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「和魂洋才を、禅とデザインで試みる。」のメイキング。 #284

パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designの卒業制作に専心中の私。来週に迫っている中間発表は、ここまでの進捗報告の場であるとともに最終発表のリハーサルでもあるという今学期における山場の一つです。そこで、この記事では私自身の思考の整理も兼ねて、これまでのプロセスを書いてみます(ちなみに、前回の記事では卒業制作の内容を紹介しているのでご覧ください)。

デザインプロセス

2022年9月から始まった卒業制作の進捗を時系列に沿って書いていきます。

1. テーマ設定

まずは自分の興味のある分野を明確にすることから始め、哲学(特に環世界)、メンタルヘルス(特にうつ病や燃え尽き症候群)、資本主義(特にAttention Economy)、仏教(特に禅)に興味があることがわかりました。

こうしたテーマを先生や同級生に話していると、多くの人からコメントや情報共有をもらいやすいテーマがAttention Economyだったので、これを中心に据えることにしました。きっとスマートフォンの功罪についてはユーザーとして誰もが一家言あるということなのでしょう。

また、従来のデザインの「Change the world」的なスタンスよりも、「Change Myself」的な方が好みであることも分かってきました。こうして、「Attention Economyという情報過多な世界の中でどう生きるべきか」という方向性を定め、"How to stay sane in an insane world"というキャッチフレーズを掲げて進めていました。


2. New York Zen Centerでのフィールドワーク

仏教については本を中心に独学していたのですが、いつか実際に坐禅をしたり法話を聞いてみたりしたいと夢見ていました。Transdisciplinary Designに禅の修行をしている先生がいるので修行の様子を聞いてみると、New York Zen Centerという学校からほど近い場所で行っていることを知り、私のような一般の人(在家?)でも無料で参加できるということだったので、坐禅を体験してみることに。

その日から三ヶ月ほどが経過していますが、毎週日曜日に坐禅をしに通うのがすっかり習慣になっています。やはり私には禅の世界観が合っているということを確信し、卒業制作ではNew York Zen Centerと関わりながら進めていこうと思うようになりました。


3. ユーザー向けリトリート・デジタルデトックスの提案?

New York Zen Centerでの坐禅の体験を経て禅の良さを身に染みて感じるようになり、「このような体験をもっと多くの人にしてもらうにはどうすればいいのか?」という気持ちが湧き起こるようになっていました。

この頃は、「生産性を求められる日常でも非生産的な非日常を確保することが精神衛生上好ましいのではないか?」という仮説をもとに、非日常を確保する「儀式」としてリトリートやデジタルデトックスをデザインすることを考えていました。

しかし、この方向性で進めるのは難しいと感じるようになりました。というのも、「坐禅をすれば生きやすくなる気がする」という極めて個人的で主観的な体験を他人に伝えるのは難しいからです。疑似的に体験できるような方法はないかと試行錯誤してみたが、どれも上手くいきません。不立文字の教えそのものと言うべきか、坐禅の効能は坐禅しなければ分からないのかもしれません。

ちなみに、こうした方向性で取り組んでいるのがマインドフルネスです。坐禅から宗教的な要素や堅苦しさを取り除き、科学的な根拠で効能を説明するようにして、仏教徒以外にも坐禅や瞑想を親しみやすくしています。しかし、これらはすでに先人たちが切り拓いているので、わざわざ私が取り組む必要はなさそうです。

こうして「Attention Economyの中でユーザーがどのように過ごすべきか」という視点でアイデアを考えることに行き詰まりを感じ始めていました。


4. デザイナー向け倫理ガイドラインの提案

これまでは「どうすれば禅の教えを広く一般に伝えられるのか?」と考えていましたが、最近は「禅を学んだデザイナーとして何ができるのだろう?」というように視点を切り替えることにしました。すると、「禅の教えを参考にしてデザインをするとは? 禅の教えを他のデザイナーにも紹介するにはどうすればいいのか?」というテーマが浮かんでくるようになりました。まるでBtoCからBtoBへと想定顧客をシフトしたような感じです。

禅の世界では日常生活の全ての行いが修行であると言われているので、デザインという行為も禅になり得ます。たとえば、スティーブ・ジョブズも禅に深く魅了されて出家したい時があったそうですが、彼の禅の師匠である乙川弘文師に相談すると、「ビジネスも禅の修行である」というアドバイスを受けて踏みとどまったようです。


まとめ

以上のような紆余曲折を経た結果、現時点で目指しているのは「Zen-Inspired Ethical Guidelines for designers(デザイナー向けの禅にインスパイアされた倫理ガイドライン)」を提案することです。おそらくこの方向性で最終発表まで突き進むことになるでしょう。

デザインプロセスというのは紆余曲折・試行錯誤の繰り返しであることが伝わるかと思います。それでも、一歩ずつ前に進みながら何かを学んでいることは確かで、この学びのためには必要な遠回りなのです。

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