うんちをのぞけば、社会が見える
noteをご覧になってくださっているみなさん、はじめまして。
編集者の高部と申します。
「お前、誰だよ」という声が聞こえてきそうな気もしますが……、気を取り直して、自己紹介をさせていただきますと、このnoteの連載をまとめた書籍『うんちはすごい』(イースト・プレス刊)が11月10日(いいトイレの日)に刊行されまして、その担当編集をさせていただいたのが私でございます。
今回から、書籍『うんちはすごい』の刊行を記念いたしまして、著者の加藤篤さんのインタビュー記事を数回に分けて掲載させていただければと思います。
まあ、平たく言ってしまえば『うんちはすごい』の宣伝ということなんですが、この連載を読んでくださっている方々は、うんちやトイレのすごさに興味を持って頂いていると思いますので、このインタビューでは、本には書けなかった「うんちこぼれ話」を、たっぷりお伝えできたらと思っております。お付き合いいただければ幸いです。
そんなわけで第1回のインタビューはじまりはじまり。
高部:今日はよろしくお願いします。
加藤:よろしくお願いします。
高部:早速なんですが、加藤さんが代表をされている日本トイレ研究所ってなんなんですか?
加藤:半年以上連載でお付き合いしてきて、いきなりその質問からですか?
高部:いや、意外と聞く機会がなかったもので。
加藤:日本トイレ研究所は「トイレ」を通して社会をより良い方向へ変えていくことをコンセプトに活動しているNPOです。トイレから、環境、文化、教育、健康について考え、すべての人が安心しトイレを利用でき、共に暮らせる社会づくりを目指しています。
高部:個人的には、秘密の実験室みたいなところで、白衣の研究員が試験管を振ってるイメージだったんですけど。
加藤:どんな想像をしていたんですか……。
社会の課題に対してトイレという切り口でアプローチすることが私たちの取り組み方です。実践しながらその方法を研究しているという感じです。だから試験管は振りません(笑)
高部:具体的にはどんなことを?
加藤:例えば、音楽フェスって仮設トイレがズラーッと1列に並べて設置されるのですが、あれってすごい混雑しますよね。それをどうしたら解消できるのかを研究したりもします。
高部:確かに花火大会とかでもすごい並んでますよね。
加藤:トイレの中に人が入っていなくても、ドアが閉まってしまうので、使用中かどうかがわかりにくいんです。そのため、実際は空いているのに、人が並んでしまったりする。実質の稼働率は7割で、とても非効率ということがわかったんです。
高部:3割近くが空いてるってことですか?
加藤:そうです。それがわかってから、トイレの前に立って「空きましたよ!」と案内するスタッフを配置するようにしたんです。そうするとトイレ待ちの列が3倍速ぐらいで解消するんですよね。この活動をトイレナビゲーションと言います。
高部:最近はATMなんかも一緒ですよね。一列に並んで、空いたころに誘導する形。
加藤:あの待ちかたはフォーク型といって、ストレスを減らしてくれます。隣の列がはやく進んで自分の列がなかなか進まないとイライラしてしまうので、公平性を保ちながら待ってもらうという環境づくりが大事です。
高部:たしかに、スーパーのレジとかも自分の列よりほかが早いと、ちょっとイラつくことあります。
加藤:それから、人が目で見て直感的に把握できるトイレの数があります。仮設トイレだと、だいたい10基ぐらいですね。10基以上並べてしまうとダメです。さらに非効率になります。
高部:ちなみに3割ぐらいが空いているというのは何でわかったんですか?
加藤:炎天下に、ずーっと観察してて。「あれ、空いてんじゃんって」
高部:うわ、すごい地味な作業。
啓発が主な活動とはいえそういう研究もされているんですね。
トイレ研究所のその他の活動についてはコチラから→https://www.toilet.or.jp/
加藤:音楽フェスで活動するときは、背中に「日本トイレ研究所」って書いてあるTシャツを着てやるんですけど、あるとき、お客さんに「もっと研究しろよなー」って、ボソッと言われたことがあります。
高部:どういうことですか(笑)
加藤:たぶん、その会場にあった仮設トイレが良くなかったのでしょうね。熱いし、臭いし、狭いし、何とかしてよってことを、「もっと研究しろよなー」って言葉に込めたんだと思います。かなり、頑張ってたんですけどね......
高部:うわ、つらいっ。
加藤:でも、世の中の人はトイレをどうしてほしいのか、どうやったらよくなるのか、もっと声を上げなきゃいけないと思うんです。
高部:と言いますと。
加藤:だって食べ物に対しては言いますよね。こんな風な味がいいとか、こんな場所で食べたいとか。だからトイレについてももっとこうしたいというのを話し合うべきなんです。
高部:いや、でもトイレと食べ物を同じレベルで語るのはどうかと……
加藤:いや、その認識が間違ってると思うんです。
うんちをしないでおいしく食べることができますか?
高部:どういうことですか?
加藤:私たちは、寝て、食べて、動いて、うんちを出してこそ、快適に生活できる生き物です。だから、うんちをするのは、食事をすることと同じくらい大事なんです。でも、実際は「出す」というところがすっぽり抜けてしまっていますよね。
高部:なるほど。
加藤:今回、執筆のために取材をしてみて再認識したのは、私たちの身近なところにトイレやうんちに関わる様々な工夫や技術がたくさんあり、生活に密着しているということでした。それにも関わらず、うんちのことを話すのってちょっと憚られる空気がありますよね。
高部:たしかにうんちって身近なのに、話すのってちょっとタブーな感じがありますね。
加藤:たとえば、小学校の学習指導要領に、食べること、休むこと、運動することという文字はちゃんとあるんですが、「排泄」という文字は出てきません。教えないから学べない。
高部:そういえば学校でならった記憶がないです。性教育はあるのに。
加藤:学校では食育に力を入れていますが、食べることに注目するのであれば、出すことにも目を向けてほしいですね。本にも書きましたが、うんちは子どもの成長にとってものすごく大事なんです。
高部:確かに早いうちに知っておきたいかも。
加藤:今回『うんちはすごい』という本を出させていただきましたけど、私が一番大切だと感じるのは、うんちを切り口にして社会を見ると、いろんなことが見えてくるってことなんです。
高部:うんちをのぞくと社会が見えるということですか?
加藤:そうです。例えば、さきほど食べ物の話をしましたが、インプットである食事の世界だけでは見えないものがある。食が光の部分だとしたら、うんちはいわば影の部分。でも、その影となるアウトプットの部分にこそ物事の本質である大切なことが隠されているんです。
高部:なるほど
加藤:それらを通して見えてくることこそが、私にとっての最高の「すごい」なんです。それが、この活動を続けるモチベーションにもなっているし、社会をよくするためには絶対に必要だと思っているんです。
高部:本の中でも触れていますけど、うんちが関わる領域は社会、教育、健康、テクノノロジー、災害と、本当に幅広いですよね。
加藤:うんちは、大学教授も子どもも同じテーブルについて話をすることができるテーマです。影の部分だからといって見過ごしてしまうのはもったいないですよ。全員に関わることですからね。
<次回に続く>
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