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Speculative Designへの向き合い方 #133

パーソンズ美術大学にて、Speculative Designというデザインについて学んでいます。Speculative Designでは「あり得る未来を想像し、想像した未来に存在するはずの物を現在に出現させ、未来の物を見ることをきっかけにより良い未来を考えさせる」ことを目指します。

でも、なぜSpeculative Designをするのかが自分の中で腑に落ちないままでした。ただ、授業を受けていく中で自分なりのSpeculative Designへの向き合い方がまとまってきたので、ここに書き記しておきます。


Speculative Designと構造主義

Speculative Designではあり得る/あるべき未来を描くことで、来たる未来の可能性を広げようと試みます。つまり、「未来ってこんな感じかな」というみんなが思い込んでいる「未来」を相対化してしまおうという狙いがあります。この考え方と構造主義に似た雰囲気を感じています。

構造主義は、個人の人生や社会構造などの過去を遡っていくことで、自分や社会が囚われている枠組み、構造が形成されてきた過程を理解する営みです。この構造主義を完成させたとされるのが、文化人類学者のレヴィ=ストロースです。

彼が専門としていた文化人類学でも相対化を重視します。これを文化相対主義と呼び、文化の間に優劣はないというのが文化人類学の主張です。フィールドワークを通じて自分たちの文化と異文化を比較して、自分たちの文化を相対化するという考え方が構造主義へと繋がっていきました。そして、この相対化を重視する構造主義的・文化相対主義的姿勢が、Speculative Designにも影響しているように思えます。

構造主義が過去の歴史から(通時的に)、文化相対主義が異文化理解から(共時的に)現在の社会構造を相対化するならば、Speculative Designは未来を考えることで現在を相対化すると言えるのではないでしょうか。共通するのは、現在の私たちが囚われている構造やバイアスを浮き彫りにするということです。


未来は存在するのか?

「未来なんてどうなるか分からないのに、考えても仕方がない」というのが、Speculative Designに向けられる大きな問いの一つです。未来を考えることの効果とは、いったい何なのでしょうか。ここで、私に浮かんだのが「なぜ世界は存在しないのか」というマルクスガブリエルが書いた本です。

マルクスガブリエルなどの哲学者が唱える新実在論には、意味の場という概念があります。これによると、想像上の世界も意味の場には「存在する」と言えます(本書では「警察官の制服を着用して月の裏側に棲んでいる一角獣でさえ存在する」という例が挙げられています)。この考え方を用いると、一度Speculative Designによってデザインされた未来も「存在する」と言えます。

ところで、予言には、予言の自己成就と予言の自己破壊の2種類があります。予言の自己成就とは、「○○が起こる」と予言した結果、予言しなかったら起こらなかったかもしれない出来事が起こることを言います。一方、予言の自己破壊とは、「○○が起きる」と予言した結果、本来起こっていたであろう出来事が起こらなくなってしまうことを言います。

Speculative Designも未来のことを「予言」する以上、この働きを持つと考えていいでしょう。ユートピアを描くことで希望の未来に向かう力を生んだり、ディストピアを描くことで絶望の未来を避ける力を生む。どちらにせよ、未来を描くことは何らかの影響を未来に及ぼすかもしれません。 

「これは未来から持ってきた代物です」と言って何かを現代に提示した時、新実在論的に言えば、その「未来」は存在します。その「未来」が存在することが予言としての効果を発揮し、私たちが経験する未来は変わり得る。これがSpeculative Designの持つ影響力だと私は解釈しています。


現在からの贈り物

個人的には、未来の物(Future Mundane)を現在に持ってくるという方法よりも、過去や現在のもので未来にも残りそうなもの、残るべきものを考えたりデザインしたりしたいです。このコンセプトを"present from present(現在からの贈り物)"と名付けておきましょう。はい、しょうもないダジャレです。名前はともかく、どんな未来が訪れたとしても役に立つものをデザインするという姿勢です。

あとは、今の社会の空気感を閉じ込めたタイムカプセルを作るというのはどうでしょうか。そのタイムカプセルを未来の人が開けるという未来をデザインするということです。今の私たちにできることは2022年の世界をできるだけ克明に残すことなのではないでしょうか?私たちが過去の文化や思想を理解できるのは、先人たちが何かを残してくれたおかげです。文字が生まれる前の思想はわからないし、レコーダーが生まれる前の人の声は聴けないし、写真が生まれる前の世界は見れません。

たとえば、パンデミックに対して我々が何を感じたのか、どのように苦戦してきたか、どのように打ち勝っていったのかを記録しておくことが、未来の人たちにとって最も役に立つのではないかと思います。現代人がペストやスペイン風邪など過去の感染症の歴史から学んでいるように、現代の情報をできるだけ記録しておいて、未来の人が私たちが学んだ教訓を活かせるようにお膳立てすることが未来への最高の贈り物だと思うのです。

私がSpeculateする未来は、「アーカイブ化された現在(2022年)にアクセスできる未来」です。私がnoteに記事を書いているのも、私が考えたこと、パーソンズ美術大学で学んだことを残しておくことで、未来の自分自身が振り返るため、あるいは海外留学を目指す人の役に立つためです。私のnoteは個人的な規模でしかありませんが、これを社会的・世界的にするようになれば「現在」が存在し続ける未来を生み出せるはずです。


まとめ

構造主義、文化相対主義、予言、新実在論、アーカイブなどのキーワードを用いてSpeculative Designについてつらつらと書いてみました。Speculative Designとは何かを考えるきっかけになれば幸いです。

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