばいばーい。またねぇ!」といいながら手を振っている。

どうやら、4人で日曜日を一緒に過ごしていたようだった。

「扉をしめます。」

とタッピーはドアスイッチを操作して、扉をしめる。おばあちゃんは席に座ったが、男の子はお父さんに抱っこされて、車内にいるおばあちゃんに向けて発車するまで手を振っていた。

◆◇◆◇

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タッピーが小学4年生のころのお話。タッピーは母、姉、タッピーの3人で3DKのアパートで暮らしていた。父と別居状態だった母は一人で家計を切り盛りするため、朝から晩まで働いていた。姉は高校生だったので、帰宅も遅いことが多く、タッピーは家に帰るといつも一人だった。いわゆるカギっ子だ。

そのため、母方のおばあちゃんがタッピーの家に泊りがけで面倒を見に来てくれることが度々あった。暮らしていたアパートは最寄駅から遠く、バスを使わないとこれない場所にあった。おばあちゃんは、わざわざバスに乗ってアパートまで来てくれた。おばあちゃんが来ると、一緒に公園に行ったり、買い物に行ったりして、楽しかった。

でも、おばあちゃんも実家にいるおじいちゃんの面倒を見る必要があり、1週間ぐらいすると帰らなければならない。

おばちゃんが帰った後、それまで忘れていた寂しさが突如目の前に現れて無性に悲しくなったのを覚えている。おばあちゃんが帰った後は、寂しさで涙があふれ出てくる。一人部屋の中で泣いていた。

◆◇◆◇

本当は皆一緒に住めば寂しさはないのかもしれない。でも色々な事情で別々に暮らしているのが実情だ。

だから、いつでも気軽に会いにいけるよう、公共交通機関の役割は大きいと思った。

夕日が少しずつ傾き、空は暗くなりはじめた。おばあちゃんは終点で降りて駅に向かっていった。もしも、あのおばあちゃんが離れてくらす家族にまた会いに行きたいと思ったとき、バスがあたりまえのように動いていないと困るのだ。そんな人たちの移動を手伝うため、タッピーは今日もバスを運転するのだった。


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