トイレットペーパーは、実は水に溶けてはいなかった
トイレットペーパーの肌ざわりの秘密は前回説明したとおりですが、肌ざわりが良いのに拭くときには破れない、しかし水に濡れたらほぐれてトイレに流せるのって、よく考えたら、とんでもなくアクロバティックなことをしていると思いませんか?
今回は、この相反するような特徴を持つトイレットペーパーの構造の謎を王子ネピアの開発・製造担当者に聞いてきました。
みなさんは、水に溶ける紙とそうでない紙、というような言い方を聞いたことがありませんか?
例えば、ボックスティッシュは水に溶けないのでトイレに流しちゃだめ、というような感じです。
そもそも「溶ける」というのは、単純に物質が混ざり合っている状態ではありません。
水に何かを混ぜたとして、しばらく時間をおいて、底に沈んでいるようでは溶けているとは言えないわけです。
では、トイレットペーパーはどうなのでしょうか?
基本的に紙が濡れたときの破れにくさは、湿潤紙力剤によって生まれているものだそうです。
湿潤紙力とは水に濡れた時の強度のことで、紙幣やコーヒーフィルター、段ボールなどにも湿潤紙力剤は使われています。
紙は繊維同士が絡み合ってできており、水中ではその絡み合いが弱まって強度(紙力)が下がります。湿潤紙力剤は繊維と繊維の間に入って、その絡み合いが弱くならないようにする効果があります。このような仕組みで、濡れても破れにくい紙になるわけですね。
トイレットペーパーでは、この湿潤紙力剤の添加量を微妙に調整することで、少しの水に濡れても破れにくく、水に浸すとほぐれやすいというバランスを作り出しているのです。
バランス調整は繊維レベルから始まっている
この他にも、繊維が絡み合う力を調整するために、様々な工夫がされているそうです。
例えば、王子ネピアでは、繊維のもととなる針葉樹(繊維が長くて太い)と広葉樹(繊維が細くて短い)の配合のバランスを調整したり、繊維を叩いてつぶすこと(叩解・こうかい)で、繊維の表面を傷つけて絡み合う力を高めています。
このように、湿潤紙力剤の量、針葉樹と広葉樹の配合バランス、繊維の叩解などによって、拭くときは破れにくいけど水に浸すとほぐれやすいという状態を実現しています。
つまり、トイレットペーパーは、水に濡らすと細かくほぐれるように出来ているのであって、溶けてはいないのです。
たしかに、トイレットペーパーを水の入ったコップに入れてかき混ぜるとものすごく細かくほぐれていくのですが、しばらく放っておくと底に沈殿します。
一方で、ティッシュを入れてかき混ぜると、ほとんどほぐれず、そのままぐちゃぐちゃになってかき混ぜ棒として使用した割りばしに絡まりました。
(出典:一般財団法人 日本文化用品安全試験所「トイレに流せる製品の試験・検査」)
トイレに流してよいのはトイレットペーパーで、ティッシュは詰まるので流してはいけないということです。
日本では、この「トイレットペーパーの水に対するほぐれやすさ」に関する規格(JIS P4501)も定められています。ざっくり言うと、300ミリリットルの水が入ったビーカーにトイレットペーパーを入れてかき混ぜ、100秒以内にほぐれるという試験をクリアする必要があるのです。
ちなみに、最近は節水便器が普及していますよね。日本レストルーム工業会によれば、1回あたりに流す洗浄水量は、1990年代頃までは13リットルが主流でしたが、最近の大便器は大6リットル、小5リットル以下になっています。半分以下ですね。
節水はいいことではありますが、1回あたりに使うトイレットペーパーの量は、おそらくそんなに大きく変わっていないと思います。
ほぐれやすさのJIS規格を満たしているのに流れない!となったら、大変ですよね。
節水技術とほぐれやすさの技術、切磋琢磨しながらさらなるレベルアップを期待したいところです。
手元で破れず、水に濡れたらほぐれる!
普段何気なく使っているトイレットペーパーは、さまざまな技術を駆使することで絶妙なバランスを保っています。そんな日本のトイレットペーパーは、世界に誇る芸術品だと思います!
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