トイレットペーパーの未来はHF値が握っている?
過去2回にわたって、トイレットペーパーには表と裏があってそれにはエンボス加工が鍵になっていること、また、ほぐれやすさが重要であることについて紹介しました。
今回は、トイレットペーパーの品質チェックについて説明します。
日本ではJIS(日本工業)規格によって、トイレットペーパーの重さ、破れにくさ、ほぐれやすさ、長さ、紙幅、芯の径(内径)、巻取りの径(外径)などが決まっています。
逆に、規格がないのは、「ミシン目の間隔(長さ)」ですね。
どの水洗トイレでも安心して使ってもらうためには、これらの規格を満たすことが最低条件となります。
例えば、トイレットペーパーの紙幅や巻き取った状態の外径がバラバラだと、自宅のホルダーに付けることすらできませんからね。
JIS規格とは別にトイレットペーパーを選ぶうえで一般的に気になるのは、「手触り」や「肌ざわり」というような言葉で表現される部分でしょうか。
王子ネピアが一般の方々を対象にトイレットペーパーの評価ポイントを調査したところ、下図の結果となりました。
この結果、重視するポイントとして最も多いのが「肌へのふんわり感」で、つづいて「柔らかさ」ということがわかりました。
JIS規格で定められている破れにくさやほぐれやすさであれば数値化しやすいのですが、消費者が求める「ふんわり感」や「柔らかさ」は感覚的なものなので、数値化は容易ではありません。
「ふんわり感」や「柔らかさ」、つまり「手触り」を理解するには、まずは感覚部について知ることが必要です。
私たちの指先は他の部分と比較して触覚が鋭敏だと言われています。
下図は体の部位における感覚の目の細かさ(空間分解能)を表したものです。
この図では、離れた2点に刺激を加え、これらの刺激が2点で生じているものであると識別できる最も短い距離(2点識別閾)を表しています。
手のひらだと約10ミリ、人さし指の先端だと約2ミリ離れた2点の刺激を識別できることがわかります。
かなり敏感だと思いませんか?
トイレットペーパーはまさに指先で触るものですからとても繊細な感覚を測る必要があるということです。
王子ネピアの開発者によれば、これまでは、手触りの評価はどちらかというと「職人だのみ」という場合が少なくなかったそうです。でも、それでは職人の育成に時間がかかりますし、主観的なので再現性も難しい、また、モノづくりに活かそうとすると、バラつきも生じてしまいます。
そこで、登場したのが「TSA(ドイツ製)」です!
TSAとは、Tissue Softness Analyzerの略で、つまり、ティッシュなどの柔らかさや滑らかさを測定する装置です。ティッシュ以外にも、トイレットペーパー、キッチンタオル、紙おむつ、生理用品などのソフトネスの測定も可能で、家庭紙業界では数年前から導入されているとのことです。
測定項目は、手触り感(HF 値)、柔らかさ、滑らかさ/粗さ、剛性などです。
なかでも、手触り感をあらわす「HF(ハンドフィール)値」は、柔らかさ、滑らかさ/粗さ、剛性などの測定結果を組み合わせて、複雑で非線形の数学アルゴリズムによって計算されるとのこと。
かなり複雑で精密な機械です。そして、この測定装置のお値段は、高級車がかえるほどの高額のようです……。
しかし、この装置のおかげで、手触りという感覚的な部分が数値化されました。
数値化により、トイレットペーパーの開発に携わる人たちの中で、品質を共有しやすくなりました。また、試行錯誤の結果を検証しやすくもなりました。
製作技術と評価・検証技術の双方がレベルアップすることで、トイレットペーパーの品質が向上します。このような技術革新があるからこそ、トイレットペーパーは進化しつづけるのですね。
今のところ「HF値」はトイレットペーパー等の製造メーカー内での指標として用いられているようですが、これからは、「トイレットペーパーはHF値で選ぶ!」なんてこともありうるかもしれません。
私としては、日本のトイレットペーパーがいかにすごいかを世界中の人に知ってもらいたい、という思いもあります。そういった意味では、世界のトイレットペーパーをHF値で比較し、トイレットペーパーアワードとして、世界一を決めたいところです。
「世界一肌ざわりの良いトイレットペーパー」と言われたら、一度は使ってみたくなりませんか!?
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